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037『千駄木女学院・1』
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魔法少女マヂカ
037『千駄木女学院・1』 語り手:マヂカ
日ごろは東口で事足りる日暮里駅、今日は西口から出る。
ガーゴイルに頼まれ神田明神の巫女さんに念を押されて千駄木女学院にブリンダを訪ねるためだ。
用件そのものはウザったいのだが、風景は懐かしい。
夏目漱石、森鴎外、樋口一葉、石川啄木、若山牧水……二葉亭四迷なんてのもいたっけ。
みんな、わたしの散歩仲間だった。気まぐれに話したことがヒントになって、みんなイッチョマエの文学者になった。
しょせん、あんたは坊ちゃんだと言ってやったら、それをまんまタイトルにして『坊ちゃん』をものにした漱石。
軍人なら、そのテーマは止せと忠告してやったが『ヰタ・セクスアリス』を書いてしまった森鴎外。
早く医者に掛かれと忠告したのに二十四で結核で逝ってしまった樋口一葉。むろん魔法で治してやる事もできたんだが「魔法みたいに治っちまったんじゃ、面白みがね……」と俯いたあの子に言ってやる言葉が無かった。
一葉……いや、そんな薄幸なペンネームじゃなくて、夏子はわたしが魔法少女だということを知っていたのかもしれない。
自分の文学も人生も魔法みたいなものでどうこうされたくなかったんだろう。『たけくらべ』なんて、ほとんどラノベだよ。ラノベだったらファンタジーでいいんだよ。ファンタジーだったら魔法少女が、ちょいとロッドを振って病気ぐらい直してもよかったのにさ。
もう十年生きていれば五千円札では終わらなかっただろうにね。
生意気で泣き虫だった石川啄木を思い出したところで谷中銀座に差しかかる。
全国に、なんちゃら銀座という商店街は多いが、谷中銀座ほどしっくりくるところはないだろう。しかし、谷中銀座は終戦後できたものだ、それを懐かしく思うのは、ここが質のいいノスタルジーを醸し出しているからだろう。
谷中銀座を突っ切ると『よみせ通り』に差しかかる。
南に折れて電柱二本分行ったところで西へ、不忍通りを超えると日暮里から数えて三つ目の坂道、上がったところが大聖寺藩の屋敷……いや、今は須藤公園、どうも新旧の記憶がごっちゃになる。
公園脇の坂を上がると千駄木女学院のはずだ。
そう思って角を曲がると、女子高生が下りてくる。坂の上が千駄木女学院なのだから不思議は無いのだが、制服が違う。なにより気配が人ではない。
物の怪、妖(あやかし)の類なのだが、害意はまるで無いのでシカトする。
物の怪、妖にしてはションボリして生彩がないのだが、いやいや、関わってろくなことはない。
校門を入ると、特別教室棟の美術教室から気配がする。むろんブリンダの気配だ。
以前のような挑戦的なものではなく、わたしが道に迷わないように標(しるべ)として発したオーラだ。
「こんにちは」
穏やかに挨拶すると「すまん、呼び立てて」と、少し気弱そうな返礼。
ひょっとしてブラフか!?
思わず尻を押えてしまった。前回は、すれ違いざまにパンツを抜き取られたからな。
「よせよ、ほんとに困ってるんだ。わたしのところにも来栖一佐が来たんだ」
「え……特務師団の?」
「あ、そこで妖の女子高生に会わなかったか?」
話が、あちこちに飛びそうなブリンダだった……。
037『千駄木女学院・1』 語り手:マヂカ
日ごろは東口で事足りる日暮里駅、今日は西口から出る。
ガーゴイルに頼まれ神田明神の巫女さんに念を押されて千駄木女学院にブリンダを訪ねるためだ。
用件そのものはウザったいのだが、風景は懐かしい。
夏目漱石、森鴎外、樋口一葉、石川啄木、若山牧水……二葉亭四迷なんてのもいたっけ。
みんな、わたしの散歩仲間だった。気まぐれに話したことがヒントになって、みんなイッチョマエの文学者になった。
しょせん、あんたは坊ちゃんだと言ってやったら、それをまんまタイトルにして『坊ちゃん』をものにした漱石。
軍人なら、そのテーマは止せと忠告してやったが『ヰタ・セクスアリス』を書いてしまった森鴎外。
早く医者に掛かれと忠告したのに二十四で結核で逝ってしまった樋口一葉。むろん魔法で治してやる事もできたんだが「魔法みたいに治っちまったんじゃ、面白みがね……」と俯いたあの子に言ってやる言葉が無かった。
一葉……いや、そんな薄幸なペンネームじゃなくて、夏子はわたしが魔法少女だということを知っていたのかもしれない。
自分の文学も人生も魔法みたいなものでどうこうされたくなかったんだろう。『たけくらべ』なんて、ほとんどラノベだよ。ラノベだったらファンタジーでいいんだよ。ファンタジーだったら魔法少女が、ちょいとロッドを振って病気ぐらい直してもよかったのにさ。
もう十年生きていれば五千円札では終わらなかっただろうにね。
生意気で泣き虫だった石川啄木を思い出したところで谷中銀座に差しかかる。
全国に、なんちゃら銀座という商店街は多いが、谷中銀座ほどしっくりくるところはないだろう。しかし、谷中銀座は終戦後できたものだ、それを懐かしく思うのは、ここが質のいいノスタルジーを醸し出しているからだろう。
谷中銀座を突っ切ると『よみせ通り』に差しかかる。
南に折れて電柱二本分行ったところで西へ、不忍通りを超えると日暮里から数えて三つ目の坂道、上がったところが大聖寺藩の屋敷……いや、今は須藤公園、どうも新旧の記憶がごっちゃになる。
公園脇の坂を上がると千駄木女学院のはずだ。
そう思って角を曲がると、女子高生が下りてくる。坂の上が千駄木女学院なのだから不思議は無いのだが、制服が違う。なにより気配が人ではない。
物の怪、妖(あやかし)の類なのだが、害意はまるで無いのでシカトする。
物の怪、妖にしてはションボリして生彩がないのだが、いやいや、関わってろくなことはない。
校門を入ると、特別教室棟の美術教室から気配がする。むろんブリンダの気配だ。
以前のような挑戦的なものではなく、わたしが道に迷わないように標(しるべ)として発したオーラだ。
「こんにちは」
穏やかに挨拶すると「すまん、呼び立てて」と、少し気弱そうな返礼。
ひょっとしてブラフか!?
思わず尻を押えてしまった。前回は、すれ違いざまにパンツを抜き取られたからな。
「よせよ、ほんとに困ってるんだ。わたしのところにも来栖一佐が来たんだ」
「え……特務師団の?」
「あ、そこで妖の女子高生に会わなかったか?」
話が、あちこちに飛びそうなブリンダだった……。
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