68 / 72
68『省吾との再会』
しおりを挟む
真夏ダイアリー
68『省吾との再会』
「ノックはしたんですが、お気づきになられないようなので、失礼しました」
来栖大使がメガネをずらして、わたしを見あげる。
「君、悪いが席を外してくれたまえ。野村大使と話があるんだ」
「男同士の飲み会だったら、ご遠慮しますが、外務省からの機密訓電だったら同席します」
「君は……?」
「東郷さんから、この件については彼女を同席させるように……ほら、これだよ」
野村大使は、わたしに関する書類を来栖さんに見せた。
「しかし、こんな若い女性を……それに君はポーランドの血が……」
「四分の一。来栖さんの息子さんは、ハーフだけど陸軍の将校でいらっしゃる。一つ教えていただけませんか。外交官の資質って、どんなことですか?」
「明るく誠実な嘘つき」
「明るさ以外は自信ないなあ。三つを一まとめにしたら、なんになりますか?」
「インスピレーション……かな、来栖さん」
「よかった、経験だって言われなくて。わたしは外交官じゃないけど、今度の日米交渉には、くれぐれも役に立つように言われてるんです、東郷外務大臣から」
「と、言うわけさ。来栖さん」
ここまでは、前回と同じだった。
ジョ-ジとの出会いもそのままだったので違和感はない。
しかし、ここからは、新しい展開だった。
「君の言った通りだ、入ってきたまえ高野君」
「失礼します」
入ってきたのは、四十過ぎの気のよさそうなおじさんだった。ただ、少し顔色が悪い。
「高野君の言ったとおりの女性だ。度胸もいいし、機転も利く。あとは、君のようなスキルがあるかどうかだが」
「それは、大丈夫です。日本で十分鍛えておきましたから」
なんのことだろう、この高野という人物についての情報はインストールされていない……。
「じゃ、さっそく仕事にかかろう」
「真夏君は、いま来たところだ。荷物の整理ぐらい……」
「間もなく訓電が入ってきます、時間がありません。この数時間が勝負です。それが終わったら、祝勝会をやりましょう。大使のおごりで」
「どっちの大使かね、ここにはわたしと、特命大使の来栖君の二人がいるんだがね」
「ポーカーでもやって決めておいてください。なんなら両大使お二人でという、わたし達には嬉しい選択肢もありますがね」
「ハハ、さすが山本さんの甥だ」
野村大使が笑った。
「かなわんな、高野君にかかっちゃ」
来栖大使も眉を八の字にした。かなりの信頼を得ているようだ。それにしても、省吾は……。
「分からないか、ボクが省吾だよ」
通信室に入るなり、高野が言った。
「え……!?」
「もう高校生には、見えないけどね」
「ほんとに、省吾なの……!?」
「ああ、根性で、踏みとどまってるけど、もう二時間ほどが限界だった。ぼくの実年齢は八十に近いんだ」
「高校生にもみえないけど、八十のオジイチャンにも見えないわ」
「加齢は、内臓に集中させてある。外見は四十前さ。ここでの設定は山本五十六の甥ということにしてある。リベラルな二人の大使の信用を勝ち得るのには最適な設定だ」
「ほんとに……ほんとに省吾なの……?」
「ちょっと残念な姿だけどね」
熱いものがこみ上げてきた。
「で……わたしは何を?」
「それはインストールされているだろう。側にいてくれるだけでいい」
「やっぱり……」
「そう、このタイムリープは、かなりの無茶をやっている。真夏が、ぼくのタイムリープのジェネレーターなんだ」
限界を超えたタイムリ-プをすると急速に歳をとり、やがては死に至る。それを防ぐために必要なのが、ジェネレーターの存在。適合者は数千万人に一人。省吾のタイムリープの限界2022年に絞れば、何十億人に一人の割でしかない。頭では理解しているが、心では少し違った感情があった。それを察したのか省吾は、優しくハグしてくれた。
「ただの適合者というだけで、無理ばかりさせて……ごめん。この歴史を変えたら解放してあげられるから、もう少し……」
―― 解放なんかされなくていい、オジサンになっていてもいい。省吾の側にいられるなら。役に立つなら ――
わたしの心は、省吾への気持ちで溢れそうになった。その時、省吾の体が、一瞬ピクリとした。
「真夏、ヒットした!」
一瞬、想いを悟られたかと思ったが、省吾は、レトロな無線機に見せかけたCPに飛びついた……。
68『省吾との再会』
「ノックはしたんですが、お気づきになられないようなので、失礼しました」
来栖大使がメガネをずらして、わたしを見あげる。
「君、悪いが席を外してくれたまえ。野村大使と話があるんだ」
「男同士の飲み会だったら、ご遠慮しますが、外務省からの機密訓電だったら同席します」
「君は……?」
「東郷さんから、この件については彼女を同席させるように……ほら、これだよ」
野村大使は、わたしに関する書類を来栖さんに見せた。
「しかし、こんな若い女性を……それに君はポーランドの血が……」
「四分の一。来栖さんの息子さんは、ハーフだけど陸軍の将校でいらっしゃる。一つ教えていただけませんか。外交官の資質って、どんなことですか?」
「明るく誠実な嘘つき」
「明るさ以外は自信ないなあ。三つを一まとめにしたら、なんになりますか?」
「インスピレーション……かな、来栖さん」
「よかった、経験だって言われなくて。わたしは外交官じゃないけど、今度の日米交渉には、くれぐれも役に立つように言われてるんです、東郷外務大臣から」
「と、言うわけさ。来栖さん」
ここまでは、前回と同じだった。
ジョ-ジとの出会いもそのままだったので違和感はない。
しかし、ここからは、新しい展開だった。
「君の言った通りだ、入ってきたまえ高野君」
「失礼します」
入ってきたのは、四十過ぎの気のよさそうなおじさんだった。ただ、少し顔色が悪い。
「高野君の言ったとおりの女性だ。度胸もいいし、機転も利く。あとは、君のようなスキルがあるかどうかだが」
「それは、大丈夫です。日本で十分鍛えておきましたから」
なんのことだろう、この高野という人物についての情報はインストールされていない……。
「じゃ、さっそく仕事にかかろう」
「真夏君は、いま来たところだ。荷物の整理ぐらい……」
「間もなく訓電が入ってきます、時間がありません。この数時間が勝負です。それが終わったら、祝勝会をやりましょう。大使のおごりで」
「どっちの大使かね、ここにはわたしと、特命大使の来栖君の二人がいるんだがね」
「ポーカーでもやって決めておいてください。なんなら両大使お二人でという、わたし達には嬉しい選択肢もありますがね」
「ハハ、さすが山本さんの甥だ」
野村大使が笑った。
「かなわんな、高野君にかかっちゃ」
来栖大使も眉を八の字にした。かなりの信頼を得ているようだ。それにしても、省吾は……。
「分からないか、ボクが省吾だよ」
通信室に入るなり、高野が言った。
「え……!?」
「もう高校生には、見えないけどね」
「ほんとに、省吾なの……!?」
「ああ、根性で、踏みとどまってるけど、もう二時間ほどが限界だった。ぼくの実年齢は八十に近いんだ」
「高校生にもみえないけど、八十のオジイチャンにも見えないわ」
「加齢は、内臓に集中させてある。外見は四十前さ。ここでの設定は山本五十六の甥ということにしてある。リベラルな二人の大使の信用を勝ち得るのには最適な設定だ」
「ほんとに……ほんとに省吾なの……?」
「ちょっと残念な姿だけどね」
熱いものがこみ上げてきた。
「で……わたしは何を?」
「それはインストールされているだろう。側にいてくれるだけでいい」
「やっぱり……」
「そう、このタイムリープは、かなりの無茶をやっている。真夏が、ぼくのタイムリープのジェネレーターなんだ」
限界を超えたタイムリ-プをすると急速に歳をとり、やがては死に至る。それを防ぐために必要なのが、ジェネレーターの存在。適合者は数千万人に一人。省吾のタイムリープの限界2022年に絞れば、何十億人に一人の割でしかない。頭では理解しているが、心では少し違った感情があった。それを察したのか省吾は、優しくハグしてくれた。
「ただの適合者というだけで、無理ばかりさせて……ごめん。この歴史を変えたら解放してあげられるから、もう少し……」
―― 解放なんかされなくていい、オジサンになっていてもいい。省吾の側にいられるなら。役に立つなら ――
わたしの心は、省吾への気持ちで溢れそうになった。その時、省吾の体が、一瞬ピクリとした。
「真夏、ヒットした!」
一瞬、想いを悟られたかと思ったが、省吾は、レトロな無線機に見せかけたCPに飛びついた……。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、無実の罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました
深水えいな
キャラ文芸
国を統べる最高位の巫女、炎巫。その炎巫候補となりながら身に覚えのない罪で処刑された明琳は、死の淵で「お前が本物の炎巫だ。このままだと国が乱れる」と謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女として四度人生をやり直すもののうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは後宮で巻き起こる怪事件と女性と見まごうばかりの美貌の宦官、誠羽で――。
婚約破棄? ではここで本領発揮させていただきます!
昼から山猫
ファンタジー
王子との婚約を当然のように受け入れ、幼い頃から厳格な礼法や淑女教育を叩き込まれてきた公爵令嬢セリーナ。しかし、王子が他の令嬢に心を移し、「君とは合わない」と言い放ったその瞬間、すべてが崩れ去った。嘆き悲しむ間もなく、セリーナの周りでは「大人しすぎ」「派手さがない」と陰口が飛び交い、一夜にして王都での居場所を失ってしまう。
ところが、塞ぎ込んだセリーナはふと思い出す。長年の教育で身につけた「管理能力」や「記録魔法」が、周りには地味に見えても、実はとてつもない汎用性を秘めているのでは――。落胆している場合じゃない。彼女は深呼吸をして、こっそりと王宮の図書館にこもり始める。学問の記録や政治資料を整理し、さらに独自に新たな魔法式を編み出す作業をスタートしたのだ。
この行動はやがて、とんでもない成果を生む。王宮の混乱した政治体制や不正を資料から暴き、魔物対策や食糧不足対策までも「地味スキル」で立て直せると証明する。誰もが見向きもしなかった“婚約破棄令嬢”が、実は国の根幹を救う可能性を持つ人材だと知られたとき、王子は愕然として「戻ってきてほしい」と懇願するが、セリーナは果たして……。
------------------------------------
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる