141 / 301
141『なめくじ巴はどっち巻き?』
しおりを挟むライトノベル 魔法少女マヂカ
141『なめくじ巴はどっち巻き?』語り手:マヂカ
中央通を渡って西へ、湯島聖堂の緑青を噴いた大屋根を見当に歩いて行く。やがて右手に大鳥居が見えてくる。これが神田明神の正面だ。
普段は東側から男坂の階段を上る。
アキバからの最短ルートであるだけでなく、階段を上るというロケーションがアニメの絵面としては出来ている。『ラブライブ!』ではドラマの重要な舞台になり『ラブライブ!サンシャイン!!』では聖地になっている。
しかし、単に絵面がいいと言うだけでなく、西の男坂がいわば神田明神の勝手口であり、神や神に準ずるもはここから入るのが作法とされているのだ。
司令からの指令と洒落ているわけではないが、言いつけ通り正面の大鳥居を潜る。
「急な呼び出しにもかかわらず、お運びいただきまして有難うございます」
巫女さんが頭を下げて出迎えてくれる。
「あ……いつもの巫女さんじゃないんだ」
「はい、アオさんは男坂の巫女。正面大鳥居は、このアカが受け持っております。まずは、これへ……」
アカ巫女が左側の甘味処を示すと友里が声をあげた。
「あ、高坂穂乃花の実家!?」
「え、そうなのか?」
千年の歴史を生きてきた魔法少女は、そこまでは分からない。やはり、いまを生きている女子高生にはかなわない。
アカ巫女の後を付いて店内に入ると、「いらっしゃいませ!」と看板娘が出迎えてくれる。茶髪だが頭の小さなサイドポニーテールが可愛い。
「穂乃花だ……」
ペコリと頭を下げて友里が喜んでいる。
外からは分からなかったが、内暖簾の中は一間幅の廊下が奥まで続いている。
二回角を曲がったところに『ここより中奥』と表示があって、アカ巫女が「お着きいーーー」と声をあげ、同時に杉戸が開けられる。
さらに、二回廊下を曲がって広書院に出た。
「しばしお待ち願います」
アカ巫女がお辞儀をして去っていくと、数秒の間を開けて、神田明神が出御して上段に収まった。
「すまんな、わざわざ呼びつけて。ダークメイドは取り逃がしたようだが、黄泉の国では大層な働きぶりであったと聞いておる。おお、ひょっとして、それがジャーマンポテトだな。まずは、それを頂いてからの話にしよう。たれかある、酒と取り皿を持て!」
パンパン
神田明神が鷹揚に手を叩くと、アカ巫女が三方に載せた酒と取り皿を捧げ持って現れた。三方と徳利には神田明神のなめくじ巴の紋所が付いている。
わたしが目を留めたせいか、アカ巫女がチラリと三方を気にした。
「ささ、ジャーマンポテトをこれに入れて、三人で頂こうではないか。まずは近う寄れ」
―― え、いいの? ――
友里が心配な顔をするので、わたしの方から近寄る。
いちおう小笠原流の作法で、将軍に招かれた地方大名のように礼は尽くしておく。それに倣ってオタオタと友里が……ドテ! こけた。
「あいた!」
「とんだ無作法を」
友里の代わりに頭を下げる。予想通りアカ巫女の鼻が動いた。
「よいよい、ジャーマンポテトを無心したのは、このワシじゃ。作法にこだわることは無い」
もう一度三方に目をやって紋所を確認する。
「おや、紋所が……?」
「いかがいたした?」
「友里がこけるまでは、御紋のなめくじ巴は右巻きであったように……」
「気のせいであろう、紋所がころころ変わったりはせんであろう」
「いや、ですから。神田明神の紋所は右巻きが正しいのでございますが……」
そうなのだ、もともと紋所は正しく右巻きであったが、わたしが見咎めることでカマをかけると、アカ巫女が、その都度紋所の巻き方を逆にした。三回見咎めたので、紋所は逆の左巻きとなっている。
それに、なめくじ巴は俗称であって、神田明神や、その巫女が俗称で呼ぶことを咎めぬわけがない。
正しくは、流れ三つ巴なのだ!
「しまった、見破られた!」
ドロンと煙が立って、あたりは真っ白になってしまった。
白い煙が収まると、そこは、中央通の交差点だった。
中央通に出たところから化かされていたとは気づかなかった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
巡(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記
武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
時司巡(ときつかさめぐり)は制服にほれ込んで宮之森高校を受験して合格するが、その年度から制服が改定されてしまう。
すっかり入学する意欲を失った巡は、定年退職後の再任用も終わった元魔法少女の祖母に相談。
「それなら、古い制服だったころの宮の森に通ってみればぁ?」「え、そんなことできるの!?」
お祖母ちゃんは言う「わたしの通っていた学校だし、魔法少女でもあったし、なんとかなるよ」
「だいじょうぶ?」
「任しとき……あ、ちょっと古い時代になってしまった」
「ええ!?」
巡は、なんと50年以上も昔の宮之森高校に通うことになった!
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい
おのまとぺ
ファンタジー
魔法学校の教師として働いていたコレット・クラインは不慮の事故によって夢半ばで急逝したが、ある朝目覚めると初めて教師として採用された日に戻っていた。
「これは……やり直しのためのチャンスなのかも!」
一度目の人生では出来なかった充実した生活を取り戻すために奔走するコレット。しかし、時同じくして、セレスティア王国内では志を共にする者たちが不穏な動きを見せていた。
捻くれた生徒から、変わり者の教師陣。はたまた自分勝手な王子まで。一筋縄ではいかない人たちに囲まれても、ポンコツ先生は頑張ります!
いきなり婚約破棄されたので、聖女になって人助けをします。
Seabolt
ファンタジー
いきなり婚約破棄を言い渡されたフリージアは、途方に暮れ、街をさまよい歩くうちに馬車に引かれた。薄れゆく意識の中、突如、黒い光に包まれる。
そこで出会った悪魔によって、記憶と交換に生き返る道を選んだ。更に空白となった記憶の部分に魔力をもらった。しかし、人々を治療しているうちに聖女として第二の人生を歩むことになる。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる