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150『越谷の峠』
しおりを挟む魔法少女マヂカ
150『越谷の峠』語り手:マヂカ
越谷を過ぎ、峠の岩に腰かけて休んでいるとツンの姿が見えない。
ツンとは、神田明神を出たところで現れた西郷隆盛が託していった犬だ。
西郷は狩りが趣味で、故郷の鹿児島では鉄砲片手に猟犬を何匹も連れて野山を駆け巡っていた。その猟犬の代表みたいなのが、この中型犬で、上野の西郷さんの横に控えている。
旅に出てからは(妖や物の怪を退治しながらだが)付かず離れずで、将来、この旅が本になるとしたら、わたしと友里の横にツンが並んで歩いている姿が表紙を飾ることは間違いない。
そろそろ出立しようかというころに峠の向こうから帰ってきた。
「あれ? だれか連れてきたみたい」
峠の向こうを振り返り振り返りするツン。だれかを気遣っている様子だ。
『まってくれ、こんな遠くまで来るのは初めてなんだ、ああ……息が苦しい……』
オッサンの声がした後、峠に姿を見せたのは真っ白い犬だ。きっと後ろから息の上がったご主人様が現れるのだろう。
そう思って待っていると、白い犬が顔を上げて首を傾げた。
『後ろには誰もいません。ボクがツンさんに無理を言って連れてきてもらったんです』
「おまえは喋る犬なのか?」
『はい。えと、シロって言います。腰越の向こうの春日部に住んでいます。ツンさんが越谷まで来られたのでテレパシーを送って来ていただいたんです』
「可愛い割には、しっかりしてて、なんだか議員秘書みたい」
『恐れ入ります』
「わざわざ来たからには、なにか頼みごとがあるんだな?」
『ご明察、恐れ入ります。実は、春日部の地下神殿に巣食う魔物を退治していただきたいんです』
「魔物?」
「春日部に地下神殿があるのか?」
『はい、表向きは「首都圏外郭放水路」と申しますが、実は魔物の住処なのです。「首都圏外郭放水路」は中川・倉松川・大落古利根川などで溢れた水を、延長約6.3kmの地下水路で横軸につなぎ、この「調圧水槽」で一時貯留し江戸川に排水するという大規模な施設なのですが、この繋がりを良いことに魔物が住み着いたのです。いまは、まだ力を貯めているところですが、機を見て坂東一帯に災いをもたらそうと手ぐすねを引いております』
「なんという魔物なの」
『はい、それは……』
「口には出来ないのだな? その名を口にすれば気取られてしまう……」
『おっしゃる通りです。どうでしょうか?』
「悪いが、他を当ってくれ。我々は、神田明神の依頼で旅をしている。あまり道草を食っているわけにはいかないのだ」
『そのことはツンさんからも伺っています。いささかの難敵を相手にしておられるご様子、しかし、そのおん敵の力の元になっているのが、道々の物の怪、妖なのではないかと存じます』
「マヂカ、話に乗ってあげようよ」
「しかし、草加煎餅のように簡単にはいかないぞ」
ワン ワンワン
「ツンが何か言ってる」
『「わたしの猟犬としての勘と経験では、マヂカさんと友里さんの力で倒せる」と言っています』
「そうなの?」
ワン!
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「ジュル、宇都宮のギョウザって美味しいんだよ! 調理研としては外せないわよ!」
「わかったわかった、ヨダレを拭け」
二匹の犬に先導されて、春日部を目指すことになった。
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