127 / 269
115『案の定と斜め上』
しおりを挟む
銀河太平記
115『案の定と斜め上』加藤恵
案の定、漢明国は西之島の領有権を主張してきた。
「日本人は領土というものを固定的なものだと感じる傾向があるんですよね……」
ここちゃんはサーターアンダギーの蓋を閉じながら呟く。
わたしは、伸ばしかけた手を曖昧にして、つい話を続けてしまう。
「日本人はね、国というものを人間の体みたいに感じてるのよ」
「体ですか?」
「うん、手とか脚とか臓器とか、死ぬまで自分のものだと思ってる」
「ちがうんですか?」
「移植したり、義体化したりするでしょ」
「あ、ああ。そうですよね」
法律で決まっているわけではないが、皇室の人間は義体化しない不文律があるので、ココちゃんはピンとこないんだ。
もし、義体化をしていたら、ココちゃんの母君も早逝されることは無かっただろう。天狗党に居たころ、母君の明子殿下が義体化されることなく薨去されたときには感動したものだったわよ。
「日本は、領土のやり取りって、比較的少なかったでしょ。千島と樺太を取り戻してからは、領土のやり取りって無かったし」
「あ、ああ」
「外国はね、取ったり取られたり、ポーランドとかウクライナとか、一時は国ぐるみ無くなっちゃたんだからね」
「そうですよね、歴史で習ったんですけど、外国の事って、ちょっと上の空で聞いてしまってます」
「だからね、領土っていうのは隙あらば盗りにいくって考えの国もあるのよ」
「ですね……!」
薮蛇だ。ココちゃんはサーターアンダギーの箱を手元に囲ってしまった(;'∀')。
「日本が、おおよそ無事でいられたのは日本人の一体感が強いからだよ。そして、その強さの核になっているのが皇室なんだよね。お日様が空にあるように天皇がおられるのを当たり前に感じて、普段は意識することも無く、日本は一つだと感じられてることは、とっても大事なことなんだよ」
「そ、そうですね」
「これ、あんたは、その日本国の内親王さまなんだからね」
「は、はい(^_^;)」
「まあ、出てきた古銭には宋銭とか明銭も混じっていたっていうから、インチキ丸出しだけどね」
「明銭と言えば永楽通宝とかですよね、織田信長が旗印にしてた」
「そうだよ、おそらくは、島に入ってきた漢明のエージェントが知らずにばら撒いたんだろうね」
「ですよね、西之島が発見されたのは1702年。忠臣蔵のころですもんね!」
「そうだよ、その何十年も前に滅んだ宋のお金が西之島から出てくるなんてあり得ないわけですよ」
「はい! ちょっと宋銭発見のその後をチェックしてみます!」
しめしめ、ココちゃんは、サーターアンダギーの箱を置いたままラボのPCに向かって行った。
で、開けた箱の中は空っぽだった……もう二三個は残ってると思ったのにぃ!
漢明の対応は、わたしの予想を超えていた。
―― 宋銭、明銭は清の時代にも使われていた。漢明が発見したことを否定することにはならない ――
と、斜め上からの見解を発表し、日本政府に漢明考古学院に調査させろと言ってきた。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
115『案の定と斜め上』加藤恵
案の定、漢明国は西之島の領有権を主張してきた。
「日本人は領土というものを固定的なものだと感じる傾向があるんですよね……」
ここちゃんはサーターアンダギーの蓋を閉じながら呟く。
わたしは、伸ばしかけた手を曖昧にして、つい話を続けてしまう。
「日本人はね、国というものを人間の体みたいに感じてるのよ」
「体ですか?」
「うん、手とか脚とか臓器とか、死ぬまで自分のものだと思ってる」
「ちがうんですか?」
「移植したり、義体化したりするでしょ」
「あ、ああ。そうですよね」
法律で決まっているわけではないが、皇室の人間は義体化しない不文律があるので、ココちゃんはピンとこないんだ。
もし、義体化をしていたら、ココちゃんの母君も早逝されることは無かっただろう。天狗党に居たころ、母君の明子殿下が義体化されることなく薨去されたときには感動したものだったわよ。
「日本は、領土のやり取りって、比較的少なかったでしょ。千島と樺太を取り戻してからは、領土のやり取りって無かったし」
「あ、ああ」
「外国はね、取ったり取られたり、ポーランドとかウクライナとか、一時は国ぐるみ無くなっちゃたんだからね」
「そうですよね、歴史で習ったんですけど、外国の事って、ちょっと上の空で聞いてしまってます」
「だからね、領土っていうのは隙あらば盗りにいくって考えの国もあるのよ」
「ですね……!」
薮蛇だ。ココちゃんはサーターアンダギーの箱を手元に囲ってしまった(;'∀')。
「日本が、おおよそ無事でいられたのは日本人の一体感が強いからだよ。そして、その強さの核になっているのが皇室なんだよね。お日様が空にあるように天皇がおられるのを当たり前に感じて、普段は意識することも無く、日本は一つだと感じられてることは、とっても大事なことなんだよ」
「そ、そうですね」
「これ、あんたは、その日本国の内親王さまなんだからね」
「は、はい(^_^;)」
「まあ、出てきた古銭には宋銭とか明銭も混じっていたっていうから、インチキ丸出しだけどね」
「明銭と言えば永楽通宝とかですよね、織田信長が旗印にしてた」
「そうだよ、おそらくは、島に入ってきた漢明のエージェントが知らずにばら撒いたんだろうね」
「ですよね、西之島が発見されたのは1702年。忠臣蔵のころですもんね!」
「そうだよ、その何十年も前に滅んだ宋のお金が西之島から出てくるなんてあり得ないわけですよ」
「はい! ちょっと宋銭発見のその後をチェックしてみます!」
しめしめ、ココちゃんは、サーターアンダギーの箱を置いたままラボのPCに向かって行った。
で、開けた箱の中は空っぽだった……もう二三個は残ってると思ったのにぃ!
漢明の対応は、わたしの予想を超えていた。
―― 宋銭、明銭は清の時代にも使われていた。漢明が発見したことを否定することにはならない ――
と、斜め上からの見解を発表し、日本政府に漢明考古学院に調査させろと言ってきた。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる