緋色頭巾

神凪凛薇

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青年と少女は出会い、

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 ニッコリと笑った青年の殺気と剣の放つ冷え冷えとした気配に男は白目を剥いて倒れた。

 「なっさけねぇな。これくらいでぶっ倒れんならこんな事すんなっての」
 「お、おいっ!こっちを見ろ!」

 ぶつくさ言いながら気絶した男を足蹴にしていたアジュールは、震え裏返った男の声にめんどくさそうに振り返った。

 「なに?」
 「こっ、コイツを無事に返してほしかったら、その剣を置けっ!」

 最後に残ったリーダーの男はなけなしの勇気を振り絞ってアジュールに立ち向かう。その方法は赤いポンチョの人影にナイフを突きつけて脅すというなんとも情けない方法であったが。

 「おいおい。ここまで来てそれかよ」
 「いいから早くしろっ!」

 流石に呆れ顔を隠せないアジュールに男は怒鳴る。さてどうするかなぁと首を傾げてポンチョの人影を見つめたその時。人影と目があった。アジュールの背筋に冷たいものが凄まじい勢いで滑り降りた。

 その眼には、何も映ってはいなかった。唯々純粋なその瞳には何の色もなく。その瞳にアジュールはなぜか戦慄を覚え、一瞬状況を忘れた。


 「おいっ聞いてんのかっ⁈」

 再びの男の怒号に我に返るアジュール。意識を逸らしていたのは一瞬のようだが、アジュールにはとても長い時を、その瞳を眺めていたよう思えた。ゆっくりと視線を動かし男を見据える。青ざめ多量の汗をかいた男。アジュールを相手にした程度でその体たらくである。此処から逃げ出せたところで、そのフードの人影に太刀打ちなど出来るのだろうか。

 真剣に考え始めたアジュールに、しびれをきらす男。恐怖に切っ先の定まらないナイフをフードの人影に更につきつけ、口を開いたその時。

 「そろそろ開放していただけませんか」

 何の感情もない声が発される。一瞬それがフードの人影から発された声だと気付かなかったのだろう。きょとんとした男は視線を腕の中に落とす。その男を透明な瞳で見返した人影は、もう一度繰り返す。

 「そろそろ開放していただけませんか。これ以上やると言うのなら痛い目を見て頂くのもやぶさかではありませんが」
 「なっ」

 ナイフを突きつけ脅しているはずの人影に、恐れるどころか全くと言って視界に入っていない宣言をされ、言葉に詰まる男。青い顔が茹で上がって赤くなる。

 「……あか。綺麗じゃないけど」
 「ああ⁈なんだと⁈」

 ポツリと呟かれた意味の分からない言葉に、男が激昂する。その勢いのままナイフを振り下ろす。息をのむ声が周囲から発される。アジュールも流石に厳しい顔をして介入する素振りを見せる。しかし。

 「ぐぁあ⁈」

 ナイフを振り下ろすために僅かに出来た隙間を利用してするりとその腕を抜け出した人影は振り向きざまに無防備なその腹に蹴りを放つ。細い体に似合わぬ重い一撃を食らった男はこらえきれず、脂汗を流しながら崩れ落ちる。力の抜けたその手からナイフを奪い取った人影はピタリとその目前に切っ先を向けた。

 「……まだ、やる?」

 透明な声でポツリと聞いてきた人影に、男はギリりと奥歯を噛みしめ雄たけびを上げながら飛び掛かる。しかし、恐怖にかられただけのその攻撃は隙しかなく、淡々とよけた人影は男の首筋を剣の峰で強打する。すぐに白目を剥いてばたりと男は倒れこんだ。

 驚くほど鮮やかなその手腕に、野次馬たちがあっけに取られる。アジュールも同じだった。あの状況でも冷静を保っていたのだ。それなりに腕が立つのではと思ってはいたが、ここまでとは。

 アジュールの口元に笑みが浮かぶ。面白い。その瞳に好戦的な色を宿し人影を見たが、本人は気付くことなくナイフを投げ捨てる。その時、背後でざわめきが起きた。

 「通してください!警邏隊です!通してください!」

 振り返ると、制服を着た男たちが数人こちらに来ようともがいていた。

 「あーあ、めんどくせぇ」

 アジュールは天を仰ぐ。今までもこんなことは何度も経験してきた。だから分かる。これからしばらくの間、事情聴取と言う名の尋問を受けるのだ。しかし、一回逃げて更に面倒な目にあったこともあった為、逃げるのは早々に断念した。

 「それに」

 アジュールはニヤリと笑う。その視線の先にはフードの人影があった。当事者として警邏隊と話す意思があるのだろう。その場に立ち止まったまま黙って様子を見ている。つまり、その人影と話す機会は少なからずあるはずで。

 「さぁて、あの人は一体どんな人なのかねぇ」

 剣士の端くれとしても強い奴には興味がある。尋問に大人しく耐えてやるのだ。それくらいの対価があって然るべきだろう。勝手に結論付けると、アジュールは再び警邏隊に視線を戻した。
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