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188『ヒンメル貴賓室で殿下の呼び方に悩む』

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銀河太平記

188『ヒンメル貴賓室で殿下の呼び方に悩む』胡蝶 




 全長1200メートル、基準排水量600万トン。


 いやはや、とんでもない戦艦だ。

 戦艦である以上、そのキャプテンは提督あるいは艦長と呼ばれるべきなんだろうが、ついさっきまで内親王殿下に付き従っていたアルルカンは船長と呼ばれている。

「ウフフ、あいかわらず綺麗で面白い船長さんです(^▽^)」

 殿下は、まるでクルージングの旅に出たら、乗り組んだ船が修学旅行の時に乗った船で、船長も修学旅行の時のままであったように喜んでおられる。

「殿下、ご不自由なことがあれば、なんなりとお申し付けください。船長とも相談してご希望に沿うようにいたします」

「では、さっそく」

「はい」

 姿勢を正してハンベを記録モードにする。

「記録しなくていいです、一言だけですから」

「ハッ」

「殿下と呼ぶのは勘弁してください、ついこないだまで胡蝶さんの部下だったんですから」

「いまは立場が違います」

 そう、ついこないだまで、わたしは南町奉行虎ノ門交番の所長、殿下は所属の巡査であった。

 所轄の虎ノ門界隈の状況が悪化したので、殿下には城内にお戻りいただき、わたしも元の小姓頭に戻った。

 それが、一昨日の朝、お庭の東屋に呼ばれ心子内親王殿下のヒンメルへの避難と警護にあたるように命ぜられた。

 帝都東京の御用邸をお出ましになられてから、西之島、沖縄、ヒンメル、扶桑の御城、虎ノ門、再びお城、そしてまたヒンメルへのご乗船。

 当たり前なら、赤坂の御用邸で皇嗣としてお過ごしになっておられるお方だ。おろそかな扱いなどできようはずがない。ヒンメルの受け入れ態勢が整うまでは、わたしがお側に仕えしなくてはならない。

「せめて、ヒンメルにいる間はこころと呼んでください」

「は、はあ」

「苗字の呼び捨てが一般的なんでしょうが、世間でいう苗字はありませんし、須磨宮は神社みたいだし(^_^;)、こころというのも初等科の頃から友だちも先生も、そう呼んでくれていましたから。いちばんしっくり的な?」

 そうなのだ、正式にお呼びしたら須磨宮心子内親王殿下、ちょっと言いにくい。

「いま、正式な呼び方を想われたでしょ、スマノミヤココロコナイシンノウデンカ」

「は、はあ」

「とくにココロコっていうのは舌を噛みますからね、ココロでいいです。母も普段はココロとかココちゃんとか呼んでましたから。所長も交番ではココロって呼んでくださったじゃないですか」

「はい! それでは交番に居た時の呼び方でいきましょう、いや、いこう( #`皿´#)!」

「はい、所長(^▽^)!」

 ビシッと敬礼で返される、こちらも敬礼で応える。

 形と言うのは嵌ってしまうと楽だ。遅くとも明日にヒンメルは周回軌道を離れる。その時までの辛抱だ。



 トントン



 貴賓室のドアがノックされる。殿下、いやココロが「どうぞ」という前にドアが開く。

 この無礼者は、あいつしかいない。

「失礼するっす」

 見かけは美少女、喋らせたら真逆というのが二人立っている。

「あら、なにかしら、二人そろって?」

「ブリッジにホロ通信が入るっす、ブリッジに来てほしいって船長の伝言っす」

「五分後、将軍から胡蝶殿に宛ててでござる」

「わたしにか?」

「そうっす」

「分かった」

「わたしも行っていいのかなあ?」

「むろん、と言うか、将軍も同席していただきたいと希望されているでござる」

「行きましょう、所長」

「はい、いや、うん」



 悪い予感がする、業務連絡ならハンベで行えばすむ話だ。それをわざわざ、ホロ電でヒンメルのブリッジに掛けてくるというのは、すごく正式の、ブリッジの全員を証人にとるような連絡だ。

 ツナカンとサンパチに先導され、殿下、いやココロといっしょに貴賓室を後にした。



☆彡この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 
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