32 / 301
032『空蝉橋』
しおりを挟む
魔法少女マヂカ
032『空蝉橋』語り手:マヂカ
信号を渡ると微妙に距離が近くなった。
近くなったことに違和感がなく、こっちから質問した。
「なんで、わたしのことが分かったの?」
魔法少女であることは秘密である。秘密にしておかなければ七十余年ぶりに休眠から覚めた意味がない。
だから、友里たちと調理研もやってるし、東池袋に住む羽目にもなっている。特務師団だろうが、こんな簡単に正体を知られてはかなわない。
「屋上で刀を振り回していたじゃないか」
あ……江ノ島の蝦蟇をやっつけた勢いで風切り丸を振り回した。
でも、人に見られないように屋上の給水タンクの陰でやったんだぞ。そのへんは気を付けている。
「上空をヘリコプターが飛んでいただろう」
「え…………?」
記憶をたどると、のどかなヘリコプターの爆音が蘇った。
しかし、あんなものは東京では日常的な環境音だ。それに、あんな高さからではタガー程度でしかない風切り丸が見えるわけがない。
「朝日にキラリと輝いていた。妖刀の輝きは独特だからね」
思わず胸ポケットでボールペンを手で押さえた。
「そうか、普段はボールペンに擬態させているんだ」
しまった(;'∀')!
いつの間にか空蝉橋に差しかかっていた。
昔は川が流れていたが、いま、橋の下は山手線が走っている。引っ越して間が無いし、通学路からも外れているので、ここまで来たのは初めてだ。
「なぜ、空蝉橋なのか分かるかい?」
「むかし、明治天皇が蝉の抜け殻を見つけたことが由来だったわね」
見かけは十七歳の女子高生だが、実年齢は、その百倍に近い。その程度の知識は豊富だ。
「蝉の抜け殻を最初に見つけたのは、君だよ」
「え……?」
「数百年も生きていると記憶は淘汰されていく。まして、休養中だ、そこらへんは無意識に制御してるんだろう」
……思い出した。
蝉の抜け殻を見つけたのはわたしだ……それを陛下がご覧になって……。
「きみが見つけたことには意味がある。いまは、それだけ分かってくれていればいい」
山手線を跨ぐ橋はいくらでもある。上野のパンダ橋などは、規模や面白さからでは、ずっと上だろう。
来栖一佐の暗示なのかもしれないが、ここは格別だ。
「ん……あそこにだけ街路樹が?」
橋の北詰斜面に沿った百メートルほどに唐突に街路樹がある。その向こうにもパラパラと街路樹はあるのだけれど、大きさや植樹の密度が飛びぬけている。
「斜面の両脇が切り落としの法面(のりめん)になっていて、地盤の補強……ということになっているが、あれは地脈エネルギーを収束して射出するための仕掛けなんだ」
「地脈エネルギー……」
「いずれ、マヂカの目にも明らかになる。とりあえずは知っておいてくれるだけでいい」
「わたしに、なにを?」
「休養中に申し訳ないが、時々でいい、特務師団に手を貸してもらいたい。風切丸の剣さばき、祖父さんが言っていたよりも力がある。また近いうちに会うことになるだろう。いきなりでは当惑もすることだろうし、今日は、ほんの予告編だ」
そう言うと、来栖一佐はスマホを取り出し、一度だけタッチ、一拍置いて、わたしのスマホが鳴った。
スマホの画面には『任 特務師団第一戦隊士 渡辺真智香一尉』と明記されている。
「あ、ちょっと!」
顔をあげると、一佐の姿は無く、空蝉橋の真ん中に一人残された間抜けな魔法少女がいるだけだった。
032『空蝉橋』語り手:マヂカ
信号を渡ると微妙に距離が近くなった。
近くなったことに違和感がなく、こっちから質問した。
「なんで、わたしのことが分かったの?」
魔法少女であることは秘密である。秘密にしておかなければ七十余年ぶりに休眠から覚めた意味がない。
だから、友里たちと調理研もやってるし、東池袋に住む羽目にもなっている。特務師団だろうが、こんな簡単に正体を知られてはかなわない。
「屋上で刀を振り回していたじゃないか」
あ……江ノ島の蝦蟇をやっつけた勢いで風切り丸を振り回した。
でも、人に見られないように屋上の給水タンクの陰でやったんだぞ。そのへんは気を付けている。
「上空をヘリコプターが飛んでいただろう」
「え…………?」
記憶をたどると、のどかなヘリコプターの爆音が蘇った。
しかし、あんなものは東京では日常的な環境音だ。それに、あんな高さからではタガー程度でしかない風切り丸が見えるわけがない。
「朝日にキラリと輝いていた。妖刀の輝きは独特だからね」
思わず胸ポケットでボールペンを手で押さえた。
「そうか、普段はボールペンに擬態させているんだ」
しまった(;'∀')!
いつの間にか空蝉橋に差しかかっていた。
昔は川が流れていたが、いま、橋の下は山手線が走っている。引っ越して間が無いし、通学路からも外れているので、ここまで来たのは初めてだ。
「なぜ、空蝉橋なのか分かるかい?」
「むかし、明治天皇が蝉の抜け殻を見つけたことが由来だったわね」
見かけは十七歳の女子高生だが、実年齢は、その百倍に近い。その程度の知識は豊富だ。
「蝉の抜け殻を最初に見つけたのは、君だよ」
「え……?」
「数百年も生きていると記憶は淘汰されていく。まして、休養中だ、そこらへんは無意識に制御してるんだろう」
……思い出した。
蝉の抜け殻を見つけたのはわたしだ……それを陛下がご覧になって……。
「きみが見つけたことには意味がある。いまは、それだけ分かってくれていればいい」
山手線を跨ぐ橋はいくらでもある。上野のパンダ橋などは、規模や面白さからでは、ずっと上だろう。
来栖一佐の暗示なのかもしれないが、ここは格別だ。
「ん……あそこにだけ街路樹が?」
橋の北詰斜面に沿った百メートルほどに唐突に街路樹がある。その向こうにもパラパラと街路樹はあるのだけれど、大きさや植樹の密度が飛びぬけている。
「斜面の両脇が切り落としの法面(のりめん)になっていて、地盤の補強……ということになっているが、あれは地脈エネルギーを収束して射出するための仕掛けなんだ」
「地脈エネルギー……」
「いずれ、マヂカの目にも明らかになる。とりあえずは知っておいてくれるだけでいい」
「わたしに、なにを?」
「休養中に申し訳ないが、時々でいい、特務師団に手を貸してもらいたい。風切丸の剣さばき、祖父さんが言っていたよりも力がある。また近いうちに会うことになるだろう。いきなりでは当惑もすることだろうし、今日は、ほんの予告編だ」
そう言うと、来栖一佐はスマホを取り出し、一度だけタッチ、一拍置いて、わたしのスマホが鳴った。
スマホの画面には『任 特務師団第一戦隊士 渡辺真智香一尉』と明記されている。
「あ、ちょっと!」
顔をあげると、一佐の姿は無く、空蝉橋の真ん中に一人残された間抜けな魔法少女がいるだけだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
俺の娘、チョロインじゃん!
ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ?
乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……?
男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?
アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね?
ざまぁされること必至じゃね?
でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん!
「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」
余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた!
え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ!
【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?
絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間
夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。
卒業パーティーまで、残り時間は24時間!!
果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる