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103『西之島チルル空港』
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銀河太平記
103『西之島チルル空港』越萌マイ(児玉隆三)
朝霞駐屯地の前から飛び立って南南東に90分、!マークがバク転したような島が見えてくる。
西之島だ。
去年、小笠原村から独立して西之島市になった。
堂々の国際空港を持ち、人口も十万を超えては村でもあるまい。
かつて、会社、村、胡同と呼ばれた地域は、それぞれ『南区』『東区』『西区』と改編され、市庁舎は、かつて北としか呼称されていなかった『北区』に置かれている。
北区の西端からは橋がのびていて、埋め立てによって造成された『西之島国際空港』に繋がっている。
今日は、その国際空港ではなく、南区の南端のチルル空港に下りる。
空港は『氷室空港』と呼称されるはずだったが、社長の氷室が固辞し、落盤事故で最後まで遺骨の引き取り手が現れなかった犠牲者の名にちなんでいる。
プシューー
気蓄機から盛大な蒸気を吐き出して着地させる。
エプロンまで滑走させるのも待ちきれない様子で、空港ビルから数名の、おそらくは氷室カンパニーの人たちが駆けてくる。
ウィーン
ハッチが開くと、馴染みの加藤恵たち、カンパニーの主要メンバーが集まっている。
「出迎え有難う、恵。こちら妹の越萌メイ、越萌姉妹社の専務です」
「ようこそ、メイさんマイさん。こちらが氷室カンパニー社長の氷室睦仁です」
「氷室です。もっと早くお会いしたかったんですが、本決まりになるまでは会ってはいけないと社員に止められまして、失礼いたしました(^_^;)」
「いえ、こちらもメイから同じことを言われていましたので、お互いさまです」
「わたしの横に居ますのが、西之島銀行本店店長のニッパチです」
「ようこそ……あ、失礼、音声の切り替えを……ようこそいらっしゃいました。ごいっしょに開発計画を実施できることを楽しみにしております」
きれいな女性の声になったので、ちょっとビックリ。これまでの事前折衝の記録はでは、パチパチの声はデフォルトの男性音声だった。でも、指摘するのは失礼だ。ポーカーフェイスで通す。
「その隣が、技術部長のシゲ老人です。一徹ものですが、技術に関しては柔軟な考え方をしてくれます」
「ああ、そういうことで、よろしく。ところで、おたくのボートは、ちょっと変わってるねえ」
「ええ、むかし大阪で考案された軽コスモボートが原型になっているんです。うちのメカニックが資料を基に作ってくれまして、フチコマって言うんです」
「あとで見せてくれっかい?」
「ええ、どうぞどうぞ」
「止した方がいいですよ、ぜったい分解しますから」
「余計なこと言うな、メグミ!」
「アハハ、いいですよ。お互い刺激し合うのはいいことですから」
「いえ、島中のメカニック呼んできて見せびらかしますから、パーツは、あちこち回って、元に戻るのには一か月はかかりますから」
「そんなにはかからねえ、二週間であげてやらあ!」
「あはは、それは、ちょっとご勘弁を……」
アハハハ
みんなが笑う。いい出だしだ。
「市長や他の代表の者たちには、明日以降会っていただけるように調整しています。わざわざお越しいただいて、不手際なことで申し訳ありません」
「いいえ、それだけ可能性の高い土地、そして事業ということです。先が楽しみです」
「はい、そうです。それでは宿舎の方にご案内いたします、まずは、空港ビルの方へ」
フチコマを整備士に任せると、なんだか、昔からの知り合いのような気やすさで空港ビルに向かった。
管制塔の向こうには、西之島火山が暖機運転中のSLのように煙を吐いている。
その逞しさは、吉兆のようにも見え、天下大乱の凶兆のようにも見えた。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
103『西之島チルル空港』越萌マイ(児玉隆三)
朝霞駐屯地の前から飛び立って南南東に90分、!マークがバク転したような島が見えてくる。
西之島だ。
去年、小笠原村から独立して西之島市になった。
堂々の国際空港を持ち、人口も十万を超えては村でもあるまい。
かつて、会社、村、胡同と呼ばれた地域は、それぞれ『南区』『東区』『西区』と改編され、市庁舎は、かつて北としか呼称されていなかった『北区』に置かれている。
北区の西端からは橋がのびていて、埋め立てによって造成された『西之島国際空港』に繋がっている。
今日は、その国際空港ではなく、南区の南端のチルル空港に下りる。
空港は『氷室空港』と呼称されるはずだったが、社長の氷室が固辞し、落盤事故で最後まで遺骨の引き取り手が現れなかった犠牲者の名にちなんでいる。
プシューー
気蓄機から盛大な蒸気を吐き出して着地させる。
エプロンまで滑走させるのも待ちきれない様子で、空港ビルから数名の、おそらくは氷室カンパニーの人たちが駆けてくる。
ウィーン
ハッチが開くと、馴染みの加藤恵たち、カンパニーの主要メンバーが集まっている。
「出迎え有難う、恵。こちら妹の越萌メイ、越萌姉妹社の専務です」
「ようこそ、メイさんマイさん。こちらが氷室カンパニー社長の氷室睦仁です」
「氷室です。もっと早くお会いしたかったんですが、本決まりになるまでは会ってはいけないと社員に止められまして、失礼いたしました(^_^;)」
「いえ、こちらもメイから同じことを言われていましたので、お互いさまです」
「わたしの横に居ますのが、西之島銀行本店店長のニッパチです」
「ようこそ……あ、失礼、音声の切り替えを……ようこそいらっしゃいました。ごいっしょに開発計画を実施できることを楽しみにしております」
きれいな女性の声になったので、ちょっとビックリ。これまでの事前折衝の記録はでは、パチパチの声はデフォルトの男性音声だった。でも、指摘するのは失礼だ。ポーカーフェイスで通す。
「その隣が、技術部長のシゲ老人です。一徹ものですが、技術に関しては柔軟な考え方をしてくれます」
「ああ、そういうことで、よろしく。ところで、おたくのボートは、ちょっと変わってるねえ」
「ええ、むかし大阪で考案された軽コスモボートが原型になっているんです。うちのメカニックが資料を基に作ってくれまして、フチコマって言うんです」
「あとで見せてくれっかい?」
「ええ、どうぞどうぞ」
「止した方がいいですよ、ぜったい分解しますから」
「余計なこと言うな、メグミ!」
「アハハ、いいですよ。お互い刺激し合うのはいいことですから」
「いえ、島中のメカニック呼んできて見せびらかしますから、パーツは、あちこち回って、元に戻るのには一か月はかかりますから」
「そんなにはかからねえ、二週間であげてやらあ!」
「あはは、それは、ちょっとご勘弁を……」
アハハハ
みんなが笑う。いい出だしだ。
「市長や他の代表の者たちには、明日以降会っていただけるように調整しています。わざわざお越しいただいて、不手際なことで申し訳ありません」
「いいえ、それだけ可能性の高い土地、そして事業ということです。先が楽しみです」
「はい、そうです。それでは宿舎の方にご案内いたします、まずは、空港ビルの方へ」
フチコマを整備士に任せると、なんだか、昔からの知り合いのような気やすさで空港ビルに向かった。
管制塔の向こうには、西之島火山が暖機運転中のSLのように煙を吐いている。
その逞しさは、吉兆のようにも見え、天下大乱の凶兆のようにも見えた。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
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