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060『月城かける 恩智駅から歩いてくる』
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銀河太平記
060『月城かける 恩智駅から歩いてくる』 越萌マイ(児玉元帥)
近鉄恩智駅からは二キロあまりの上り坂なのに汗一つ浮かべてはいなかった。
月城かける
なんだか宝塚の男役のような名前に孫大人の趣味を感じてしまう。
「ツキジョウと重箱読みいたします」
「美しいお名前ですね」
思ったままを言うと、男役は初舞台の娘役のように恥じらいを含んだ笑顔になった。
「芸名のようなんですが、本名なんです」
「え、そうなんですか!? 宝塚の宙組(そらぐみ)に同じ名前の男役の方がおられましたね?」
メイが弾んだ好奇心を向ける。
「あ……ご存知なんですね」
「はい、宝塚関連のグッズも扱いたいんで、勉強しました……というか、元々宝塚ファンですから」
「じつは、その月城かけるはわたしのことです。元々本名だったので、宝塚ではそのままの名乗りにしてしまって。引退して、この仕事をしても、本名なので、そのままなんです(^_^;)」
「そうだったんですか、すてきねお姉ちゃん」
「お姉ちゃんじゃないでしょ」
「あ、ごめん……すみません、社長」
「ごめんなさい、うちは始めたばかりで、ケジメがなくって」
「いえ、わたしも先月、この仕事に就いたばかりで(^_^;)、よろしくお引き回しのほどを!」
「こちらこそ」
下げる頭が揃ってしまい、三人で笑ってしまう。
「ここは、楠木正成の重臣、恩智左近の城跡なんですね」
「はい、たまたまなんですが、孫大人を大楠公と仰げば、良い立ち位置になれるかと喜んでおります」
「まあ、会長が聞いたら喜びます」
「よろしくお引き回しのほどを」
「いいえ、こちらこそ」
宝塚のグッズを扱うのには、宝塚出身者がいいだろうと言うことで、孫大人の肝いりで選ばれたのが月城かける。
立場的には、メイのカウンターパートになるだろう。
裏……というか、本当の任務にも関わってもらうはずなのだが、取りあえずは初対面。
互いの人なりを知るところから始まる。
今月から始まった宙組の舞台は令和以来、七度目の取り組みになる『正行つらつら』だ。
大楠公と言われた楠木正成のあとを継いだ正行の挫折と奮起を扱った太平記外伝。
正行(まさつら)は、父と異なって幼いころから都で勉強して弁も論もたつ。
その、語らせば立て板に水のごとき弁論の爽やかさを『つらつら』と現し、父正成亡き後、楠木党をまとめ、南北朝の争乱を生きていく辛さを掛けたタイトルで、初演のころから人気がある。
それも、令和から数えて七度目の七生報国公演と期待も大きく、宝塚グッズを扱うのには、この上ないタイミングと言えた。
「千早赤阪のあたりに楠公の旧跡が集中しています、一度訪れて、わたしたちの脳みそを刺激してみてはどうかと思うのですが」
「それはいいですね、ぜひご一緒したいと思います。ねえ、お姉……社長」
「そうね、まずは表稼業の方から手を付けましょうか」
「いちおう、あそこには天狗の古巣があります」
「天狗……天狗党?」
「はい、ごく初期のもので、A機密の割には、めぼしいものはないところなんですが……ご覧になります?」
「A機密、多少の危険が伴うということですか?」
「危険というか、山頂付近なもので人の目が多くて」
「ああ、調べるにしても一般の人に気付かれてはいけないということですね?」
「A機密指定になったのは、いつごろなのだろう?」
「十年も前です、特科がさんざん調べて、うちの会長も二度調べて、なにも出てこないんですが」
「それでもA機密ということは、特科も孫大人も、まだ色気を持っているということかな?」
「まあ(^_^;)……では、ご覧になるということでよろしいですか?」
「うむ、人目に付かない方法ならまかせておけ、満州の前は諜報部にいたからな」
「それは心強い!」
「おし!」
「社長、軍人の顔に戻ってます!」
「あ、すまん! エヘン……マイにお任せだよ、テヘ(*^。^*)」
「それはキモイかも……」
キモイはないだろう……
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
060『月城かける 恩智駅から歩いてくる』 越萌マイ(児玉元帥)
近鉄恩智駅からは二キロあまりの上り坂なのに汗一つ浮かべてはいなかった。
月城かける
なんだか宝塚の男役のような名前に孫大人の趣味を感じてしまう。
「ツキジョウと重箱読みいたします」
「美しいお名前ですね」
思ったままを言うと、男役は初舞台の娘役のように恥じらいを含んだ笑顔になった。
「芸名のようなんですが、本名なんです」
「え、そうなんですか!? 宝塚の宙組(そらぐみ)に同じ名前の男役の方がおられましたね?」
メイが弾んだ好奇心を向ける。
「あ……ご存知なんですね」
「はい、宝塚関連のグッズも扱いたいんで、勉強しました……というか、元々宝塚ファンですから」
「じつは、その月城かけるはわたしのことです。元々本名だったので、宝塚ではそのままの名乗りにしてしまって。引退して、この仕事をしても、本名なので、そのままなんです(^_^;)」
「そうだったんですか、すてきねお姉ちゃん」
「お姉ちゃんじゃないでしょ」
「あ、ごめん……すみません、社長」
「ごめんなさい、うちは始めたばかりで、ケジメがなくって」
「いえ、わたしも先月、この仕事に就いたばかりで(^_^;)、よろしくお引き回しのほどを!」
「こちらこそ」
下げる頭が揃ってしまい、三人で笑ってしまう。
「ここは、楠木正成の重臣、恩智左近の城跡なんですね」
「はい、たまたまなんですが、孫大人を大楠公と仰げば、良い立ち位置になれるかと喜んでおります」
「まあ、会長が聞いたら喜びます」
「よろしくお引き回しのほどを」
「いいえ、こちらこそ」
宝塚のグッズを扱うのには、宝塚出身者がいいだろうと言うことで、孫大人の肝いりで選ばれたのが月城かける。
立場的には、メイのカウンターパートになるだろう。
裏……というか、本当の任務にも関わってもらうはずなのだが、取りあえずは初対面。
互いの人なりを知るところから始まる。
今月から始まった宙組の舞台は令和以来、七度目の取り組みになる『正行つらつら』だ。
大楠公と言われた楠木正成のあとを継いだ正行の挫折と奮起を扱った太平記外伝。
正行(まさつら)は、父と異なって幼いころから都で勉強して弁も論もたつ。
その、語らせば立て板に水のごとき弁論の爽やかさを『つらつら』と現し、父正成亡き後、楠木党をまとめ、南北朝の争乱を生きていく辛さを掛けたタイトルで、初演のころから人気がある。
それも、令和から数えて七度目の七生報国公演と期待も大きく、宝塚グッズを扱うのには、この上ないタイミングと言えた。
「千早赤阪のあたりに楠公の旧跡が集中しています、一度訪れて、わたしたちの脳みそを刺激してみてはどうかと思うのですが」
「それはいいですね、ぜひご一緒したいと思います。ねえ、お姉……社長」
「そうね、まずは表稼業の方から手を付けましょうか」
「いちおう、あそこには天狗の古巣があります」
「天狗……天狗党?」
「はい、ごく初期のもので、A機密の割には、めぼしいものはないところなんですが……ご覧になります?」
「A機密、多少の危険が伴うということですか?」
「危険というか、山頂付近なもので人の目が多くて」
「ああ、調べるにしても一般の人に気付かれてはいけないということですね?」
「A機密指定になったのは、いつごろなのだろう?」
「十年も前です、特科がさんざん調べて、うちの会長も二度調べて、なにも出てこないんですが」
「それでもA機密ということは、特科も孫大人も、まだ色気を持っているということかな?」
「まあ(^_^;)……では、ご覧になるということでよろしいですか?」
「うむ、人目に付かない方法ならまかせておけ、満州の前は諜報部にいたからな」
「それは心強い!」
「おし!」
「社長、軍人の顔に戻ってます!」
「あ、すまん! エヘン……マイにお任せだよ、テヘ(*^。^*)」
「それはキモイかも……」
キモイはないだろう……
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
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