15 / 72
15『ガールズ&パンツァー』
しおりを挟む
真夏ダイアリー
15『ガールズ&パンツァー』
昨日、乃木坂学院の文芸部での『ガールズ&パンツァー』についての江ノ島クンの講義はすごかった。
「戦車を使った武道である戦車道が華道や茶道などとと並び女子高生の嗜(たしなみ)みとされている世界を描いた物語で、兵器である戦車を美少女達が部活のように打ち込むという、ミリタリーと萌え要素を併せ持つ作品なんだ」
この説明までは、単なるオタクかと、すこしガッカリしたけど、このあとがスゴかった。
「むかし、小松左京が『日本アパッチ族』を、筒井康隆が『時をかける少女』を書いていたころは、子ども相手のSFとバカにされた。当時は士農工商・犬・SFと言われた時期で、だれも、今のSFの隆盛を予想さえできなかったんだ」
「お茶にしますけど、ミルクになさいます? それともレモン?」
そこで、副部長の福田麻里さんが、お茶を入れてくれた。
「one for you.one for me.one for the pot……」
と、にこやかに呟きながら。
「なにか、オマジナイですか?」
玉男がバカ丸出しで聞いた。
「イギリスで紅茶を入れるときの作法だよ」
省吾がフォロー。
「そんな、たいそうなものじゃないです。玉男さんが、おっしゃるようにオマジナイ。まあ、人数より一杯分多めにお茶葉入れたほうが、おいしくなるってコツでもあるんですけど」
「昔は、こんなものサブカルチャーで切り捨てられたんだけど、オレたちは、そういうとこにも目を向けて、広い意味で、日本文学の有りようを考えてみようと思うんだ」
で、十分ほどのDVDのダイジェストを見せてもらった。わたしでも十分のめり込めそうな内容で、「ホー」と感心していると、麻里さんが、コミックを机に並べてくれ、わたしと穂波は、しばし読みふけった。その間、本職の文芸部さんたちは、サブカルチャーとか限界芸術だとか、ムツカシイ言葉を並べて論じ合っていた。
夕方になって、帰り際に記念写真を撮った。
そして交流記念ということで、わたしたち四人で真新しいサイン帖にサインした。
「やっぱ、あいつら、真夏が目当てだったな」
駅への坂を下りながら、省吾が呟いた。
「え、そうなの!?」
「サイン帖新しかっただろ。写メもみんなで撮りっこしたけど、本命は真夏だ」
「それって、なんだかヤナ感じ」
穂波が文句を言った。
「いいじゃん。あの子たち、とっても紳士的だったし」
「あ……そう」
サラっと言った言葉への反応には戸惑いがあった。この三日あまりで、わたし変わった……それとも、わたしの周囲が。多分その両方……。
夜、夢の中にエリカが出てきた。あいかわらず薄桃色の衣装で、ニコニコ明るく笑っている。
――そうか、いま満開だもんね――
できることならエリカと喋ってみたかったけど、やっぱりエリカはお花。黙って愛情をくれるだけなんだ。
寝る前に、お母さんがついでのように言った。
「年末、二人で一泊旅行しようか……?」
「……保留」
わたしは、お母さんの心遣いは嬉しかったけど、その心遣いが痛たましくって、ついツッケンドンな物言いになってしまった。心も体も発展途上。われながらモドカシイ……そう寝ながら身もだえしたら、エリカが優しく頷いてくれた。
「え、大洗のことだったの!?」
リビングのテーブルから落ちかけていたパンフが目について、思わず声が出た。
「そうよ、まあ、アンコウ鍋ぐらいしかないとこだけどね……」
「いくいく、ここだったら行くよ!」
「真夏、アンコウなんて食べたことないでしょ?」
「おいしいに決まってるよ。お母さん、ここ行こう!」
「いいけど……なんで?」
「帰ったら説明する。まずは朝ご飯だよ-ん!」
わたしは『ガールズ&パンツァー』にひっかけて、気持ちを引き立てた。『ガールズ&パンツァー』は、きのう学院でサラっとレクチャー受けただけだけど、大洗が舞台になっていることは、頭に入っていた。それをテコにして元気に返事した。
――がんばるね。
満開のエリカに気持ちだけ伝えると、ベ-コンエッグをトーストに載っけて、パクついた。
「へー、なるほど……」
放課後、図書室のパソコンで『ガールズ&パンツァー』を省吾たちと検索。昨日以上に盛り上がって、図書の先生に叱られる。ネット通販は、図書館のパソコンでは検索できない。ままよと、三人野球をキャンセルして、ゲーム屋に直行。
さすがに『ガールズ&パンツァー』のはなかったけど、プレステ2対応の戦車ゲームの中古を買った。もともと車のゲームは大好き『GT5』ではA級国内ライセンスをとるところまできている。
わたしは、まず自分をハメてみるところから始めた……。
15『ガールズ&パンツァー』
昨日、乃木坂学院の文芸部での『ガールズ&パンツァー』についての江ノ島クンの講義はすごかった。
「戦車を使った武道である戦車道が華道や茶道などとと並び女子高生の嗜(たしなみ)みとされている世界を描いた物語で、兵器である戦車を美少女達が部活のように打ち込むという、ミリタリーと萌え要素を併せ持つ作品なんだ」
この説明までは、単なるオタクかと、すこしガッカリしたけど、このあとがスゴかった。
「むかし、小松左京が『日本アパッチ族』を、筒井康隆が『時をかける少女』を書いていたころは、子ども相手のSFとバカにされた。当時は士農工商・犬・SFと言われた時期で、だれも、今のSFの隆盛を予想さえできなかったんだ」
「お茶にしますけど、ミルクになさいます? それともレモン?」
そこで、副部長の福田麻里さんが、お茶を入れてくれた。
「one for you.one for me.one for the pot……」
と、にこやかに呟きながら。
「なにか、オマジナイですか?」
玉男がバカ丸出しで聞いた。
「イギリスで紅茶を入れるときの作法だよ」
省吾がフォロー。
「そんな、たいそうなものじゃないです。玉男さんが、おっしゃるようにオマジナイ。まあ、人数より一杯分多めにお茶葉入れたほうが、おいしくなるってコツでもあるんですけど」
「昔は、こんなものサブカルチャーで切り捨てられたんだけど、オレたちは、そういうとこにも目を向けて、広い意味で、日本文学の有りようを考えてみようと思うんだ」
で、十分ほどのDVDのダイジェストを見せてもらった。わたしでも十分のめり込めそうな内容で、「ホー」と感心していると、麻里さんが、コミックを机に並べてくれ、わたしと穂波は、しばし読みふけった。その間、本職の文芸部さんたちは、サブカルチャーとか限界芸術だとか、ムツカシイ言葉を並べて論じ合っていた。
夕方になって、帰り際に記念写真を撮った。
そして交流記念ということで、わたしたち四人で真新しいサイン帖にサインした。
「やっぱ、あいつら、真夏が目当てだったな」
駅への坂を下りながら、省吾が呟いた。
「え、そうなの!?」
「サイン帖新しかっただろ。写メもみんなで撮りっこしたけど、本命は真夏だ」
「それって、なんだかヤナ感じ」
穂波が文句を言った。
「いいじゃん。あの子たち、とっても紳士的だったし」
「あ……そう」
サラっと言った言葉への反応には戸惑いがあった。この三日あまりで、わたし変わった……それとも、わたしの周囲が。多分その両方……。
夜、夢の中にエリカが出てきた。あいかわらず薄桃色の衣装で、ニコニコ明るく笑っている。
――そうか、いま満開だもんね――
できることならエリカと喋ってみたかったけど、やっぱりエリカはお花。黙って愛情をくれるだけなんだ。
寝る前に、お母さんがついでのように言った。
「年末、二人で一泊旅行しようか……?」
「……保留」
わたしは、お母さんの心遣いは嬉しかったけど、その心遣いが痛たましくって、ついツッケンドンな物言いになってしまった。心も体も発展途上。われながらモドカシイ……そう寝ながら身もだえしたら、エリカが優しく頷いてくれた。
「え、大洗のことだったの!?」
リビングのテーブルから落ちかけていたパンフが目について、思わず声が出た。
「そうよ、まあ、アンコウ鍋ぐらいしかないとこだけどね……」
「いくいく、ここだったら行くよ!」
「真夏、アンコウなんて食べたことないでしょ?」
「おいしいに決まってるよ。お母さん、ここ行こう!」
「いいけど……なんで?」
「帰ったら説明する。まずは朝ご飯だよ-ん!」
わたしは『ガールズ&パンツァー』にひっかけて、気持ちを引き立てた。『ガールズ&パンツァー』は、きのう学院でサラっとレクチャー受けただけだけど、大洗が舞台になっていることは、頭に入っていた。それをテコにして元気に返事した。
――がんばるね。
満開のエリカに気持ちだけ伝えると、ベ-コンエッグをトーストに載っけて、パクついた。
「へー、なるほど……」
放課後、図書室のパソコンで『ガールズ&パンツァー』を省吾たちと検索。昨日以上に盛り上がって、図書の先生に叱られる。ネット通販は、図書館のパソコンでは検索できない。ままよと、三人野球をキャンセルして、ゲーム屋に直行。
さすがに『ガールズ&パンツァー』のはなかったけど、プレステ2対応の戦車ゲームの中古を買った。もともと車のゲームは大好き『GT5』ではA級国内ライセンスをとるところまできている。
わたしは、まず自分をハメてみるところから始めた……。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる