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122『ずっこけアルルカン』

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銀河太平記

122『ずっこけアルルカン』心子内親王  




 どうか、ご安心ください(^o^;)。


 穏やかに言うと、アルルカンさんは数歩後ろに下がった。

 害意が無いことを示すためなんだろうけど、とびきり美人のアルルカンさんがやると、魔女がなにか企んでいるような感じで、サンパチさんは、わたしの前に立ちはだかるのを止めない。

 ウワ!

 さらに一歩下がったところで、なにかに躓いて仰向けに倒れ込むアルルカンさん。

「艦長!」

「このブーツ、グリップが効きすぎる!」

「マントもブーツも艦長の注文なんすけど」

「そうなのか?」

「はい、最大戦速で舵を切っても滑らない仕様にしてくれって、被服科長、調整すんのに苦労してたっす。試着の時に試さなかったんすか?」

「いや、試着の暇がなくってな(^_^;)」

「じゃ、ちょっと調整するっす」

「ツナカン、できるのか?」

「こんなこともあろうかと、被服科からアドジャストもらってます」

 副官さんが、ハンベを近づけてタッチする。

「よし、いや、お恥ずかしいところを……」

「艦長、まだ……」

「ウワワ!」

 今度は不思議なスピンがかかって、左足を軸に半回転してうつ伏せにひっくり返った。

 プ(灬º 艸º灬)  

 ブリッジのみんなが噴き出しかける。

「まだ右しか調整してないっすよ」

「そ、そうか」

 パリ

「ウ!?」

 なんと、起き上がろうとしたアルルカンさんのキャプテンパンツが音を立てて破れてしまった!

「花柄じゃ」

 サンパチさんが、目ざとく裂け目から覗いた下着の柄を呟く。

 サンパチさんの外見は小柄な女の子だけど、元の仕様はお侍タイプのおじさん仕様。

「いや、これはいかん(#꒪꒫꒪#)」

「もう、早く着替えるっす!」

「すまん、ツナカンあとは頼んだぞ!」

 アルルカンさんは、お尻を押えて出て行ってしまった。

 アハハハハハハハハハハ(ᕑᗢूᓫ)

 ブリッジのみんなが盛大に笑って、わたしも、サンパチさんもつられて笑ってしまった。



「仕方がない、代わりに説明するっす。サケカンもくるっす」

「やれやれ……」

 ウイング近くに居た乗員が副官さんの横に並んだ。

「航海長のサケカンです。副官のツナカンの足りないところを補充します」

「実は、殿下を亡くなったことにした上で火星に送ることになっているっす」

「え、死んだことに!?」

「どういうことでござるか?」

「実は、艦長は、先の事を考えているっす」

「先の事ですか?」

「はい、火星では扶桑幕府に身を寄せるおつもりなんですよね?」

「左様、日本国の分家でござるし、将軍の扶桑道隆殿も皇室への尊崇の厚いお方でござる」

「そこなんすよ、心子内親王殿下は皇嗣であられるので、そのままでお預かりすると、将軍は、いろいろと痛くも無い腹を探られるっす」

「あ、ああ……」

 ツナカンさんの言葉が刺さってきた。

「古来、摂関家や幕府は、天皇家に近づくことに寄って、その権力基盤を固めようとしてきたっす」

 そうだ、江戸幕府の二大将軍秀忠は娘の和子(かずこ)を皇后にすることで幕府の信用を上げようとしたし、十四代将軍家茂は孝明天皇の妹の和宮を御台所にした。他にも、有力大名や摂関家とは幾度も姻戚関係になっている。

「それに、扶桑将軍の初代は、皇孫の扶桑宮殿下でした。いわば平清盛的な家系です」

 サケカンさんの補足で、わたしは事の重さを理解した。

「そうですね、いざとなったら『皇嗣を盾にして宗主国の日本に影響力を持とうとしている』的にかんぐられてしまいますね」

「それは……そこまでは思い至らぬことでござった!」

 サンパチさんも腕を組んでしまった。

「そういうことですから、うちの艦長は、シャトルを粉々にして殿下がお亡くなりになったと擬装したっす」

「そうだったんですね……」

「しかし、いらぬ心配を陛下や関係の方々にお掛けすることになるのではござらぬか?」

「ごく限られた方々には、内々にお知らせする腹であると思うっす」

「なにせ、うちの艦長は、銀河一の盗賊ですから……」

「蛇の道は蛇っす」

「手練手管はお手のものですし、信用と怪しさの塩梅もちょうどいいかと……」

「「なるほど」」

 うん、なんだか納得してしまう。



 それから部屋に通されて考えた。

 もし、マントが引っかかるとか、ズッコケるとか、パンツが破れるとかのハプニングが無くって、いきなりアルルカンさんから聞かされたとしたら……こんなに素直に納得しただろうか?

 ひょっとして?

 いや、面白いことは、そのまま面白がっていよう。

―― ココちゃん、あなたの無邪気さは才能かもしれないわねぇ ――

 亡くなったお母さんの言葉が聞こえたような気がした。

「どうやら、火星への進路についたようでござる」

 サンパチさんの声に振り返ると、キャビンの窓から、遠ざかっていく地球の姿が見えた。



※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
森ノ宮親王
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首 パイレーツクィーン:メアリ・アン・アルルカン(手下=ツナカン、サケカン)
氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)

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