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183『アジト閉鎖・2』

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銀河太平記

183『アジト閉鎖・2』アルルカン 




 二百年前の地球にクラスター爆弾というものがあった。


 砲弾、爆弾、あるいはミサイルで敵の直上に運搬され、設定された高度で炸裂し、数百の子爆弾をばら撒き、それぞれの子爆弾が地上で炸裂する。

 装甲車両には効果は薄いが、対人攻撃には通常爆弾の数十倍から数百倍の威力があって、その残虐さから、その使用は禁止、あるいは制限されていた。



「原理的には同じなんだがなあ……」



 操縦桿を倒しながらマークが呟く。

 シャトルは機体を左に傾けて旋回し、もう一度新戦場の上を飛ぶ。

 眼下にはマス漢の第一空挺旅団のロボット兵が5人、10人とまとまって寝転がり、そのまとまりが200組近く並んでいる。

 みんな、あおむけの状態で行儀よく並んでいる。水着でも着ていれば砂浜で行儀よく日光浴をしているように見えるのだが、全員完全装備。そして、人間の状態で言えば死んでいる。

「恐るべし、パルスター弾だな、マーク」

「パルス波でCPとメモリーだけを破壊している。マス漢のロボット兵はバックアップなんかとってないから一巻の終わりだ」

「扶桑としては人道的な配慮なんだろが、こうやって放置しているとかえって残酷だ」

「宇宙海賊が言うかぁ」

 扶桑のパルスター弾は、CPとメモリーを焼き切るのだが、遅延プルグラムされていて敵の個体が活動を停止する前に一定の行動を強いるようになっている。

 武器を捨てて、直近の仲間と並んで寝転がる。寝転がったあとに打ち込まれたパルス波は最大になってCPとメモリーを焼き切ってしまう。そのタイムラグは30秒ほどで、結果的に5人から10人のグループになって横たわる。

「扶桑の人道的措置なんだろうが、俺には意趣返しに見える」

「なんの意趣返しだ?」

「先のマース戦争で、マス漢は捕虜の虐待をやりやがった」

「ああ、赤間関の露頭遺跡か」

「ああ、男は首を切られ、女は凌辱されていた。それが、まんまミイラになって発見されたのが五年前」

「森ノ宮親王殿下だったわね、発見者は」

「公式には旅の商人になっているがな」

「それで、戦争をするにも人道的にということなんだろう」

「いったい誰の考案だ?」

「去年就任した大老の発案らしいわよ」

「穴山新右衛門だったか……」

「ああ、バカな爺さんだ」

「そうかぁ、大老と言えば将軍の直轄人事だろ、道隆将軍はなかなかの人物だと俺は見てるぞ。それに……」

「それに、なんだ?」

「いや、なんでもない」

 大老となれば、奥の院のあいつが絡んでいるはずだが、これはマークと云えど軽々には教えてやれない。

 それよりも、もう少し、この火星の争乱を見極めておかなければ撤退もできない。

 こう見えて、アルルカンは優しい宇宙海賊なんだ。

「下りてみよう」

「おいおい、ここは戦場だぞぉ」

「このシャトルはステルスだ」

「光学迷彩はできないんだろ、スイッチに『使用不可』のテープが貼ってあるぞ」

「簡易迷彩ならできる。それに、このアルルカンは、まだ人の弾を受けたことが無いからな」

「ヘイヘイ、大した自信だ」

 歩兵戦闘車が二両擱座している間に着陸すると、簡易迷彩のスイッチを入れてシャトルを出る。

「赤外線で感知されるかもな」

「大丈夫、前後の二両もまだ熱を持ってる。あんまり心配してると禿が広がるぞ」

「俺は禿げてねえ」

「そうかぁ」

「イテ、なにしやがる!」

 後ろから髪の毛を掴んでやると、ちゃんと頭の皮が付いてくる。

「ほんとうだぁ」

「分かったか!」

「ああ、これだけ心配していたら、とうに禿げてるかと思ったがな」

「あんまりオチョクッテると、後ろからケツ揉むぞぉ」

「いやぁ~ん、マークの変態ぃ~」

「気持ち悪い声出すなぁ!」

「………………」

「ん、どうかしたか?」

「こっち!」

 微かに腐敗臭がする。

 ロボットでも外殻は生体組織で出来ていて、本体が機能停止すれば腐敗が始まるが、ヒトのそれよりは数時間から数十時間遅れてやってくる。

 この臭いは、ひょっとして人間が混じっていたか、あるいは……



「これは……」



 上空から見ていては気が付かなかったが、古い遺棄死体が連なっている。

 状態から見て、十日以上たっているものもあり、ちょっと正視に堪えない。

 戦闘が膠着状態に陥った場合、相互に連絡を取って戦場整頓を行う。

 遺棄死体をそのままにしておいては、士気にかかわるだけではなく、衛生上好ましくない。

 敵の位置が風下である場合は、嫌がらせのためにあえて放置することもあるが、ロボットとはいえ味方の骸をそのままにしていては味方の士気がもたなくなる。

「いったん戻るぞ」

「あ、おい、アルルカン」



 アジトは撤退する。

 しかし、もう少し戦争の成り行きは見守ることにする。衛星軌道上の我が母船、ヒンメルからな。



☆彡この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
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