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始まり
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「はぁ⁈」
ラフェとヴィディーレの声が被る。信じられない想いはプエルとパテルも同じようだ。みるみる内にその顔が絶望に染まる。
「でも、この花があればって、お兄ちゃんが!」
「そうなんですが、その方法は……」
「方法は?」
「……今は殆ど伝わっておらず、古書の何処かに書かれているとしか」
「おいおいマジかよ」
ここまで来て訪れた絶望的な状況に、ラフェがアハハと笑う。虚ろな目から察するに、一周回って笑うしかないのだろう。親子の顔には最早表情が無い。
「まぁ、プエルが無事に帰ってきた事だけでも……」
そう言って無理やり笑みを作るパテル。堪え切れず泣き叫ぶ息子を抱え、仕方ないさ、頑張ったと声を掛ける。手の出しようのない事に歯噛みして、ヴィディーレが拳を強く握りしめる。
「っ」
その瞬間、全身に走った痛みに顔をしかめる。そう言えばダンジョンを脱出した後、少し休憩しただけで治療は後回しにしていたのだった。それに気づいた医者が、そっと申し出る。
「あの。治療くらいなら、いくらでもできますが……」
「あ、治療費はウチで」
「別にそれくらい大丈夫です。傷が沢山ある位で大した金額に……」
どっかのぼったくり薬師とは違いそうだし、と思いつつそこまで言って、はっと気づく。同時にラフェも気付いたようだ。二人して一瞬硬直し、ガバっと振り返る。その視線の先で。
「……なんだ」
心底嫌そうな顔をした美貌の軍師兼薬師たる青年がいた。
「薬師!」
「本職は軍師だ」
斜め上の返答は無視して、じっと見つめる。居心地悪そうに視線を外し明後日の方向を向くその顔を凝視する。暫く無言の応酬をしていたが、二対の視線に耐え兼ね、渋々リートが振り返る。
「……なんだ」
「お前、薬師だろう。知らないか⁈」
その言葉に親子と医者が目を見開き、リートを見る。縋るような三対の視線が加わり、苦虫を嚙み潰したような顔をしたリートだったが、結局無言の圧力に屈し、渋々認める。
「精製の方法は読んだことがある」
「本当ですか⁈」
「……振っておいてなんだが、コイツの頭ん中どうなってんだ?」
絶叫して歓喜に顔を染める三人。それとは別にヴィディーレがなんとも言えない顔でぼやく。そんなモノさ、と言うラフェの言葉だが納得しきれない。
「リートだから何でもあり」
「成程な」
「何故そこで納得する」
不可解だ、と訴えてくるリートだが、二人は口を揃えてソレで納得できるという。更に文句を言おうとしたが、患者の病気が治る喜び半分、未知なる知識への好奇心半分な医者に笑顔で花を押し付けられ隣室へと引きずられていく。
「がんばれー」
ひらひらと手を振って見送ると、椅子の背凭れに体を預け、弛緩する。
「ホント、痛ってぇや」
隣で同じ体制を取りボヤク青年に苦笑して頷く。視線を巡らせると抱き合って泣き、喜ぶ親子。
「ったく、泣き虫め」
ニヤニヤと呟く。それに気づいたラフェが吹き出し、プエルが泣き虫じゃない、と喚く。必死に涙を止めようとする息子を見る父親の目にも光るものがある。そんな光景にヴィディーレとラフェが顔を見合わせ笑顔を浮かべると、コツリと拳を合わせた。
ラフェとヴィディーレの声が被る。信じられない想いはプエルとパテルも同じようだ。みるみる内にその顔が絶望に染まる。
「でも、この花があればって、お兄ちゃんが!」
「そうなんですが、その方法は……」
「方法は?」
「……今は殆ど伝わっておらず、古書の何処かに書かれているとしか」
「おいおいマジかよ」
ここまで来て訪れた絶望的な状況に、ラフェがアハハと笑う。虚ろな目から察するに、一周回って笑うしかないのだろう。親子の顔には最早表情が無い。
「まぁ、プエルが無事に帰ってきた事だけでも……」
そう言って無理やり笑みを作るパテル。堪え切れず泣き叫ぶ息子を抱え、仕方ないさ、頑張ったと声を掛ける。手の出しようのない事に歯噛みして、ヴィディーレが拳を強く握りしめる。
「っ」
その瞬間、全身に走った痛みに顔をしかめる。そう言えばダンジョンを脱出した後、少し休憩しただけで治療は後回しにしていたのだった。それに気づいた医者が、そっと申し出る。
「あの。治療くらいなら、いくらでもできますが……」
「あ、治療費はウチで」
「別にそれくらい大丈夫です。傷が沢山ある位で大した金額に……」
どっかのぼったくり薬師とは違いそうだし、と思いつつそこまで言って、はっと気づく。同時にラフェも気付いたようだ。二人して一瞬硬直し、ガバっと振り返る。その視線の先で。
「……なんだ」
心底嫌そうな顔をした美貌の軍師兼薬師たる青年がいた。
「薬師!」
「本職は軍師だ」
斜め上の返答は無視して、じっと見つめる。居心地悪そうに視線を外し明後日の方向を向くその顔を凝視する。暫く無言の応酬をしていたが、二対の視線に耐え兼ね、渋々リートが振り返る。
「……なんだ」
「お前、薬師だろう。知らないか⁈」
その言葉に親子と医者が目を見開き、リートを見る。縋るような三対の視線が加わり、苦虫を嚙み潰したような顔をしたリートだったが、結局無言の圧力に屈し、渋々認める。
「精製の方法は読んだことがある」
「本当ですか⁈」
「……振っておいてなんだが、コイツの頭ん中どうなってんだ?」
絶叫して歓喜に顔を染める三人。それとは別にヴィディーレがなんとも言えない顔でぼやく。そんなモノさ、と言うラフェの言葉だが納得しきれない。
「リートだから何でもあり」
「成程な」
「何故そこで納得する」
不可解だ、と訴えてくるリートだが、二人は口を揃えてソレで納得できるという。更に文句を言おうとしたが、患者の病気が治る喜び半分、未知なる知識への好奇心半分な医者に笑顔で花を押し付けられ隣室へと引きずられていく。
「がんばれー」
ひらひらと手を振って見送ると、椅子の背凭れに体を預け、弛緩する。
「ホント、痛ってぇや」
隣で同じ体制を取りボヤク青年に苦笑して頷く。視線を巡らせると抱き合って泣き、喜ぶ親子。
「ったく、泣き虫め」
ニヤニヤと呟く。それに気づいたラフェが吹き出し、プエルが泣き虫じゃない、と喚く。必死に涙を止めようとする息子を見る父親の目にも光るものがある。そんな光景にヴィディーレとラフェが顔を見合わせ笑顔を浮かべると、コツリと拳を合わせた。
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