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159『海の中の木漏れ日』
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銀河太平記
159『海の中の木漏れ日』ニッパチ
潜水モードにした機動車は深度20メートルで西に流されている。
「36時間は、このペースですが御辛抱ください」
「いいえ、こんなにゆったりとするのは久しぶりだから……それに、贅沢にも柔らかな木漏れ日も付いていますし」
「木漏れ日……ああ、これですね」
ヨイチさんと見上げた海面には数万個の軽石が浮かんでいて、そこを透過した日光がまるで木漏れ日のよう。
敵に探知されないように、機動車は動力を切って黒潮反流という海流にのって潜行している。
時速0・5ノットほどだけども、流れは確実。この海流に乗っていく。時おりの小噴火で噴き上げられた軽石が南西諸島方面に流され、沖縄などで建材や装飾品の材料にされている。ヨイチさんは、その黒潮反流に機動車を潜らせ、ラダーを操作するだけで深度と進路を固定している。
「西之島は火山島だから緑が少ないでしょ、木漏れ日なんてショッピングモールのアプローチぐらいですから、とても和みます」
「ニッパチさんは西之島を出るのは初めてなんですね」
「はい、元々は本土で使われていたんですけど、単なる多用途作業機械でしたから記憶がありません」
「ロボットの登録はなさらないんですね?」
「ええ、島を出るつもりはありませんでしたから」
「技研に着いたら発行してもらいます」
「あ、それは……」
「むろんフェイクです。街を歩いたり交通機関を利用できる程度の」
「あ、それなら嬉しいです。胸のオペが終わったら基本的には用事がありませんから、お散歩できると嬉しいです」
「まあ、技研の周囲と江ノ島ぐらいですが」
「十分です」
「そうだ、このタブレットに観光案内が入っています。一昔前の10ペタモデルでおもちゃみたいなのですが」
「ありがとうございます! こういうのはオフラインがいいですね。ウィルスとか枝が付く心配とかありませんから」
「おお、少し流れが早くなってきました、1ノットあります。これなら20時間ほどで海面に出られます」
「わたしは、軽石の木漏れ日でもいいですよ」
「状況の許す限り可及的速やかに参ります」
「フフ、なんだか軍人さんみたい」
「アハハ、予備役ですが、陸軍准尉でありますから」
「あ、そうでしたそうでした。マイさん……元帥とは満州戦争からごいっしょなんですよね?」
「はい、興隆鎮以来副官を拝命しておりました」
「今は記念館の……」
「はい、管理人をやっております。あ、本土では元帥はお亡くなりになったことになっておりますので」
「承知して……ガガ ガ ピー……あら、ノイズ……が」
「ガガ……ケーブル直結……ピー……ですから」
「ですね、浮上でき……になったら、普通に……話せま……」
「そうしま……う」
プチ
ハンベに繋いだケーブルを抜くと、わたしもヨイチさんもダンマリになって、浮上の時を待った。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
159『海の中の木漏れ日』ニッパチ
潜水モードにした機動車は深度20メートルで西に流されている。
「36時間は、このペースですが御辛抱ください」
「いいえ、こんなにゆったりとするのは久しぶりだから……それに、贅沢にも柔らかな木漏れ日も付いていますし」
「木漏れ日……ああ、これですね」
ヨイチさんと見上げた海面には数万個の軽石が浮かんでいて、そこを透過した日光がまるで木漏れ日のよう。
敵に探知されないように、機動車は動力を切って黒潮反流という海流にのって潜行している。
時速0・5ノットほどだけども、流れは確実。この海流に乗っていく。時おりの小噴火で噴き上げられた軽石が南西諸島方面に流され、沖縄などで建材や装飾品の材料にされている。ヨイチさんは、その黒潮反流に機動車を潜らせ、ラダーを操作するだけで深度と進路を固定している。
「西之島は火山島だから緑が少ないでしょ、木漏れ日なんてショッピングモールのアプローチぐらいですから、とても和みます」
「ニッパチさんは西之島を出るのは初めてなんですね」
「はい、元々は本土で使われていたんですけど、単なる多用途作業機械でしたから記憶がありません」
「ロボットの登録はなさらないんですね?」
「ええ、島を出るつもりはありませんでしたから」
「技研に着いたら発行してもらいます」
「あ、それは……」
「むろんフェイクです。街を歩いたり交通機関を利用できる程度の」
「あ、それなら嬉しいです。胸のオペが終わったら基本的には用事がありませんから、お散歩できると嬉しいです」
「まあ、技研の周囲と江ノ島ぐらいですが」
「十分です」
「そうだ、このタブレットに観光案内が入っています。一昔前の10ペタモデルでおもちゃみたいなのですが」
「ありがとうございます! こういうのはオフラインがいいですね。ウィルスとか枝が付く心配とかありませんから」
「おお、少し流れが早くなってきました、1ノットあります。これなら20時間ほどで海面に出られます」
「わたしは、軽石の木漏れ日でもいいですよ」
「状況の許す限り可及的速やかに参ります」
「フフ、なんだか軍人さんみたい」
「アハハ、予備役ですが、陸軍准尉でありますから」
「あ、そうでしたそうでした。マイさん……元帥とは満州戦争からごいっしょなんですよね?」
「はい、興隆鎮以来副官を拝命しておりました」
「今は記念館の……」
「はい、管理人をやっております。あ、本土では元帥はお亡くなりになったことになっておりますので」
「承知して……ガガ ガ ピー……あら、ノイズ……が」
「ガガ……ケーブル直結……ピー……ですから」
「ですね、浮上でき……になったら、普通に……話せま……」
「そうしま……う」
プチ
ハンベに繋いだケーブルを抜くと、わたしもヨイチさんもダンマリになって、浮上の時を待った。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
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扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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