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158『宇都宮 十四餃子飯店・1』
しおりを挟む魔法少女マヂカ
158『宇都宮 十四餃子飯店・1』語り手:マヂカ
あのクラゲ、脚が無いよ。
考え事をしていたので面食らった。
壬生を過ぎて北に向かっていると、急に友里が指差したのだ。
「あ、あれはギョウザだよ」
「え? あ、ああ、ほんと、ギョウザって書いてある!」
街道沿いの雑多な店の家並みの上に見えてきた大きなディスプレーに気が付いたのだ。
「宇都宮はギョウザの街だからな」
ワン!
ツンの一声でギョウザの店に入ることにした。
「おっと、ツンは人間にしておかないとな……えい!」
「え、ツンて女の子だったの!?」
目がクリッとした、ショートヘアの似合う中学くらいの女の子になった。
「わん!」
「ああ……人の姿にしただけだから言葉は喋れないか」
「お箸とか使える?」
「わん」
「そうか、西郷さんがご主人だけあって、行き届いているな。いいか、無口な中学生で通すんだぞ」
ツンは『わ』の口で止まって、わははと笑ってごまかした。
繁盛している店で十人ほどの列ができていて『最後尾』というプラカードを受け継いで並んだ。周辺には、他にもギョウザや中華の店が並んでいて、街ぐるみギョウザで繁盛しているようだ。
「よそは『来々軒』とか『奉天』とか、それらしいのに、ここは『十四』なんだね……なんかそっけない、あ! うちのギョウザはジューシー! これだね、ジューシーギョウザなんだ!」
「違うと思うよ」
「……そうだ、十三だったら縁起が悪いから。欧米とかは、十三人でテーブル囲むのは縁起悪いから人形を椅子にに掛けさせたりするって」
「よく知ってるな」
「徳川先生に聞いたよ」
「懐かしいなあ」
「そ、そうだね」
徳川先生はポリ高家庭科の主任で、調理研の後ろ盾になってくれている。
「早く片付けて、調理研の日常に戻りたいな」
戦いが日常の魔法少女だが、そもそも、この時代には休養の為に来ている、ゆっくりしたいのが本音ではある。
「あ、次だよ」
ボンヤリしているうちに順番がまわってきた。
厨房には四角いギョウザ鍋が幾つも並んでいて、フル回転でギョウザを焼いている。店の大将が蓋を開けると盛大に湯気が上がり、焼き上がったばかりのギョウザの香りが店内に満ち満ちる。
「へい、お待ち!」
大将をそのまま若くしたようなアンチャンが注文したギョウザを並べてくれる。鼻先に持って来られたギョウザの匂いは格別だ。家や学校で作ってもこうはいかないだろう。
「大将、十四というのは宇都宮第十四師団のことだね?」
「よく分かったね、うちの店はひい爺さんが十四師団に居てね、満州で除隊になって始めたんだ」
「そうだったんだ!」
「感心ばかりしてると、先に食べられてしまうぞ」
ツンは喋らない分、黙々と食べている。
「大将、もう三人前追加だ」
「了解!」
店内のあちこちからも追加や新規のオーダーが入って、そのたびに「了解!」の声が上がる。
それは北支の斉斉哈爾(チチハル)に短期出動した時に馴染んだ十四師団の兵たちの口調そのものだ。
「大将も息子さんも、口元がいっしょだよ」
「ああ、初代の大将もな」
「あ、ほんとだ」
奥の壁にはビニールに包んで額が掛けてあり兵隊服の初代がにこやかな笑顔で写っている。
「なんか、口元がギョウザみたいね」
聞こえたのか、大将がアハハと笑った。
「あ、悪い意味じゃなくて(^_^;)」
「分かってるよ、お嬢ちゃん。この顔でね中隊長から『除隊したらギョウザ屋』をやれ、きっと繁盛するぞって言われて始めたってね……はい、追加あがり!」
息子が受け取ると、体を半回転するだけでカウンターに並べてくれる。まるで、戦闘行動の連携を見ているようで小気味がいい。
真っ先に箸を構えたツンの手が停まった。
「どうかしたか?」
『わ』の口のままツンの目が険しくなった。大将もギョウザ返しのテコを停めて耳をそばだてる。
敵襲!
大将の一声で空気が一瞬で変わってしまった!
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