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152『ブンカ―へ救急出動』

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銀河太平記

152『ブンカ―へ救急出動』メグミ 




 島のロボットの9割が戦死した。


 並列化を解いて、相互の連絡は手旗信号を使ったり発光信号に変えてみたり、全てアナログ。

 デジタルでなくとも電気やパルスを使った通信であれば、漢明軍はいかようにもアクセスし、数秒で発信元を突き止めて攻撃を加えてくる。

 ピピ ピ ピピピ ピピ ピピピ  ピピ ピ ピピピ ピピ ピピピ

 発光信号が二度繰り返され、こちらは――ピ――と一度だけの了解信号を送る。

 ○○地区で重傷のロボットが出た。その救援要請に――了解――の信号を送ったところ。

 平時なら救援と回復に関するスキルを送ってやれば、インストールしたロボットが99%わたしと同じスキルで修理、回復をする。しかし、今は島でA級スキルを持っているエンジニアはわたしとお岩さんだけだ。

 ついこないだまでは、わたし程度のエンジニアは百人近く居た。

 しかし、大半が本土からやってきた者たちで、漢明の侵略が始まった前後に本土に戻ってしまった。生まれて初めての戦争にビビってしまった者もいるけど、本土の役所や企業に紐づけされていて帰還命令に従わざるを得なかった者も多い。

 島の北側をお岩さん。南側をわたしが分担しているけど、先週からは臨機応変。

 今から駆けつけるのも北にあるボランティア受け入れのためのブンカ―だ。



「ニッパチ、この往診が終わったら本土に渡って」

「え、あ………………はい」



 数秒迷って、やっと助手のニッパチが頷く。

「ニッパチの胸には、西之島一万人のロボットのデータが入ってるのよ。しっかり守って、この戦いが終わったら本土で復元してやって」

「はい、分かってます!」

「うん。じゃ、行くわよ」

「ラジャー('◇')ゞ」

 おどけて返事を返してくれる。

 相棒のイッパチにも同じ改修を施して本土に行かせたが、イッパチの乗ったパルス機は八丈島沖で消息を絶っている。

 ニッパチを無事に逃がしてやらなければ、一万人のロボットたちは二度と復元できなくなる。

 島の慰霊碑は、落盤事故の分で沢山だからね。

「メグミさん、元気出してください」

「あ、大丈夫だよ」

「これ、どうぞ」

「え?」

 ニッパチが胸の谷間から出したのは、ちょっといびつになったサーターアンダギー。

「レプリケーター(自動食品生成機)のじゃないです。沖縄から来た最後の一個」

「え、まだあったの?」

「預金に来たお客さんがくれたんです。ニッパチはロボットじゃないから有機物は摂取できないですから」

「あ、そうか……」

 ニッパチは、作業機械に手を加えてロボット化したもので、二十三世紀の規格ではロボットに分類されない。

 人の形をした作業機械。有機物からエネルギーを採取できないことや高度な並列化ができないなど僅かな違いがあるだけで、立派に西之島銀行カンパニー本店の店長を務めている。島では、もともとロボットと人間を区別する意識も希薄で、そんな違いを意識する者は少ない。だからこそ、親しみからお菓子などをもらうこともあり、ニッパチも、いちいち「食べられませんから」などと無粋な返事はしないんだ。



 ブンカ―まではニッパチの背中に掴まって行く。

 ニッパチが居なければ、島内の移動は三倍以上の時間がかかるだろう。

 だが、いつまでもニッパチを救急車代わりに使う訳にもいかない。はてさて……あ( ゚Д゚)。

「どうしたんですか、メグミさん?」

「考え事をしているうちにサーターアンダギー食べてしまった(-_-;)」

「ほんとですか?」

「うん、包み紙しかないし……ああ、損した!」

「はい、これ」

「え?」

 ニッパチの手には、まだ食べかけのサーターアンダギーが載っていた。

「らしくありませんねえ、考え事してて落としたんですよ」

「あ、ごめん(^_^;)」

「早く食べてください、ブンカ―は、あの岩の向こうですから」

「うん、ムシャムシャ……やっぱり、本場のサーターアンダギーはちがうわあ……」



 ブンカ―の防護扉を開けて階段を降りる。



「負傷者はどこ!? ラボのメグミが来たわよ!」

「メグミさん、こっちこっち!」

 ラッタルの下から声、B鉱区の主任ロボットが手を振っている。

「飛びます!」

 軽くジャンプをしたかと思うと、ニッパチはわたしをオンブしたまま20メートル下のドッグまで飛び降りた。

 まずは、瀕死のロボットの治療……三体の負傷ロボットを確認した向こう、ブンカ―の入り口から入って来る水陸両用のパルス車が目に入った。

 ルーフから上半身を覗かせているのは越萌カンパニーのCEO。いや、纏っているオーラは、見慣れた越萌マリではなく、歴戦の武人のそれであった。



 このオーラは……?

 

 ☆彡この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

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