上 下
1 / 15

1

しおりを挟む
 彼に出会ったのは、よく晴れたというわけでもなく、かと言って曇りとも言えない中途半端な晴れの日だったと思う。

 正直、彼との出会いは強烈すぎてよく覚えていない。でも、これだけは覚えてる。

 彼との出会いは最悪だった。


 ――――――――――

 カバンの中を確かめる。よし、オッケー。天気を確かめる。うん、雨は降ら無さそう。

 今日の運勢は?やった、山羊座一位!ラッキーアイテムは…オオカミ?うーん、途中でマスコットでも探そうかなぁ。

 っと、最後に服装チェック。自信は無いけど、大丈夫、だろう。

 「行ってきまーす!」

 純花すみかはドアを開けると、元気よく挨拶をして外に出た。

 彼女は今日、母親に頼まれて隣町の祖母の家に向かっていた。なんでも、急に病気になって倒れたらしい。幸いにして軽い風邪だった為入院する事も無く済んだのだが、今だに寝込んでいる。

 食事等々の心配をした娘である純花の母自身は仕事がどうしても抜けられない、という事で大学一年で暇な純花に白羽の矢が立ったのだ。純花自身、祖母の事は大好きだったので一も二もなく引き受けた。

 「あらぁ、純花ちゃんじゃない。お出かけ?」
 「はい!お使いでおばあちゃんのところに行くんです」
 「偉いわねぇ。気を付けて行ってらっしゃい」

 とことこと歩いていると近所の人からひっきりなしに声がかかる。現代にしては珍しくこのあたりでは近所づきあいが密接で、人懐っこい純花はマスコット的に可愛がられているのだ。

 そのそれぞれにニコニコと笑顔で返答しつつ、純花は祖母の家に向かった。

 ふんふんと鼻歌交じりに歩いていた純花は、一軒の家を見つけて目を輝かせた。その家の前でちょっと足を止め、そっと様子を窺ってみる。

 「うーん。無理かなぁ…」
 「何が?」
 「ひぇ?!」

 1人呟いたその声に返事を返され、飛び上がる純花。振り向くと笑顔の青年が立っていた。

 「もう!驚かさないでください、お兄ちゃん!!」
 「ごめんごめん」

 むぅ、とむくれる純花に苦笑する“お兄ちゃん”。純花のご機嫌を取ろうと、その頭を優しく撫でる。

 気持ちよさそうに目を細める純花。淡い思いをこの青年に向ける純花は、結局のところ本気で怒ることが出来ないのだ。

 「それで、お使いかな?」

 顔を覗き込んできた“お兄ちゃん”に、純花は笑顔を返す。

 「うん!ちょっとおばあちゃん家に行ってくるのです」

 すると、“お兄ちゃん”は急に心配そうな顔をする。

 「え、でも、おばあちゃん家は隣町だろ?最近目つきの悪い不良がふらふらしてるらしいし、大丈夫?あ、あと、純花はよく転んだり、人にぶつかったりするから気を付けて?ああそうだ、知らない人について行っちゃダメだよ?それから…」
 「だ、大丈夫ですよ。もう、心配性ですねお兄ちゃんは。じゃあ、行ってきまーす」
 「あ、純花!気を付けるんだよ⁈」

 矢継ぎ早に注意してくる“お兄ちゃん”〝に、苦笑する純花。純花が何処かに行こうとするたびに過剰なまでに心配する“お兄ちゃん”である。

 付き合ってると日が暮れるのは経験済みなので、早々に話を切り上げて歩き出す純花。後ろから声を掛けてくる心配性の“お兄ちゃん”にクスクス笑う。純花としてはその姿が見れただけでお腹いっぱいなのである。

 純花は足取り軽く目的地に向かって歩き出した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

私があなたを好きだったころ

豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」 ※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

偽物ドライとロードポイント

アンチリア・充
恋愛
 世の中には、手を繋いでデートまでした異性に告白したらフラれたヤツがいるそうですよ。誰とは言いませんが。スマホなら少し上に、PCなら下の方にそいつの名前が書いてあるとか。  男女の仲というのは当人達以外にはワケが分からないモノです。  いや、当人達ですらワケが分からないこともあるようです。  周りから見たらどう見てもカップルなのに、実は違ったり、日によって恋人のつもりになったり、友達の気分になってしまったり。  友達以上、恋人未満? いちいちカテゴライズすんなと文句を言いつつも、肩書きがないとソレはソレで不安だったりへこんだり。ああ青臭い。  異世界でもない、転生でもない。そもそもファンタジーですらない。  今時、奇を衒わな過ぎて逆に誰も描いてなさそうな、なろうじゃ無謀なラブコメです。  ある一組の男女のお話。  少女漫画の背表紙に書かれていそうな陳腐なあらすじではございますが、似たような体験をしてきた方の心には、懐かしい気持ちを甦らせることができればと願いを込めた物語。共感していただけたなら幸いにございます。  ハーフノンフィクション!  ……いや、クォーターノンフィクションくらい?  いずれにせよ。作者の恋の供養になることには違いない。

処理中です...