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適材適所

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 武闘大会は予選で5回勝ち進めると、本選に進める。本選に進めるのは、16人。かなりの人数が出場しているため、その腕はピンからキリまでいる。その証拠に、ヴィディーレの一回戦は。

 「マジか!優勝候補にも挙げられてるAランクのヴィディーレ?!」

 と叫ぶ見るからに新人冒険者といったなりの少女。しかし、ラフェとは違ってすぐに思考を切り替えた彼女は、スピードを生かした戦法で短期決戦に持ち込もうとした。風魔法を使用して勢いよく突進してきた少女は。

 「いいね。先が楽しみだ」

 ニヤリと笑って呟いたヴィディーレにあっさり交わされた挙句、がら空きの胴に蹴りを叩き込まれて吹っ飛ぶ。そのまま目を回している最中に、首筋に剣を当てられ試合終了。

 二回戦は、構えも装備も上等で、中堅から上位の冒険者といった感じの男。しかし、一点、難があった。

 「ああ、ヴィディーレだ!ずっと憧れてたんです自分!こんな所で会えるなんて、握手してください!」
 「男に憧れられても微妙。つか、その前に試合に集中しろ馬鹿」

 目をキラキラと輝かせて突っ立っている内にヴィディーレに勢いよく剣の柄で殴られてKO。実に幸せそうな顔で卒倒したをみて、ヴィディーレの腕に鳥肌が立ったとか立たなかったとか。

 何はともあれ、三回戦。

 今度はまともな奴が出て来いよ、とげんなりしつつ会場に向かった先で。ヴィディーレは目を見開いた。その先に居たのは。

 「アンタ、センシアか!」
 「おうよ。久しいなヴィディーレ」

 ウヌスの街で出会った壮年の重装備冒険者。よく日に焼けた強面の顔に笑みを浮かべ、立派な鎧をまとって立っていた。盛り上がりと共に湧き上がる歓声の中、歩み寄って握手する。

 「驚いた。俺たちよりもよっぽど先に出立してたし、こんな所であうなんて思いもしなかった」
 「近くに寄ったもんでな。ここの武闘大会は有名だし、腕試しに参加したんだ。お前さんの名前はそこら中で聞いてるぞ」
 「……やめてくれ気恥ずかしい」
 「ちなみに、俺もお前に賭けた」
 「そこは自分に賭けろおっさん。負ける前提か」

 茶目っ気たっぷりに揶揄われ、がっくりと項垂れる。早くも精神的ダメージを負った気分である。やれやれと体を伸ばし、柄に手を添える。すっと体の前に大盾を構えたセンシアも、楽し気な笑みを一瞬のぞかせたのち、びりびりと気迫に満ちた顔付きになる。じりりと腰を落とし、ヴィディーレは好戦的に笑う。

 「始め!」

 審判の声を皮切りに、ヴィディーレは一気に躍りかかった。これまではのらりくらりとデュランダルを振るっていたが、今回は思いきり切りかかれる。勢いに体重を乗せた重い剣を叩きつける。流石の反応速度で盾で防いだセンシアが、泳いだヴィディーレの躰めがけて剣を叩き落としてくる。咄嗟に後ろに飛び去って避けるが、一瞬の間をおいて服に一文字が。ヒューとヴィディーレは口笛を吹く。

 「流石!」
 「こんなもんじゃねぇだろ、小僧!来い!」

 誘われるままに飛び掛かる。切りかかり、防ぎ防がれ、体勢を崩しては隙を逃さない相手の剣が迫る。一進一退の攻防が続く。

 「逆巻け!」
 「なんの!」

 ヴィディーレの振るうデュランダルが、暴風を巻き起こし。センシアの掲げる盾が土の壁を作り出して跳ね除ける。鋭い風が土を巻き上げて吹き荒れ、周囲を切り裂いていく。すぐに収まった風を防ぎ切ったセンシアがニヤリと笑って盾から顔を出し。

 「?!」
 「わりぃなおっさん!後ろだ!」

 姿を消したヴィディーレに動揺して一瞬のスキが生じる。風によって注意を引き、同時に巻き起こした砂嵐に身を潜めて肉薄する。即座に反応したセンシアが盾を動かすも、間に合わない。ヒュン、と音を立ててデュランダルが首筋に突き付けられ。中途半端な体勢で動きを止めたセンシアが、目を見開いた後、苦笑した。

 ガラン、と音を立てて大盾と剣がその手から滑り落ち。

 「そこまで!勝者ヴィディーレ!」

 会場が歓声に揺れた。





 「かーっ!やっぱり強ぇなヴィディーレ」
 「アンタもな。流石につかれたぜ。楽しかったけど」
 「そりゃお互い様だな」

 次の試合に会場を譲り、二人は会場の通路の一角で腕を触れ合わせていた。双方ともに息を切らし、全身きり傷、打ち身だらけではあったが、心底楽しそうだ。そんな二人に恨めし気な視線が突き刺さる。

 「……おう、お前さんは剣の使い方を学んだら出直してきな。そしたらいくらでも相手してやる」
 「ちくしょう!ヴィディーレばっかりずりぃぞ!」
 「だから、お前はまず剣を振るえるようになってだな」

 ウルウルと涙目のラフェがセンシアに迫る。俺とも手合わせを!といいたいのが分かっているのだろう。堂々巡りの会話をしつつ、宥めようとしている。心が広い。ヴィディーレは近くにやってきたリートに一応視線を向けるが。

 「アレは病気だ」

 一言で一刀両断。静かに首を振る彼に苦笑する。そうだよなぁ、と思いつつ、センシアに縋り付くラフェをべりと引きはがす。センシアの仲間が彼を迎えに来たのが見えたからだ。

 「おっと。じゃあまたどこかで会ったら手合わせしようぜ」
 「こちらこそ頼む」
 「次は俺も!」
 「剣が振るえるようになってたらな」

 バッサリと切り捨ててセンシアは去っていった。打ちひしがれるラフェは放置して彼らを見送ると、リートとヴィディーレは連れ立って歩き出した。チラリと空を見上げるも、予定されている次の試合まではまだ時間がありそうだ。

 「さて、何処で時間を潰すか」
 「とりあえず腹減った。何か食おうぜ」
 「あ、じゃあこの前見つけた郷土料理屋行こうぜ。旨そうだった」
 「んじゃそこな。ついでに何処か武器屋見つけてデュランダルの手入れがしたい」
 「ならギルドに言って紹介してもらうか。ついでにクラウ・ソラスも見てもらえ」

 一通りの予定を立てつつ、ラフェの道案内で腹ごしらえに向かう。しかし、向かう先がどうも細く暗い道ばかりで、ヴィディーレが徐々に半眼になっていく。

 「おい、この道で大丈夫なのか?」
 「安心しろ。この男は道案内だけはマトモに出来る」
 「なんかとげのある保証の仕方だな?!道案内だけだと?!」
 「本当の事だろう」
 「リートがそう言うなら大丈夫か」
 「なんか扱いが雑?!」

 やいやいと騒ぎつつ、角を曲がろうとしたその時。ラフェとヴィディーレの体に緊張が走り、動きを止める。ぱっと同じ方向に顔を向け、まるで耳を澄ましているかのようだ。

 「どうした」
 「しっ!……おい、ヴィディーレ」
 「ああ。行くぞ!」

 チラリと視線を交えた二人が、ぱっと身を翻して小道の一本に飛び込んだ。
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