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165『再会』
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銀河太平記
165『再会』緒方未来
骨折3名 銃創2名 ショック性発熱3名 おまけに突発性電脳障害2名 それと検死報告1
合計10名のカルテと検死報告書を整理して、使用薬品とメディカルストックのチェックと発注。
えと……メディカルストックの発注はミスがあってはいけないので、明日点検してからやる。
「あ、手ぇ抜いたなぁ」
「うるさい!」
ボス…………ポトン
投げたボールは器用に躱されて、背後の壁にめり込んで、人を馬鹿にしたようにポタリと床に落ちる。
医務室は休憩室の一画にあって、床や壁は休憩室と同じ低反発の樹脂で被覆してある。
少々暴れたりケンカが起きても怪我をしないようにという配慮で改装してある。
にもかかわらず、10名の怪我人と運の悪い死者が出て、とうとうベースに変えることもできずに医務室に泊まり込むことになった。
診療所の女医を一人で残しておくこともまずいというので、所長の依頼を受けた署長の命令で護衛の三等軍曹が付いている。
「え、おま……」
「ゲ……」
臨場してぶったまげた……お互いに。
最初こそ分屯署の軍警が8人も臨場してくれていたんだけど、現場検証が終わると交代でやってきた三等軍曹を置いて引き上げていった。診療所の車検切れは、ちょうど鉱山の入り口でエンスト、帰るころには直ってるだろうと期待を見事に裏切って採掘所のゲートで『月社会のインフラの貧弱さ』を現すオブジェになり果てている。
「診療所の薮医者ってミクのことだったのか!?」
「なによ、この三等兵!」
「三等兵じゃねえ、三等軍曹だ!」
お互い三年ぶりなんだから、もう少し言いようもあるんだろうけど、聞くと見るとは大違いの配属先。そして幼なじみだからこそ、素直に再会の喜びを現せない。いや、自分の方が不運だと思うポテンシャルのために――こいつは自分よりは楽してる――と思ってしまう心の貧しさ。
「おまえ、ロボットの電脳までいじったのか」
「仕方ないじゃん、この採掘所ロクター(ロボット用ドクター)もいないんだから。知らんふりして暴走されたら困るでしょ」
ほっとけよ、そんなの……とは言わない。
ダッシュも、まだ真っ直ぐなもの失うところまではきていないようだ。
「噂じゃ、ピタゴラスの奉行所勤務になったって聞いてたぞ」
「一瞬、話はあったんだけどね、老中の孫娘だからって、そんなのイヤじゃん。ダッシュこそ、連合国の交換留学生でコペルニクスのムーンフォースに行ったって」
「コペルニクス的展開という奴なんだろ、西ノ島紛争からこっち、地球も月も、どこか緩んでる」
「……ああ、なんか計算合わない」
「人生の計算なんて、そうそう合うもんじゃねーだろ」
「違うのよ、メディカルストックの支出と残金が合わないのよ」
「ちょっと見ていいか?」
「あ、うん」
本当は部外秘なんだけど、ダッシュの声の響きは昔通り、見せてもいいと思った。
「……これは、部外者が見ても首をひねるなぁ……桁が合わねえ」
「こんど、交代のドクターが来たら奉行所まで行ってくる」
「それがいい」
賛成してくれてからメモをくれた。
メモには――念のためスクショを撮っておけ――とあった。
あくる日、シャトルバスで帰る前に確認したら、メディカルストックの会計の数字は――正しく――書き換えられていた。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地
165『再会』緒方未来
骨折3名 銃創2名 ショック性発熱3名 おまけに突発性電脳障害2名 それと検死報告1
合計10名のカルテと検死報告書を整理して、使用薬品とメディカルストックのチェックと発注。
えと……メディカルストックの発注はミスがあってはいけないので、明日点検してからやる。
「あ、手ぇ抜いたなぁ」
「うるさい!」
ボス…………ポトン
投げたボールは器用に躱されて、背後の壁にめり込んで、人を馬鹿にしたようにポタリと床に落ちる。
医務室は休憩室の一画にあって、床や壁は休憩室と同じ低反発の樹脂で被覆してある。
少々暴れたりケンカが起きても怪我をしないようにという配慮で改装してある。
にもかかわらず、10名の怪我人と運の悪い死者が出て、とうとうベースに変えることもできずに医務室に泊まり込むことになった。
診療所の女医を一人で残しておくこともまずいというので、所長の依頼を受けた署長の命令で護衛の三等軍曹が付いている。
「え、おま……」
「ゲ……」
臨場してぶったまげた……お互いに。
最初こそ分屯署の軍警が8人も臨場してくれていたんだけど、現場検証が終わると交代でやってきた三等軍曹を置いて引き上げていった。診療所の車検切れは、ちょうど鉱山の入り口でエンスト、帰るころには直ってるだろうと期待を見事に裏切って採掘所のゲートで『月社会のインフラの貧弱さ』を現すオブジェになり果てている。
「診療所の薮医者ってミクのことだったのか!?」
「なによ、この三等兵!」
「三等兵じゃねえ、三等軍曹だ!」
お互い三年ぶりなんだから、もう少し言いようもあるんだろうけど、聞くと見るとは大違いの配属先。そして幼なじみだからこそ、素直に再会の喜びを現せない。いや、自分の方が不運だと思うポテンシャルのために――こいつは自分よりは楽してる――と思ってしまう心の貧しさ。
「おまえ、ロボットの電脳までいじったのか」
「仕方ないじゃん、この採掘所ロクター(ロボット用ドクター)もいないんだから。知らんふりして暴走されたら困るでしょ」
ほっとけよ、そんなの……とは言わない。
ダッシュも、まだ真っ直ぐなもの失うところまではきていないようだ。
「噂じゃ、ピタゴラスの奉行所勤務になったって聞いてたぞ」
「一瞬、話はあったんだけどね、老中の孫娘だからって、そんなのイヤじゃん。ダッシュこそ、連合国の交換留学生でコペルニクスのムーンフォースに行ったって」
「コペルニクス的展開という奴なんだろ、西ノ島紛争からこっち、地球も月も、どこか緩んでる」
「……ああ、なんか計算合わない」
「人生の計算なんて、そうそう合うもんじゃねーだろ」
「違うのよ、メディカルストックの支出と残金が合わないのよ」
「ちょっと見ていいか?」
「あ、うん」
本当は部外秘なんだけど、ダッシュの声の響きは昔通り、見せてもいいと思った。
「……これは、部外者が見ても首をひねるなぁ……桁が合わねえ」
「こんど、交代のドクターが来たら奉行所まで行ってくる」
「それがいい」
賛成してくれてからメモをくれた。
メモには――念のためスクショを撮っておけ――とあった。
あくる日、シャトルバスで帰る前に確認したら、メディカルストックの会計の数字は――正しく――書き換えられていた。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地
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