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第5話 悪役モブの出生の秘密を知った

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「はい、治ったよ。もう痛くないでしょう?」
「ありがとうザジ。ザジの魔法は本当にすごいな」
「たいしたことないよ。僕に出来るのはこれだけだもん」

 ということにしている。本当は全属性だけど、そこがバレると割とヤバいので。
 本当なら当日直したいのを、わざわざ翌日の今日直しているのも力を隠すための小細工の一環だ。うっかり治しすぎても治りかけだったから早く治ったと言い訳できるようにね。
 それにしても、最初に自分の傷で試してみて本当に良かった。崖から落ちた傷のことだ。軽い傷だったのもあるだろうけど、びっくりするほどあっさり治った。

 魔法って魔力にあかしてドパッと出してしまう方が楽ちんなんだな……すぐにエネルギー切れるけど。意識して小さく出そうとすると結構難しいし発動自体が不安定になる。
 例えるなら、自転車である程度スピード出して走るより、めちゃくちゃゆっくり走る方が難しいのに似ている。なおスピード出しすぎると止まろうとしてもすぐに止まれなかったり、それはそれでコントロールが大変なのもちょっと似てる。

 今の僕は、魔力量だけはやたら多いけど、ノーコンのポンコツだ。今も実はちょっと魔力出し過ぎていた。
 まぁ、アレンだからいっか。

「正解してもダメって、難しいな」
「ん。しょうがないよ、僕とアレンはこの家の子だけど、この家の子じゃないから」
「? この家の子じゃないのか?」
「アレンは別館の子でしょ。僕は、多分母様が違う人なんじゃないかなって思う」

 思うというか、確定なんだけど。
 昨夜遅く、こっそり気配遮断の魔法を掛けて父親の書斎に忍び込んだ。なにか自分の出自が分からないかなと思って。そうしたら、都合良く両親が話している場面に出くわしたのだ。



 話していたのはアレンと僕のことだった。
 アレンの母親は色々な事情で仕方なく父に嫁入りしてきた人で、アレンの父はこの家の当主――つまり僕の父とは違う人だ。実際の彼の父親は現王の双子の弟で、現魔王なのだ。元々は前魔王を討伐した勇者なのに、諸事情で魔堕ちして魔王になってしまった。その事情に彼の母親の死も関わってきている。というのは原作情報。

 しかし昨夜両親が話していたのはそこではない。アレンの父についてはゲームの設定に関わるところなので、両親は詳細には知らないはずだ。ただまぁ、アレンの容姿はどう考えても現王に似ている。父親が現王の双子の弟なので仕方がないと言えば仕方がない。なので、王家の血筋だと言うことや、それを現状では表沙汰に出来ないことは推測出来ているだろう。

 話しの内容は、アレンと僕を、アレンが母親と暮らしていた別館に移せないかということだった。ちなみに現在その別館は、アレンの母が亡くなった事件の影響から、建物の一部が破損して人が住める状態ではない。
 無理だという父と、建物の状況がどうなっているか知りつつも移したい母とが言い争っていた。その中で、アレンと並列で語られていた僕の出生について母が言及したのだ。
 あの子だって、あの召使いのアバズレ女にお義父様が手をつけて生ませた子でしょう、と。継承権や継承順の都合から仕方なく引き取ったけれど、本来ならば生ませたくなかった、とも。

 心臓がどうにかなってしまうかと思った。不規則に暴れるのをなんとか宥めながら、荒くなりそうな息を必死で抑えながら、僕は自室に急いで戻った。
 周囲に人の目がないことを確認してから音を立てないように気をつけて扉を開けて自室に滑り込んだ後は、もう立っていられなかった。

 あの話からだけでは母親が誰かは明確には分からないが(召使いと言っていたから、メイドを探れば分かりそうではあったが)、父親は分かった。つまりザジは、戸籍上の父親の末の異母弟なのだ。
 継承順と言っていたが、母が案じているのは祖父が持つ爵位に関するものだろう。祖父は祖国を守るためにいくつもの戦場を掛けた人で、功績に応じて3つの爵位を持っている。現在継承権を持っているのは父と分家を継いだ叔父の2人だが、もしもザジが祖父の子として承認されていればここに加わることになり、やがて自動的に祖父の持つ爵位のいずれかを継承した。現状はザジは父の子とされている為、祖父からの継承権はない。つまり、父が2つ継承する。父が継承したものを継ぐのは子だが、長兄次兄に継承されるから、ザジの分は残らない。

 なんだかなぁ、と思いながら力なく笑い、震える唇を噛みしめた。
 この子はそんなものちっとも欲しがっていなかったのに、大人の勝手な都合だけでそこまで冷遇するなんて、ほんとうにどうしようもない。

「……ザジってこんな設定あったんだ……」

 公式の設定資料集にも載ってなかったよ……本当に悪役モブだし、しょうがないんだけど。



「大丈夫、ザジ?」
「……平気だよ、アレン」
「でも、泣いてる」

 泣いてなんてない、と言おうとして、笑おうとして、出来なかった。
 目の前がうっすらと膜を張ったように歪んで、目の奥が痛くなる。喉が震えて声が出ない。唇が震えて、笑えない。
 アレンの手が伸びてきて、僕の身体を抱きしめた。お互いにまだ小さな身体は、抱きしめると言うよりはしがみ付くと言った方が良いようなありさまだったけど。アレンの温かさが心地良くて、僕も彼の身体を抱きしめていた。
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