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094『通行許可!?』
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銀河太平記
094『通行許可!?』 加藤 恵
島を調査の上、北部に選鉱所と付属の施設を作るのが、わたしの仕事です。
及川は島が企画した歓迎会は饗応に当るというので、北部国有地に向かう道すがら、キッパリと断った。
「どうも気が回らないことで、失礼しました」
「いやいや、融和的に協力し合っていこうというお気持ちは十分に伝わりました。本省では、西ノ島は鬼ヶ島のように言う者もおりましたが、いやいや、皆さんの島の発展を願うお気持ちは痛いほど伝わってきました。不肖及川軍平、皆さんと共に島と日本国発展の為に力を尽くせるのは、本職、無上の喜びとするところであります」
「それでは、せめて任地の北部まで送らせていただきます」
社長がカンパニーの車を示すと、これもキッパリと断った。
「申し訳ありませんが、それは便宜供与にあたります。明日の便で、簡易官舎といっしょに機材も送られてきます。どうぞお構いなく。みんな、任地まで歩くぞ!」
随行の役人たちに声を掛けると、及川はズンズンと歩き出した。
仕方なく、社長と主席は、たまたま進む方向が同じということにして歩き出した。村長は、及川の態度が無礼であると、サブだけを残し、村の者たちを引き連れて帰ってしまった。
「局長、ここからはナバホ村の所有地なので、管理者であるマヌエリト氏の同意が無いと立ち入れません」
「これは次長、良いところに気が付いてくれました。あやうく私権を侵害するところでした。すぐに立ち入り許可をもらってください」
「村長なら、さっき帰っちまったよ。通行すんのに、いちいち許可とか、西之島じゃやってねえから、普通に歩いてきゃいいんだ!」
シゲさんが業を煮やして声を上げる。
「サブ、ひとっ走り行って村長に話を通してください」
「うん、分かった」
「ちょっと待ってください。次長、使用許可の書式を出してください」
「それなら、すでに用紙を用意しています」
次長はリュックを下ろすと、ルーズリーフみたいな綴りを出し、五秒で必要なことを記入してサブに渡した。
「マヌエリト氏には署名していただくだけですが、拇印で結構ですので、捺印は必ずしてもらってください」
「ナツイン?」
「あ、外国の方だから署名でもけっこうですよ」
「あ、サイン」
納得しながらも、サブは――やってらんねえ――という感じで肩をすくめる。
「書類は、令和の改革で書式が整っていればいいということになっていませんでしたか?」
「ええ、本土ではそうなんです。内閣の稟議書でも電子書類に既読マークが付けばいいことになっています。しかし西ノ島は、まだ本土の行政規範が適用されておりません。よって、明治三十五年の行政執行法に拠るしかないのです」
明治35年……300年も昔のことだよ(^_^;)。
「お恥ずかしい、不合理ではありますが、立法と行政が追いついていないのです。間もなく、西ノ島開発特措法が衆議院を通過します。不合理なことと思われるでしょうが、ほんの一時の事です。お付き合いいただければ、本職、大いに助かります」
「そうですか……いや、それだけ、西ノ島の発展が急だったということですね。承知しました。みんな、そういうことだから、ここは及川局長の指示を歴史の勉強だと思ってつきあってください」
社長が言うと、主席はじめ、居合わせた島民は苦笑いして頷くのだった。
ニ十分後サブが戻ってきた。
「通りたければ勝手に通れってことだったっす」
みんなから、クスクスと笑い声があがり、しょうがないねえと言う感じで社長の眉がヘタレる。
「仕方ありません。ちょっと遠回りになりますが、フートンの土地を通っていきましょう。周温雷さん、通行許可をお願いします」
主席が苦笑いのまま、ため息一つしてサイン。
ようやく、国交省調査団一行と出迎え一行は島の北を目指して動き出した。
ちなみに、到着まで、さらに八枚の書類が発行され、ナバホ村に関するもの以外の六通の返答書類が返ってきた。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 以仁 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
村長 マヌエリト 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
094『通行許可!?』 加藤 恵
島を調査の上、北部に選鉱所と付属の施設を作るのが、わたしの仕事です。
及川は島が企画した歓迎会は饗応に当るというので、北部国有地に向かう道すがら、キッパリと断った。
「どうも気が回らないことで、失礼しました」
「いやいや、融和的に協力し合っていこうというお気持ちは十分に伝わりました。本省では、西ノ島は鬼ヶ島のように言う者もおりましたが、いやいや、皆さんの島の発展を願うお気持ちは痛いほど伝わってきました。不肖及川軍平、皆さんと共に島と日本国発展の為に力を尽くせるのは、本職、無上の喜びとするところであります」
「それでは、せめて任地の北部まで送らせていただきます」
社長がカンパニーの車を示すと、これもキッパリと断った。
「申し訳ありませんが、それは便宜供与にあたります。明日の便で、簡易官舎といっしょに機材も送られてきます。どうぞお構いなく。みんな、任地まで歩くぞ!」
随行の役人たちに声を掛けると、及川はズンズンと歩き出した。
仕方なく、社長と主席は、たまたま進む方向が同じということにして歩き出した。村長は、及川の態度が無礼であると、サブだけを残し、村の者たちを引き連れて帰ってしまった。
「局長、ここからはナバホ村の所有地なので、管理者であるマヌエリト氏の同意が無いと立ち入れません」
「これは次長、良いところに気が付いてくれました。あやうく私権を侵害するところでした。すぐに立ち入り許可をもらってください」
「村長なら、さっき帰っちまったよ。通行すんのに、いちいち許可とか、西之島じゃやってねえから、普通に歩いてきゃいいんだ!」
シゲさんが業を煮やして声を上げる。
「サブ、ひとっ走り行って村長に話を通してください」
「うん、分かった」
「ちょっと待ってください。次長、使用許可の書式を出してください」
「それなら、すでに用紙を用意しています」
次長はリュックを下ろすと、ルーズリーフみたいな綴りを出し、五秒で必要なことを記入してサブに渡した。
「マヌエリト氏には署名していただくだけですが、拇印で結構ですので、捺印は必ずしてもらってください」
「ナツイン?」
「あ、外国の方だから署名でもけっこうですよ」
「あ、サイン」
納得しながらも、サブは――やってらんねえ――という感じで肩をすくめる。
「書類は、令和の改革で書式が整っていればいいということになっていませんでしたか?」
「ええ、本土ではそうなんです。内閣の稟議書でも電子書類に既読マークが付けばいいことになっています。しかし西ノ島は、まだ本土の行政規範が適用されておりません。よって、明治三十五年の行政執行法に拠るしかないのです」
明治35年……300年も昔のことだよ(^_^;)。
「お恥ずかしい、不合理ではありますが、立法と行政が追いついていないのです。間もなく、西ノ島開発特措法が衆議院を通過します。不合理なことと思われるでしょうが、ほんの一時の事です。お付き合いいただければ、本職、大いに助かります」
「そうですか……いや、それだけ、西ノ島の発展が急だったということですね。承知しました。みんな、そういうことだから、ここは及川局長の指示を歴史の勉強だと思ってつきあってください」
社長が言うと、主席はじめ、居合わせた島民は苦笑いして頷くのだった。
ニ十分後サブが戻ってきた。
「通りたければ勝手に通れってことだったっす」
みんなから、クスクスと笑い声があがり、しょうがないねえと言う感じで社長の眉がヘタレる。
「仕方ありません。ちょっと遠回りになりますが、フートンの土地を通っていきましょう。周温雷さん、通行許可をお願いします」
主席が苦笑いのまま、ため息一つしてサイン。
ようやく、国交省調査団一行と出迎え一行は島の北を目指して動き出した。
ちなみに、到着まで、さらに八枚の書類が発行され、ナバホ村に関するもの以外の六通の返答書類が返ってきた。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 以仁 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
村長 マヌエリト 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
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