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カイゼル・ハディソン視点

緊張

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パーティー当日、いざホーリィ嬢に話しかけるとなると、緊張して心臓が口から出そうだった。

いやホーリィ嬢だろうと誰だろうと、きっとハンナ嬢以外だったら皆一緒だ。


公爵である自分がまともに会話もできないと知られては笑われてしまうだろうが、こんな容姿では直接声をかけられることもほとんどないので今まであまり気にすることは無かった。

貴族連中との連絡は手紙のやり取りで十分だったのだ。


しかし今はこんな自分のままでいいなどという甘い考えは微塵も抱いていない。

私はハンナ嬢と堂々と肩を並べて歩ける人間になりたい。


いくら社交界で毒華などと称されていようと、彼女は強く美しい素敵なご令嬢だ。

悪魔のままで、傍にいられるわけがない。


彼女には自分のせいで嫌な思いなんてして欲しくなかった。

そして、いつかは…こんなどうしようもない私の気持ちを受け入れて欲しい。


図々しくもそう願ってしまう。


だから、こんなところで失敗などしていられないのだ。


それに、彼女の家族に嫌われてしまうことだけは避けたかった。


………ああ、緊張して爆発しそうだ。


そわそわとして居心地の悪い思いをしていると、会場の扉から愛しい彼女が姿を現したことに気がついた。

助けを求めるように早足で近寄る。


「…ハンナ嬢」

会場に入るなり壁の華と化してしまった彼女は私を見つけてにっこりと微笑む。

上品な青いドレスがよく似合っている。


「ご機嫌よう、公爵様」

「あ、ああ。ちょっと付き合ってくれ」


彼女の美しさやこれからのことを思って二重で緊張してしまう私は、最早パニックになりそうな勢いだった。

…しっかりしろ私。


「どうしたのですか?」

「…どうしたも何も、いざ覚悟を決め声をかけるとなると震えが止まらない!」


自らの体を抱きしめながらそんなことを言う私は今すごくかっこ悪くて情けないのではないだろうか。

好きな人にみせていい姿ではない。



「今までたくさん会話の練習もしましたし、ホーリィの好みや興味のある話題だって伝えました。そんなに不安にならなくても大丈夫ですよ」

そんな私をハンナ嬢は笑いもせずにただただ勇気づけようとしてくれた。


「だが…」

「公爵様は誰よりも優しくて魅力的な方です。私はそんな素敵な公爵様をもっとたくさんの方に知って欲しい」


……もう、彼女が愛しすぎてどうにかなりそうだ。

こんなことを言われたら、勘違いしてしまいそうになる。

もしかすると、彼女も自分のことが……なんて。

そんなことはあるわけがないのに。


彼女は自分の妹と私の恋を応援してくれているのだから。



「公爵様の本来の人柄を知って、落ちない女性なんてきっといませんから、安心してください」

苦々しい気持ちでそんな言葉を聞いていた。



「君も、私に落ちるのか?」

「え…?」


すっかり落ち込んでしまった私は不貞腐れたやうにそんなことを尋ねるが、彼女はただ驚いたように目を丸くしていた。

…わかりきった答えだが、聞きたくない。


「いや、なんでもない。話を聞いてもらって少しだけ落ち着いてきた。そろそろ声をかけに行って来よう」

「そうですか。心から応援しています」


応援なんかしなくていい。

そんなこと言わないでくれ。



先程までの緊張がすっと消えて、妙に冷静になってしまう自分がいた。


最後に一度だけ彼女の表情をうかがうと、どうしてか悲しみの色が浮かんでいる気がしたけど、きっと気のせいだ。


…都合のいい夢ばかり見てはいけない。



何しろ私はハンナ嬢に自分の気持ちを少しも伝えていないのだから。

勝手に落ち込んで、センチメンタルになっている愚か者だ。



ホーリィ嬢とうまく話せたら、


…こんな私でも、変わることができたら、



ハンナ嬢に想いを告げよう。


私が好きなのは君だと。


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