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一章 異世界転生(人生途中から)

19 疑惑

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 国家試験に合格し、私は治療魔法師を名乗れるようになった。しかし新人治療魔法師はどこかの病院で働きながら先輩医師に教えを乞うのが通例になっている。
 通例だからそうしなければならないわけじゃないが、私としても『じゃあどこかで開業しようか』とは思わないし、そんな資金もないし、当初の予定通りハリス先生のところで働き始めた。
 以前のように先生に見守ってもらいながら診察する必要はなくなったので、1診と2診を作り患者さんを別々に診ることになった。
 また、先生の勧めでアルバイトとしてハールズデン市立病院での夜勤もすることになった。新人の時に大きな病院で教えてもらいながら色々な症例を見ておいたほうがいいということだった。
 なので、今の私の1週間は月・火・水曜日は市立病院、木・金・土曜はハリス先生のところ、日曜日は家で勉強、という生活をしていた。夜勤の次の日の日勤はつらいけど、最近は慣れてきた。
 そう、晴れて試験に合格したのだからちょっとは遊べばいいじゃない、と思うだろう。私も少しは思った。けどまだまだ勉強すべきことは多いし、遊ぶ場所も遊び方も分からなかった。そう、悲しいかな勉強ばかりしていたら、この世界で遊ぶとは何をすることなのか知る機会を逃し続けていたのだ。
 今度マリーさんにでも聞いてみよう……。



 今日は本来なら市立病院での夜勤の日だったが、魔法診療科で先生の一人がしばらく欠勤するということで、初めて日勤で入っている。
 診察室には私と看護師さんが1人。
 私は順調に診察をこなしていた。

 (次の患者さんは……ルイーズ・クック20歳。初診ね)

 「次の方を通してください」

 看護師さんに言って患者さんを呼んでもらう。
 ガチャリとドアが開けられ患者さんが入ってきた。

 「こんにちは。どうぞお掛けください」
 「よろしくお願いしま……っ!?」

 彼女と目が合った瞬間、彼女は目を見開き固まって動かなくなった。

 「あの、どうされまし__」
 「なんでお嬢様……じゃない、アンタがここにいるのよ!?」

 急に具合でも悪くなったのかと心配になって声をかけたが、それをかき消すように大声で叫んだ。

 「あの、ちょっと落ち着いて__」
 「ジョーンズ家のお嬢様が医者の真似事!? 一体どうなってるの!? 人殺しのアンタが医者なんて……この病院はなんでこんな無資格者に治療させてるわけ!? 帰るわ! こんなやつに治療なんてできるはずない、むしろいたぶって殺される!!」

 患者さんは一方的に捲し立てて診察室を出て行ってしまった。
 呆然とする私に看護師さんが、

 「先生、今のは一体……?」
 「分かりません。……診察を続けましょう」

 私はとにかく動揺しないようにして次の患者さんを呼んでもらった。しかし__

 「別の先生に変えてくれ」

 次の患者さんもその次の患者さんにもそう言われてしまった。
 あの女性の大声が外の待合室にまで響いていたのだ。



 「疲れた……」

 医局に引き上げてきた私は机に突っ伏した。
 結局あの騒動の時に待合室にいた患者のほとんど全員に診察を拒否され、そのせいで外来が混乱してしまった。私は午前中は一旦医局に引き上げ、仕切り直して午後から診察に入ったが気が気ではなかった。

 「お疲れさん。キクチ君、大丈夫か?」

 ハーヴィー先生が私を気遣って隣に座ってくれた。

 「えぇ、あまり気にしないようにします……」
 「ははっ! 人間そう言うときに限ってものすごく気にしているものさ! なに、君の人品骨柄は私が保証しよう。君は誰がなんと言おうと優秀な医療魔法師さ」

 先生は肩を叩いて励ましてくれた。
 その時、医局の扉が開けられ、入ってきたのは魔法診療科部長だった。私は実習の時に挨拶をしに行った時とバイトで採用された時の2回しか会ったことがない。

 「キクチ、ちょっと部長室まで来てくれて」
 「っ……はい」

 部屋にいた先生方の視線が痛い。
 私は部長の後ろを歩いて部屋に行った。



 私と部長は応接机を挟んで座った。

 「今日起きたことの話は聞いている。単刀直入に言おう。申し訳ないがアルバイト契約を解除させてほしい」
 「クビ……ですか」
 「今回このような騒ぎになって、これ以上変な噂が広められたらこちらとしても困るし、君も困るだろう。キクチに非がないことは分かっているんだがね」

 食い下がったところでどうにもなりそうになかった。

 「分かりました。お世話になりました」

 私は部長室を出てなかば放心状態で医局に戻り、退職のことをハーヴィー先生らに伝えた。

 「色々とこれまでありがとうございました」
 「そんなバカな話があるものか! ちょっと抗議してくるよ!」
 「私も行こう」
 「ハーヴィー先生、マキャベリ先生……ありがとうございます。でもいいんです」
 「いいわけがないだろう」
 「いえ本当に。だってあの患者さんが言ったことが本当かもしれないので」

 私はあの患者さんが言ったことは真実ではないかと思っていた。夢で見たお嬢様の行為は酷いものだった。殺人まではしていないと信じたいが、やったと言われればそうなのかもしれないと思ってしまう。

 「記憶がない時のことだろうと君は君だ。そんなことをするような人間ではないよ」
 「そこまで言っていただけて嬉しいです。でも騒ぎになってしまって私もやりにくいですし、ご迷惑がかかりますから」

 私がそう言うと、ハーヴィー先生はとても残念そうにして、

 「そうかい……。まぁ君ならどこででもやっていけるだろう。頑張るんだよ」

 私の手をぎゅっと握って励ましてくれた。
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