変革の3英雄 ―歴史書は得てして真実を描いてはいないもの―

神凪凛薇

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変革の3英雄 ―歴史書は得てして真実を描いてはいないもの―

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 のちの歴史の教科書に、この出来事が記されていないものは無い。とある大陸に存在する大小20近くの国々。これらの国が入り乱れて戦争を繰り返した時代。この時代を経た後の地図は、大胆に書き直されることとなり、以前の地図は紙くず同然となるほどの国家レベルの変動があった。



 この大戦を端的に纏めると次の様になる。



 大戦前、大陸には3つの巨大な国があった。南のアダマース帝国、北のサピロス王国、西のイマティーテース公国。順に、軍事国家、純血主義国家、宗教国家の特徴があった。この三国は非常に大きな力を持っており、周囲の中小国家はどれ程横暴な事をされても指をくわえて見る事しか出来なかったのである。しかし、栄枯盛衰が世の理、この三国にも影が差し始めたのが大戦のきっかけとして挙げられる。



 まず、アダマース帝国。建国時より軍事に力を入れてきたこの国は、その強大な軍事力を持って次々に支配の手を広げていった。三大大国の内では最も歴史が浅い物の、その勢いは留まる事を知らなかった。

 さて、急速に力を手に入れた帝国であるが、領土を増やしたあとに起こる事は想像に難くない。軍事に力を入れている——正確には軍事のみに力を入れて屈服させてきたという事は、逆を言えば内政に弱いという事である。

 つまり、侵略後のアフターフォローは無く、滅ぼされた国の者達は腹の内にマグマをため込んでいたのだ。その上、皇族は例にもれず強欲を二つ名に持つ。親兄弟で血みどろの権力闘争を行い、それに従う臣下達も己の欲を満たさんと、自分勝手に動いていた。こうなると内部から腐り落ちるのは時間の問題である。



 次にサピロス王国。三大王国の中で最も歴史を持つこの国は、潤沢な資源を持ち、封建制度の下で経済大国として発展してきた。歴史があるという事は、帝国と違い誰もが王国の人間であることを自負している。

 では、この国の問題はと言うと、これも簡単に答えが出る。ここまで国を大きくしてきたのは自分達だとおごり高ぶった貴族の存在である。先祖の栄光にあぐらをかき、贅をつくした彼らにとって金は湧いて出るものであり、貧困に喘ぐ国民は一切視界に入る事は無かったのである。

 国民の困窮は国力の低下と求心力の低下を招き、国民たちは何時しか貴族を憎むようになっていった。その先にあるのは、国家の破滅である。



 最後にイマティーテース公国。大陸で最も支持されているウェヌス教を信仰する宗教国家。国家元首たる大公を始め、国家元首に携わる者ほぼ全てがウェヌス教信者であり、ウェヌス教の聖地を擁する。

 本来、宗教は人々の不安をやわらげ、道を示す事を目的の一つとしているはずである。宗教組織の上位に行く人間は、その宗教に通じ、それに殉ずる者であるはずである。例えば、ウェヌス教であれば清貧を重んじる為、ウェヌス教の上位神職ともなれば、その性格は極々質素なものになるはずである。

 ここで、彼らの邸宅を思い浮かべてみる。豪華絢爛な邸宅に、世界各地の美味珍味。そこを闊歩するは歩くたびにポヨンと音がしそうな貫禄・・ある《・・》体の持主。おわかりいただけただろうか。大陸で最も力を持つ宗教故に、その信者は多く、集まる資金も膨大なもの。

 結果として、サピロス王国と仲良く同じ未来へと猛ダッシュ中である。



 こうなると、被害はそれぞれの国の国民だけではない。周辺国も大いに迷惑である。権力者の気まぐれや、強欲によって滅ぼされる国が続出したのである。そんな混迷期に、とある小さな国が滅びの道から這い上がり声を上げた——というより、咆哮をぶっ放したのである。



 金鉱山を手に入れる為に軍を動かしたものの、通り道に邪魔な小国があったから潰した、という酷く理不尽な理由で帝国に滅ぼされた国——アントクラス王国。幼少時に祖国を滅ぼされた亡国の王子は、王宮の燃え落ちる様を嘆きながら見届けた後、消息を絶った。数年後、帝国のおってから身を隠して力を身に付けた彼は、立ち上がった。右に大陸屈指の剣豪、左に大陸きっての軍師を従えて。



 彼らはこともあろうに三大王国に喧嘩を売り、大陸で暴れまくった。彼らの軍の向かう所に負けは無く、後に名君の誉れ高き王子の治世の下、国は大きく富んでいった。国民たちは彼らに大いに期待し、同時に畏怖を持って彼らを見つめた。そして、彼らに触発されたのは国民だけではない。多くの中小国が我もとばかりに大国に反旗を翻し、猛然と抵抗を始めたのだ。そして大陸全土を巻き込む大戦が勃発。



 終戦協定が各地で結ばれるまでに、その勢力図が大きく変わったのだ。



 世界を変えた三人の天才を、人々はこう呼んだ。



 ——変革の3英雄、と。







 「なぁんて歴史書に描かれてたら最高じゃね?」

 「なにが『歴史書に描かれてたら最高』だ!くだらねぇ事言ってんじゃねぇぞこの馬鹿王子!」



 ガタガタと音を立てて走る寄合馬車の端。羊皮紙と筆ペンを手にケタケタ笑う人影があった。深くフードを被っている為に人相は確認できないが、明らかに品行方正とはいいがたい雰囲気を醸し出している。そして、小声で怒鳴るという非常に器用な真似をしたのは、その人影の近くで片膝を抱えて座る精悍な顔立ちをした青年。長細い包みでフードの人影を殴ろうとして慌てて踏みとどまったようだ。そんな青年をわずかにフードを上げて見やった人影は、ニヤァと口元に笑みを刻む。



 「はい来ましたNGワード。ペナルティ+1」

 「てめぇ」



 非常に腹が立つニヤケ顏を垣間見て、青年が盛大に顔を引きつらせる。それでもすぐに周囲に視線を巡らせ、さり気なく確認するあたり優秀なのは疑いようのない。単純に同行者が非常に厄介な相手で、性格が悪いだけなのである。小刻みに体を震わせる青年を見つめる人影は、フードの下でこれでもかと満面の笑みを浮かべているに違いない。座右の銘は「他人の不幸は密の味」である。更に、どう揶揄ってやろうかと思考を巡らしていた人影だったが、御者の声に視線を外へと投げかける。



 「見えてきましたぜぇ」

 「おお」



 馬車に乗っている人たちも安堵の声や期待の声を上げて、それぞれの胸の内を晒している。因みに、フードの人影は楽しそうに歓声を上げ、青年はと言うと安堵と緊張とこれから先の苦労を考えての頭痛をごっちゃ混ぜに感じる複雑な顔をしていた。



 「その心は?」

 「これ以上俺に迷惑かけるな馬鹿リスティ」

 「おう辛辣ぅ」



 不敬罪も追加しておいてやろうか?と声に出さず口パクで伝えてくるフードの人影。風に吹かれて一瞬だけ露出したその顔は端正に整っており、隣の青年とは違った方向の美貌の持主である。名前はリスティヒ・ヴェルデ。訳あって帝都イドランギオンを目指す、自称旅人である。声に出ていないのをこれ幸いに無視する青年の名はミューエ・グランツ。付き合っていれば、体力は思い切り持っていかれるし、日は暮れるし、調子に乗って手に負えなくなると、一切良いこと無しなのは経験から分かっている。ミューエは見えてきた目的地——帝都イドランギオンに視線を向けた。



 すぐに馬車はイドランギオンの門を通過し、ほど近くの停車場所に停まった。出口に最も近い所に陣取っていた二人はそそくさと外に這い出ると、大きく息を吸った。



 「流石にずっと馬車だと息が詰まるな」

 「だぁから馬で行こうって言ったじゃんかぁ」

 「突然明後日の方向に走り出す癖を治したら考えてやる」



 リスティヒの文句を一瞬で叩き潰すと、ミューエは視線を巡らせる。



 「分かっていると思うが、くれぐれも、くれぐれも・・・・・目立つ行動はするな」

 「うわぁ信用なさすぎない俺」



 細長い包みを手に、にっこり笑って圧力をかけるミューエ。凄まじい気迫にリスティヒの顔が引きつる。ミューエの信頼は僅かにも得ていない事を自覚しているので、文句は言わない。触らぬ神に何とやら。下手をすれば縄に繋がれかねない。一度本気で繋がれたことのある身としては断固として避けたい。とは言え、愚痴らなければやって行けないとばかりに口を尖らせる。



 「たぁく、カリカリし過ぎなんだよミューは。そんなに怒らなくたっていいじゃんか。つか、さっきの話だって怒るとこなくない?」



 ブツブツ呟きながら歩き始めるリスティヒの横に並びつつ、ミューエはため息をかみ殺した。これ以上とやかく言うと今度は拗ねて面倒。仕方なく付き合う事にする。



 「さっきのって歴史書がどうのって話か?」

 「そう!変革の3英雄の物語だ!」

 「……ツッコミどころが多すぎるだろう」



 ミューエは頬を引きつらせ、危うく落としそうになった荷物を抱え直す。何となく言いたいことの予想がつくが、予想が外れてほしいと一縷の望みをかけて質問する。



 「変革……はどうせ歴史書の美化だからスルーして」

 「おいおい夢がねぇなぁ堅物男」

 「……で?3英雄?」

 「おうよ」



 ニヤリと笑って軽やかに前へと駆け出したリスティヒが少し先でクルリと手を拡げて回って見せたかと思うと、後ろ手に手を組み、満面の笑みを浮かべる。



 「救国の名君たる王子。大陸屈指の剣士たる騎士。大陸きっての頭脳たる軍師」

 「……ほぉ。そんな素晴らしい3人組がいるならいつかお目にかかってみたいもんだ」



 リスティヒに負けず劣らず満面の笑みで圧力をかけにかかるミューエ。訳としては「まかり間違っても、違うよな?」である。対する青年の答えは勿論。



 「王子ぃ」



 自分を指し。



 「騎士ぃ」



 ミューエを指し。



 「軍師ぃ」



 とミューエの後ろを指す。



 「……へ」



 一瞬頭の付いて行かなかったミューエだが、その意を解すると同時に、ざっと血の気が下がるのが分かった。そして同時に、彼らがここに来た最大の目的でありつつ、彼がもっとも会いたくないと遠い目をする人物の気配がユラリと背後に現れたのを察した。



 「ミューエー!」

 「うげっ!」

 「うわぁ!」



 ガバリと抱き着いてきたのは、小柄な少女。長身のミューエに精一杯ジャンプしてどうにか後ろから首に抱き着くのだが、如何せん身長差がありすぎて足がつかず、首を絞める形になる。そのままの勢いで二人揃って後ろに倒れ込む。



 しかし、そこはそれなりに体を鍛えてきた騎士の端くれである。空中でどうにか体をひねり、少女の頭の横に手をついて潰してしまうのを回避する。腹の底から息を吐きだし、がっくりと項垂れる。ジロリと己の下にいる少女を睨みつける。常人ならば冷や汗ものの怒気をぶつけるが、少女は何のその。寧ろ上機嫌にウフフと笑う始末。



 「いやん。大胆なんだから」

 「おおー。遂にやりおったか朴念仁!時と場所を考えてくれれば続きをやってもいいぞ!」

 「……てめぇら」



 二人の心底愉し気な声に、嵌められたことに気付いたミューエ。少女が単純に喜び勇んで抱き着いたと見せかけつつ、ミューエの動きを予想して自分の望む状況を創り出した事に気付いた時にはもう遅い。周囲の生暖かい視線を浴びつつ、少女を押し倒した姿勢になった青年は肩を震わせ、ガバリと天を仰いだと思えば、絶叫する。



 「いい加減にしやがれぇ!!!!!」



 こんな茶番を繰り広げている3人。これがのちに変革の3英雄と呼ばれる3人である。だが、その実態はと言うと。



 「ニヤニヤして楽しんでんじゃねぇこの性悪腹黒猫かぶり王子!」

 「おうおう言いやがる。それとペナルティ+1な」



 手のつけようのない悪ガキ王子と。



 「くだんねぇ事に俺を巻き込むなこの面食い天然ボケ娘!」

 「ええ!くだらなくないもん!僕の夢"記録に残る恋をしよう!"だしぃ!ミューと記録に残る恋をするって決めてるしぃ!」



 野心でも、忠誠心でも、復讐でもなく、記録に残る恋をするために祖国復興に手を貸すお惚け軍師と。



 「ああもう誰か変わってくれこの立場ぁ!」



 不幸にも二人に付き合わざるを得ない運命を引き当てた苦労性騎士。





 ————えてして、歴史書には真実は描かれていないものである。



 これはそんな三人が野望達成するまでの、正しい記録書である。
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