上 下
12 / 301

012『創部会』

しおりを挟む
魔法少女マヂカ

012『創部会』語り手・マヂカ   

 

 魔界の者は自分の手で食器を持たない。

 料理の方から一口分になってやってくる。

 むろん、人間的に食器を使うこともできるが、それは魔界の者と知られぬためのフェイクなのだ。

 いわばカモフラージュとか方便というものなので、食器を使うことに特別の思いはない。

 それは、料理も同じだ。

 七十余年ぶりの復活に当たり、食事やお弁当は自分で作るようにしている。

 こういうところに手を抜かないことが人間らしさに繋がると思うからだ。調理のスキルは魔力によるものなので一級品だ。その気になればミシュランの七つ星レストランシェフや料亭の板前が務まるぞ。

 あ、七つ星というのは無かったか。とにかく凄いんだ。

 凄いんだけど、魔族、魔法少女としては当たり前なので、特に感慨はない。

 
 だから、新鮮なんだ!

 
 調理研の創部会で、きれいな目玉焼きの作り方とキャベツの千切りを教えてやった。

 友里は、そこそこにできたが、ノンコと清美はからっきしだ。

 目玉焼きは、茶こしの中に卵を割って薄い白身を流しておくのがコツとも言えないテクニックだ。火の調整さえ間違わなければ、誰でもホテルの朝食の目玉焼きが作れる。

 キャベツの千切りは『猫の手』だ。左手をジャンケンのグウに似た猫の手の形にしてキャベツを押え、小気味よく右手の包丁で刻んでいく。これが出来ないと細くて揃った千切りはできない。

 ノンコも清美も出来なかった。チンタラやるのは性に合わないので、ちょっとだけ魔法のアシストを加えてやる。

「「わ、できたあ!」」

 二人とも宝くじが当たったように喜んでくれる。

 ささいなことだが、人間がスキルアップして喜んでいる姿はいいもんだ。七十余年前、さまざまな局面で人間を助けてやった。その都度人間は喜んでくれたが、自分が成長して喜んでいるのを見るのもいいもんだと思った。

「こんなに刻んじゃって、どうすんのよ!?」

 遅れてやってきた安倍先生があきれ返った。

 気が付くとキャベツ二玉をまるまる刻んでしまっていたのだ!

 あ~~~~~~~(^_^;)

 そこまで考えていなかった。

「よし! わたしが教えてやろう!」

 先生が腕まくりした。

 安倍先生は『玉子の鳥の素焼き』というのを教えてくれた。

 フライパンで千切りキャベツをさっと炒めて鳥の巣風にまとめる。真ん中にチキンラーメンのポケットのような窪みをつける。

「このポケットを二段にするのがコツなのよ……ほら、きれいにタマゴが収まるでしょ。あとは、ちょっと蓋をして、三十秒加熱して一分間蒸す」

 なんと、食品サンプルのように見事な『玉子の鳥の素焼き』が出来あがった!

「すごい! めっちゃ簡単で、たんぱく質も食物繊維も摂れて、新婚家庭の朝食にピッタリですね!」

 この、悪意など微塵もない友里の賞賛が空気を凍りつかせてしまった。

「し、新婚家庭の朝食な……(-.-)」

「あ、いや、そんなつもりじゃ……」

 彼氏いない歴〇年の先生は深く傷ついてしまったようだ。

「すまない、ちょっと用事を思い出した」

 闇魔法のかかったニンフのような足どりで、先生は調理室を出て行った。

「ど、どうしよう。あたし……」

「任せておきな、友里」

「マチカあああああ!」

 
 けしてリーダーなんかになるつもりはなかったが、この局面では、胸を叩くしかなかった。

 
 安倍先生は、仕事もそこそこに帰宅の道を日暮里駅に、シオシオと向かっているところだった。

 実年齢は先生よりも上だし、魔法少女であるわたしは、いくらでも解決する方法を知っている。もっと美人にしてやってもいいし、モテ魔法をかけてやってもいいのだ。だが、そんな安直な解決をしてはいけない空気が、先生の後姿にもわたしの心の中にもあった。

 為すすべもなく、角を曲がった先が駅前広場というところまでやってきた。

 そこに20キロオーバーのセダンが迫ってきた!

 ブオオオオオオオオオオオ!!

 危ない! 

 とっさの魔法も間に合わなかった。

 わたしは、超人的な(魔法少女が超人的なのは当たり前なのだが)ジャンプとスピードで先生を抱えると、衝突寸前で駅ビルの屋上まで跳躍した。

「やっぱり、魔法少女なんだ……」

「あ、えと……」

 先生は、元気はないものの、小さく笑って頷いてくれた。

 
―― マヂカ、こんなところにいたのか ――

 
 かすかな囁き……ケルベロスに言われるまで気づかないわたしだった。 

 

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

巡(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
時司巡(ときつかさめぐり)は制服にほれ込んで宮之森高校を受験して合格するが、その年度から制服が改定されてしまう。 すっかり入学する意欲を失った巡は、定年退職後の再任用も終わった元魔法少女の祖母に相談。 「それなら、古い制服だったころの宮の森に通ってみればぁ?」「え、そんなことできるの!?」 お祖母ちゃんは言う「わたしの通っていた学校だし、魔法少女でもあったし、なんとかなるよ」 「だいじょうぶ?」 「任しとき……あ、ちょっと古い時代になってしまった」 「ええ!?」  巡は、なんと50年以上も昔の宮之森高校に通うことになった!

かの世界この世界

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。

悪魔図鑑~でこぼこ3兄妹とソロモンの指輪~

天咲 琴葉
児童書・童話
全ての悪魔を思い通りに操れる『ソロモンの指輪』。 ふとしたことから、その指輪を手に入れてしまった拝(おがみ)家の3兄妹は、家族やクラスメートを救うため、怪人や悪魔と戦うことになる!

この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら
恋愛
 婚約相手のいない婚約式。  通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。  ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。  さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。  けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。 (まさかのやり直し……?)  先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。  ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。 小説家になろう様にも投稿しています。

異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を再建する

おっぱな
ファンタジー
【第一章】 不動産屋で働いていた花島つとむ(27)は外回りの最中に”魔法”と”能力”という二つの異能が存在する世界に飛ばされてしまう。 持ち前の適応能力の高さと図々しさで、ゴーレムの幼女のペットになってみたり、双子の魔法使いの家に居候してみたりと案外、異世界生活を楽しんでいる。 この世界で最強の力を持つ魔女と森の支配者であるゴーレムを掌握した手腕を買われ、エルフの王女に「私の国の再建を手伝いなさい」と半ば強制的に仕事をさせられるのだが... ...。 「異世界初の水洗トイレを開発」・「異世界初のマンションを建設」・「謎の敵との闘い」 *前半は主人公があまりにも図々しいのでイライラするかもしれません。 【第二章】 宿敵である”ハンヌ”を撃退した花島達は破壊された国の復興を本格的に始める。 そんな中、疲弊した様子で隣国の者がホワイトシーフ王国に訪れ_____。 「他国との交流」・「王位継承戦」・「ゴーレム幼女の過去」が明かされます。 *一話平均2000~3000文字なので隙間時間に読んでいただければ幸いです。 *主人公は最強ではありませんが、最弱という訳でもありません。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

処理中です...