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始まり
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初めての異世界冒険もの(しかも作者は冒険ゲームほぼ未経験者)ですので、粗が目立つかもしれませんが、どうかご容赦を……。
**********
「グワァァァァ!!!!」
気色悪い叫び声をあげて、大きく身を捩らせる魔獣。その名の通り昆虫を巨大化しつつ、何処か爬虫類にも片足突っ込んだような気味の悪い姿。全身傷だらけで最後の悪足搔きをしようとしているようだ。
「つか、昆虫も爬虫類も声ないだろうが」
細身の青年がその叫び声に思わず耳を塞いでぼやく。恨みがまし気に睨み据えてくる魔獣―ワームを見返し渋々と言った体で剣を構え直す。この魔獣はCランク。Sランクに手の届かんとする彼にとっては目をつぶっていても倒せる雑魚であって。
「グワァァァァ!!!!!」
「だから、昆虫も爬虫類も鳴かないっつの」
策も何もなく突っ込んでくる巨体にため息を漏らしつつスルリとその杜撰な攻撃を避け、怪我の為か踏鞴を踏んだワームの背後から剣を振り下ろす。昆虫もどきの癖についている尾をぶった切ると、返す刃で固い足を一本断ち切る。
「ギャァァァァ!!!!」
「あ、鳴き声変わった」
ついつい魔獣の鳴き声で楽しんでいることに気付き、自ら悪趣味だ、と内心で突っ込む。そんな戦闘とは一切関係ない事を考えつつ、足と尾を失った衝撃で碌に動けないワームに接近すると今度はその頭を落とし止めを刺そうとする。しかし、その刹那。
「ゲェウワァァァ!!!!」
「おおう⁈」
青年の残像を凄まじい勢いで切り裂く影。間一髪で避けた青年の目に映ったのは3体の気持ち悪い姿で。
「まさかさっきの声、仲間を呼ぶスキル的なもの?」
思わず顔を引きつらせる。その隙をついて鋭い足による斬撃がいくつも飛んでくる。
「マぁジかよ⁈」
慌てて剣で受け流しつつバックステップで距離を取り体制を立て直す。改めて剣を構え直して、とりあえず、数を数える・・・・・。ワームは単体ではそこまでの強さは持たない。強さで言ったらギリギリDランクに到達するか否かといったところだろう。ではなぜCランクに数えられるか。
答えは簡単。
「1と2と3と……まぁ、やっぱ4になるよなぁ」
4対の目で睨みつけられ乾いた笑いを零す。そう、ワームの唯一に近い特徴は尋常ではない再生能力を持つこと。下手をすれば無限ポップに近い状態になる。そして複数になった時、その特徴は最大の効果を発揮して。
「もはやAランク扱いだったっけな……」
非公式ではあるがそういう扱いをされていたことを思い出し遠い目をする。
ああ、面白がって遊ばなきゃよかった。だって、仲間を呼ぶなんてスキル持ってる事知らなかったもん。
一人ごちると、すっと目を細める。青年の纏う空気が一気に鋭利なモノになる。それを察したのだろうか、ワームも何処か身構えたように見える。
「グワァァァァ!!!!」
再びの叫び声を合図に、彼は一直線にワームの群れに突っ込んでいった。
――――――――――
「んで、ちゃあんと帰ってきた、と。けっ、相変わらず可愛げのないガキだぜ」
「そりゃどーも」
どうにかこうにか疑似無限ポップを制してダンジョンから戻った青年―ヴィディーレは真っすぐに冒険者ギルドに向かった。とっとと換金して休もうと思ったのだ。そうしてドアを潜った先で見慣れた巨体を見つけ、今日の成果を押し付けつつワームの話をしたのだが、その感想が先の言で。呆れかえるその顔に肩をすくめて見せる。
精悍なその顔にかかるさらりとした短髪を鬱陶し気に書き上げると、流し目でガタイのよい男―この町の冒険者ギルドマスター、ドミヌスを見やる。この男はもとAランク冒険者でその腕を買われてギルドマスターに選出されたくせに、その仕事を放り出しては受け付けに入り浸り秘書に叱られる、という行動を繰り返す馬鹿、もとい変人である。ヴィディーレがこの町に来てからというものの、どうやら気に入られたらしく「可愛げのない」「愛想ない」といいつつ絡んでくるのである。
今日もまた何時ものセリフが飛んできたのをさらりと流すと金の入った袋を受け取る。
「そろそろ昇格試験、受けんのか」
「さあな」
頬杖をついてぼそりと投げかけられた問いに気のない答えを返す。冒険者にはランクがあり、EからSの六ランクがある。それぞれ、昇進する為にはギルドで行われる昇格試験を突破しなければならないのだ。Sランクを目指すヴィディーレではあるが、そこにはまだ到達していないという気がしてならない。それ故にまだもう少し、と先延ばしにしていただけなのだが、どうやら本人よりも周りの方がやきもきしているようだ。もの言いたげな男に、苦笑を返す。
「そのうちな」
ひらりと手を振って受付を離れようとする。すると。
「おう、ちょいまち」
呼び止められ、ヴィディーレは半身だけで振り返る。すると、ドミヌスが何処からか出してきた紙をひらひらと振っている。
「これ、受けんかね?」
どうやら依頼らしい。これ自体はそこまで珍しい話ではない。依頼も(ついでに言うと魔獣も)またEからSランクに分かれている。冒険者の大半がCランクのこの世界で、Aランク、それもSランクに手が届かんとするとも言えば相当な実力者の証であり依頼者が続出するのだ。大半がその実力を見込んでの難関クエストなのでヴィディーレは極力受けるようにしていた。しかし。
「わりぃ。パス」
そう言って手を目の前にかざし"すまない"のポーズをとる。ドミヌスが驚いたように目を丸くする。
「珍しいな。何時もならとりあえずって言って持ってくのに」
「んー」
一瞬目を泳がせたが、ヴィディーレは口角を上げて肩を竦める。
「そろそろこの街出ようかと思ってさ」
「……はぁ⁈」
想像もしなかった言葉にドミヌスが目を剥く。ヴィディーレはというと、ドミヌス以外にも素っ頓狂な声があちこちで聞こえてきたことに驚き周囲に目を走らせていた。するとあちこちで驚愕の視線とぶつかり、居心地悪そうに身じろぎする。
「どうした⁈なんかあったのか⁈」
「いや別にそういう訳でもないけど」
顔色を変えて詰め寄ってくる男ひくヴィディーレ。その顔をむんずと掴むと押しのける。
「単純にそろそろ旅に出ようかと思っただけだ」
「お前、どこの、あー、……そう、義足草!だ?」
「……根無し草、か?」
「それだそれだ」
がはは、と笑う男を冷ややかに見やる。どういう飛び方してどういう覚え方をしてるんだ、この脳筋と内心で悪態付きつつ一応肯定する。
「まぁ、元々一か所に止まれないからな」
「ここは土壌豊かだぞぉ?」
「そうだな。お陰で飯が美味い」
の、こ、れ。
い、や、だ。
目と目だけでそんなやり取りをする。結局、勝ったのは勿論ヴィディーレ。ニッコリ笑うだけで圧力をモノともしない彼に、ドミヌスがため息をつく。
「いつだ?」
「物わかりが良いヤツは嫌いじゃない。明日だ」
「そりゃ急だな」
「人間、思い立ったが吉日さ。じゃあな」
「おう。また来い」
あっさりとそれだけ告げて今度こそ歩き出すヴィディーレ。少なくはない人数が出入りする冒険者ギルドでは、ヴィディーレのように突然現れて小銭稼ぎをし、ふらりといなくなることは少なくない。それ故にドミヌスも強く引き留められないのだ。その代わりに投げかける再会を望む言葉。いつ何処で命を落としてもおかしくはないが故に再会の言葉を口にしない冒険者が多い中で、彼は必ずその言葉を投げかける。「死ぬなよ」という願いを込めて。
それが分かっているヴィディーレは、小さく笑うと、再びひらりと手を振って去っていった。
「さぁて、次は何処にすっか」
外にでたヴィディーレは日の光に目を細めて呟くと人の流れに体を滑り込ませた。
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「グワァァァァ!!!!」
気色悪い叫び声をあげて、大きく身を捩らせる魔獣。その名の通り昆虫を巨大化しつつ、何処か爬虫類にも片足突っ込んだような気味の悪い姿。全身傷だらけで最後の悪足搔きをしようとしているようだ。
「つか、昆虫も爬虫類も声ないだろうが」
細身の青年がその叫び声に思わず耳を塞いでぼやく。恨みがまし気に睨み据えてくる魔獣―ワームを見返し渋々と言った体で剣を構え直す。この魔獣はCランク。Sランクに手の届かんとする彼にとっては目をつぶっていても倒せる雑魚であって。
「グワァァァァ!!!!!」
「だから、昆虫も爬虫類も鳴かないっつの」
策も何もなく突っ込んでくる巨体にため息を漏らしつつスルリとその杜撰な攻撃を避け、怪我の為か踏鞴を踏んだワームの背後から剣を振り下ろす。昆虫もどきの癖についている尾をぶった切ると、返す刃で固い足を一本断ち切る。
「ギャァァァァ!!!!」
「あ、鳴き声変わった」
ついつい魔獣の鳴き声で楽しんでいることに気付き、自ら悪趣味だ、と内心で突っ込む。そんな戦闘とは一切関係ない事を考えつつ、足と尾を失った衝撃で碌に動けないワームに接近すると今度はその頭を落とし止めを刺そうとする。しかし、その刹那。
「ゲェウワァァァ!!!!」
「おおう⁈」
青年の残像を凄まじい勢いで切り裂く影。間一髪で避けた青年の目に映ったのは3体の気持ち悪い姿で。
「まさかさっきの声、仲間を呼ぶスキル的なもの?」
思わず顔を引きつらせる。その隙をついて鋭い足による斬撃がいくつも飛んでくる。
「マぁジかよ⁈」
慌てて剣で受け流しつつバックステップで距離を取り体制を立て直す。改めて剣を構え直して、とりあえず、数を数える・・・・・。ワームは単体ではそこまでの強さは持たない。強さで言ったらギリギリDランクに到達するか否かといったところだろう。ではなぜCランクに数えられるか。
答えは簡単。
「1と2と3と……まぁ、やっぱ4になるよなぁ」
4対の目で睨みつけられ乾いた笑いを零す。そう、ワームの唯一に近い特徴は尋常ではない再生能力を持つこと。下手をすれば無限ポップに近い状態になる。そして複数になった時、その特徴は最大の効果を発揮して。
「もはやAランク扱いだったっけな……」
非公式ではあるがそういう扱いをされていたことを思い出し遠い目をする。
ああ、面白がって遊ばなきゃよかった。だって、仲間を呼ぶなんてスキル持ってる事知らなかったもん。
一人ごちると、すっと目を細める。青年の纏う空気が一気に鋭利なモノになる。それを察したのだろうか、ワームも何処か身構えたように見える。
「グワァァァァ!!!!」
再びの叫び声を合図に、彼は一直線にワームの群れに突っ込んでいった。
――――――――――
「んで、ちゃあんと帰ってきた、と。けっ、相変わらず可愛げのないガキだぜ」
「そりゃどーも」
どうにかこうにか疑似無限ポップを制してダンジョンから戻った青年―ヴィディーレは真っすぐに冒険者ギルドに向かった。とっとと換金して休もうと思ったのだ。そうしてドアを潜った先で見慣れた巨体を見つけ、今日の成果を押し付けつつワームの話をしたのだが、その感想が先の言で。呆れかえるその顔に肩をすくめて見せる。
精悍なその顔にかかるさらりとした短髪を鬱陶し気に書き上げると、流し目でガタイのよい男―この町の冒険者ギルドマスター、ドミヌスを見やる。この男はもとAランク冒険者でその腕を買われてギルドマスターに選出されたくせに、その仕事を放り出しては受け付けに入り浸り秘書に叱られる、という行動を繰り返す馬鹿、もとい変人である。ヴィディーレがこの町に来てからというものの、どうやら気に入られたらしく「可愛げのない」「愛想ない」といいつつ絡んでくるのである。
今日もまた何時ものセリフが飛んできたのをさらりと流すと金の入った袋を受け取る。
「そろそろ昇格試験、受けんのか」
「さあな」
頬杖をついてぼそりと投げかけられた問いに気のない答えを返す。冒険者にはランクがあり、EからSの六ランクがある。それぞれ、昇進する為にはギルドで行われる昇格試験を突破しなければならないのだ。Sランクを目指すヴィディーレではあるが、そこにはまだ到達していないという気がしてならない。それ故にまだもう少し、と先延ばしにしていただけなのだが、どうやら本人よりも周りの方がやきもきしているようだ。もの言いたげな男に、苦笑を返す。
「そのうちな」
ひらりと手を振って受付を離れようとする。すると。
「おう、ちょいまち」
呼び止められ、ヴィディーレは半身だけで振り返る。すると、ドミヌスが何処からか出してきた紙をひらひらと振っている。
「これ、受けんかね?」
どうやら依頼らしい。これ自体はそこまで珍しい話ではない。依頼も(ついでに言うと魔獣も)またEからSランクに分かれている。冒険者の大半がCランクのこの世界で、Aランク、それもSランクに手が届かんとするとも言えば相当な実力者の証であり依頼者が続出するのだ。大半がその実力を見込んでの難関クエストなのでヴィディーレは極力受けるようにしていた。しかし。
「わりぃ。パス」
そう言って手を目の前にかざし"すまない"のポーズをとる。ドミヌスが驚いたように目を丸くする。
「珍しいな。何時もならとりあえずって言って持ってくのに」
「んー」
一瞬目を泳がせたが、ヴィディーレは口角を上げて肩を竦める。
「そろそろこの街出ようかと思ってさ」
「……はぁ⁈」
想像もしなかった言葉にドミヌスが目を剥く。ヴィディーレはというと、ドミヌス以外にも素っ頓狂な声があちこちで聞こえてきたことに驚き周囲に目を走らせていた。するとあちこちで驚愕の視線とぶつかり、居心地悪そうに身じろぎする。
「どうした⁈なんかあったのか⁈」
「いや別にそういう訳でもないけど」
顔色を変えて詰め寄ってくる男ひくヴィディーレ。その顔をむんずと掴むと押しのける。
「単純にそろそろ旅に出ようかと思っただけだ」
「お前、どこの、あー、……そう、義足草!だ?」
「……根無し草、か?」
「それだそれだ」
がはは、と笑う男を冷ややかに見やる。どういう飛び方してどういう覚え方をしてるんだ、この脳筋と内心で悪態付きつつ一応肯定する。
「まぁ、元々一か所に止まれないからな」
「ここは土壌豊かだぞぉ?」
「そうだな。お陰で飯が美味い」
の、こ、れ。
い、や、だ。
目と目だけでそんなやり取りをする。結局、勝ったのは勿論ヴィディーレ。ニッコリ笑うだけで圧力をモノともしない彼に、ドミヌスがため息をつく。
「いつだ?」
「物わかりが良いヤツは嫌いじゃない。明日だ」
「そりゃ急だな」
「人間、思い立ったが吉日さ。じゃあな」
「おう。また来い」
あっさりとそれだけ告げて今度こそ歩き出すヴィディーレ。少なくはない人数が出入りする冒険者ギルドでは、ヴィディーレのように突然現れて小銭稼ぎをし、ふらりといなくなることは少なくない。それ故にドミヌスも強く引き留められないのだ。その代わりに投げかける再会を望む言葉。いつ何処で命を落としてもおかしくはないが故に再会の言葉を口にしない冒険者が多い中で、彼は必ずその言葉を投げかける。「死ぬなよ」という願いを込めて。
それが分かっているヴィディーレは、小さく笑うと、再びひらりと手を振って去っていった。
「さぁて、次は何処にすっか」
外にでたヴィディーレは日の光に目を細めて呟くと人の流れに体を滑り込ませた。
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