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028『卵焼きだけがおっきい』

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魔法少女マヂカ

028『卵焼きだけがおっきい』語り手:マヂカ   

 


 綾姉がお弁当を作ってくれる。

 姉妹二人の生活なんだから、当たり前っちゃ当たり前。

 人間だったらね。

 綾姉の正体は、地獄犬のケルベロスだ。友里の一件以来東池袋で姉妹という設定で生活し始めたんだけど、リアリティーを出すために、なにごとも普通にやろうとする。たしかに、ゴミ出しにしても、きちんと生活感のあるゴミが入ってなきゃ勘ぐられてしまう。

 妖(あやかし)もそうなんだけど、意外と近所の人間が問題なんだ。

 たとえ区指定のゴミ袋でも、その佇まいから、中身が何かを察するくらいはご近所のオバサンたちには朝飯前だ。むろん、それっぽいゴミをでっちあげたり、オバサンたちの記憶を操作することもできるんだけど、魔法を使うと魔力残滓が残る。そこから嗅ぎつけられるのもご免だ。

 なにより、綾姉が人間の暮らしを楽しみ始めている。本人は認めないけどね。
 それで、綾姉のお弁当が続いているというわけよ。

「真智香のお弁当、おっきくなったわよね」

 ノンコが感心する。

「綾姉がつくると、こうなるの」

 ケルベロスは大食いなのだ。それでお弁当を作っても、つい多くなってしまう。

――大家族で育ったからさあ――なんて出まかせを言うと、その大家族と言うことで、いろいろでっち上げなくてはならなくなるので、苦笑いで済ます。

「適量のサンプルだよ」

 四日目の朝、大塚台公園で出会うと、友里がノートをくれた。

「わ、お料理ごとに写真付き!」

「うん、グラムとか書いても分からないだろうって、写真なら一発でしょ」

 実は、友里のお母さんが気の毒に思って指南書を作ってくれたのだ。まあ、要海家がうまくいってることの現れなので、ありがたく頂戴しておく。

 大塚台公園を過ぎて左に折れて都電の坂道を下る。パラパラめくって、このとおりやれば適量のお弁当になることを確信。
 
 その夜、綾姉に見せてやると「これは役に立つ!」と喜んだ。

 ささやかなことだけど嬉しくなってくる。

 友里の家がうまく収まり、調理研の友情も麗しい、綾姉の人間的生活も増々充実。

 フフ、アハハハ……。

 あくる日の通学路。

 坂道下りながら、どちらともなく笑いがこみ上げる。大人だったらウフフ(*´艸`*)くらいで収まるんだろうけど、そこは女子高生、笑い出したら増幅してしまって、都電通りの谷にこだますように笑ってしまう。

 ああ、これが普通に生きていることの喜びなんだ。

 休眠から覚めて初めての充足感が胸に満ちた。追い越していくOL風さんもニッコリしている、小学生がキョトンとしている、男子高校生が――なにがおかしいんだ――と、頬を染めている。普通に生きていることが普通に人の心をささやかに温めているんだ。

 大げさかもしれないけど、人間として生きていることの幸せを感じてしまったんだ。

「うわー、卵焼きだけおっきい!」

 ノンコが笑って清美も吹きだした。

 綾姉は指南書を見て「なるほど!」と、さっそく作ってみた。でも、卵焼きだけが変えられないのだ。

「一個だったら貧相でね、二個は使わないと卵焼きらしくならないのよ」

 おまけに、向かいの奥さんに勧められたとかで「健康なんたら~」とかいうLLの卵を買ったものだから、他のおかずが小さくなったお弁当箱の中で、その存在感を増してしまったのだ。

 これも、ビックリしたあと三人で笑っちゃって楽しくなったんだけど、やっぱ、どうにかしなくちゃということになった。

「きっと、友里のお母さんなら上手い解決法知ってるよ!」

 料理が苦手な清美は、友里のお母さんが魔法使いのように思えるんだ。

「そうそう、お母さん、きっと燃えるよ!」

 ノンコも焚きつけることで、友里の親子仲がさらに良くなるだろうと感じている。

「うん、ま、聞いてみるね」

 照れながら友里は頭を掻く。

 ちょっと面白くなってきた。
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