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198『オイドが島にやってきた』

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銀河太平記

198『オイドが島にやってきた』氷室睦仁 




 ウムムムゥ……


 思わず唸ってしまった。

 連絡所のフーちゃん(胡盛媛)がアタフタとお岩食堂に助けを求めて、お岩さん初め食堂の関係者や近場のカンパニーの者たち(氷室カンパニー、つまりうちの従業員たち)がやってきて、大統領の受け入れ準備を始めた。
 漢明はメンツを重んじる国なので、たとえお忍びといっても、清掃、飾りつけ、撮影記録係の準備と配置、タイムテーブル作成とやることがいっぱいある。

 あ、思わず唸ったのは、その準備のことじゃない。

 準備は、アタフタしながらも微笑ましく効率的にとまではいかないけど、日漢仲良くできた。

「いやあ、フーちゃんの人徳だねえ」

 ランチの準備をわたしと二人でやりながらお岩さんが目を和ませる。

 そこへ孫大人まで出てきて、細かいところに目の行き届かないうちの従業員を指導してくれる。島の要人たちはようやく劉宏大統領訪問の知らせを受けたところだろうか。孫大人の情報の早やさと行動力は大したものだ。

 で、唸ったのは、孫大人に対してでもない。

 受け入れ準備が、ほぼ整うと同時に上空に現れた大統領のプライベートボート。

 なんと、さっき食堂のニュースで見たばかりのマイドだ。

 グィーーン……と静粛性を誇るマイドは音なんかしないんだが、そんな可愛らしい擬音が浮かんでくるような長閑さで、漢明連絡所の上空を一周する。
 浪人時代に東大阪工業団地のオッチャンたちと手作り同然に手掛けた機体なので思いもひとしおなんだ。

「「おお」」

 今度はお岩さんも加わって声があがってしまった(;゚Д゚)。

「アハハ、まるでオケツじゃないか!」

「オ、オイドだ(;'∀')」

「オイド、古い日本語でケツのことだね」

 それはマイド・009という試作機だ。性能に問題は無いんだが、そのあまりにオケツめいた外観から二機でお蔵入りになった、いわば出来損ない。お蔵入り決定になったときオッチャンたちが『オイド』という固有機種名を付けた。

「ニュースで見た時は、あんなフォルムじゃなかったんじゃないのかい?」

「後ろのボディーを改変したんだろうねえ、恥ずかしいから(^_^;)」

「でも、なんで、あんなフォルムなのさぁ?」

「製造費を抑えるため、安価なV6エンジンを二つ積んでるんだ。V6は信頼性も高いしパルスバイクを当て込んで在庫も多かったからね、小型機用のV8を載せるよりも安くついた」

「あ、下りてくる」

 オイドは重心が後ろにある、そして、調整しきれていないのか、まるで子供がお尻を振って座るような感じで降下してきた。


 プスン プププ プ プ プ


 圧も未調整なようで、待ち受ける日漢の者たちの微笑ましい笑いが起こる中に、オイドは着地した。

 カチャ

 ウォオ……

 ハッチが開いて出てきた劉宏大統領は、反則なくらいに可愛くて、日本側から素直なため息が漏れた。



☆彡この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女

※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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