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278『わたしたちの方向』

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魔法少女マヂカ

278『わたしたちの方向』語り手:マヂカ  




 
 なんで関西弁!?


 二学期が始まって、学校の日常が戻ってくると、ノンコの関西弁は不思議がられた。

 大正時代にタイムリープしている間、ノンコは京都の野々村神社の娘だということになっていた。ご維新後に祖父の宮司が男爵に列せられ、孫娘であるノンコは女子学習院に入るために高坂公爵家にわたし(渡辺真智香)といっしょに下宿しているという設定だった。

 当面の目標は、精神を病み始めていた高坂家令嬢の霧子をサポートしていることだった。

 これは、特務の仕事ではなく、人知を超えた何者(神か悪魔か)かの意思、あるいは、千年の魔法少女でも理解不能の超常現象であるのかもしれない。

 それならば、ノンコは京都弁でなければおかしい……そう思い当たると、自然に京都弁になってしまったのだ。

「いやあ、なんや無理して東京弁喋ってたみたいで、京都弁に戻ったら、めっちゃ自然。もう、もとに戻らへんと思うわ(^▽^)/」

 まあ、ぶっ飛んだところのある奴だったので、調理研(特務隊員でもある)のメンバーだけでなく、クラスメートも自然に受け入れてくれた。

 なんと言っても、ノンコ自身、オタマジャクシがカエルになったぐらいの自然さで受け入れているのだから、ノープロブレムだ。



「ポチョキンも、あれ以来こーへんねぇ」

「ポチョムキンだ」

「ああ、そのポチョキン」

「うちも見たかったなあ、クマさん」

 ノンコは大塚駅組ではないので、ポチョムキンのブリッジに立っていたクマさんを見ていない。

 あれは、もうクマさんではない、クマさんの姿を借りた悪の提督だ。

「大正時代のことは分からないけど、いちど、関係者の間で共通理解というか、問題を共有しておく必要はない?」

 友里がまともな事を言う。

「うん、あんたたちは何カ月も大正時代で戦ってきたんだろうけど、友里やわたしは、昨日が今日になっただけだからね」

 清美が補強してくれて、わたしたちの方向は決まった。

「じゃあ、とりあえず、神田明神だ!」

 後ろから声がしたかと思うと、ブリンダが詰子といっしょに人数分のカフェオレを持っている。

「自販機の所で一緒になったから、持ってもらったワン」

「千駄木の短縮授業は終わってるだろ?」

 ブリンダは山手線の向こうの千駄木学園だ。

「おまえらが真剣に悩んでるってガーゴイルから聞いてな。早退してきた」

 カーカー

 見上げると、校舎に挟まれた中庭の上を人相の悪いカラスが舞っている。

「司令からの指示も神田明神からだ。いくぞ」

「脚はどうする?」

「飛んで行けば……ああ、飛べない奴がいるなあ」

 飛行石で飛べるのは正規魔法少女のわたしとブリンダだけだ。残りを電車で行かせては時間がかかり過ぎる。



「脚なら用意してあるよ♪」



 藤棚の陰からサムが顔を出す。サム=サマンサ・レーガンも準隊員だ。

「わたしは霊雁島(第七魔法艦隊司令部)に呼ばれてるけど、車はオートだよ。ほら、神さまの所に手ぶらというわけにもいかないだろうから、お供えにフライドチキンとフライドポテトも用意しておいたよ」

「ありがとう、サム!」

「あんたらの分も作っておいた。車の中で食べるといい。ほんとうはジャーマンポテトなんだろうけど、アメリカの田舎者だから、こういうのしか用意できなくてね。ごめん」

「いいよいいよ、車まで用意してもらって、こっちこそ……」

「帰還命令なのか?」

 ブリンダが優しい声を向ける。

「たぶん……アメリカもいろいろあるから。先輩みたいに嘱託だと自由もきくんですけどね」

「まあ、もう二百年もやれば、多少の自由はきくようになるさ」

 サムを見送って、校門を出ると車が小気味いいアイドリングの音をさせて待っていた。



「ちょっと、古くないか?」



 ブルン ブルブル……

 みんなを乗せて走り出したのは、大正時代でも見かけた、乗合自動車タイプのT型フォードだった。




※ 主な登場人物

渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
ガーゴイル        ブリンダの使い魔
サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
ソーリャ         ロシアの魔法少女

※ この章の登場人物

高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
春日         高坂家のメイド長
田中         高坂家の執事長
虎沢クマ       霧子お付きのメイド
松本         高坂家の運転手 
新畑         インバネスの男
箕作健人       請願巡査
ファントム      時空を超えたお尋ね者
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