戦国の鍛冶師

和蔵（わくら）

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第86話　真実は闇と贋の事実

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インガは悲壮な顔をしたまま、オレークの話を訊いていたのだった。
それもそうであろう！今まで、係わり合いを持たない様にしていた
家との関わりを持とうとしていたからである。

「愛娘のルートを辺境伯家の息子に嫁がせた事を後悔して止まない
それなのに、またダニエルまでも、辺境伯家に行く事になるとは、
私《わし》は、思いも寄らなかったさね！」

インガが何故、ここまで辺境伯家との関係を持とうとしないのか、
ヘレナは核心を訊き出そうと、インガに切り出したのだった。

「何故かって？そんなのは決まっているじゃないか！貴族は分家
ともなると、婿養子にでもならないと貴族を継げないんさね！
そうなると、準男爵や準士爵なんって貴族は、その当主が生きて
る間だけしか貴族で居られないのさ！此処まで訊いても解んない
のかね？それならば、全部話して聞かせてやるさね！」

そう言うとインガは、重い腰をカウンターに置いている何時もの
お気に入りの椅子に腰掛けたのであった。

「辺境伯家の分家の者達は、ルートと辺境伯との結婚を良く思って
なくてね！ルートとの結婚は、渋々だが認めたけれど、辺境伯家の
次期当主となるエーヴァとの結婚は、今度と言う今度は認めないで
あろうさね！ルートの結婚の時に受けた嫌がらせより更に、陰険な
嫌がらせをされる覚悟がなければ、結婚なんって出来やしないよ！」

ヘレナは、その話を訊いて何故インガが、辺境伯家との関係を持ちた
くないかを理解したのだった。そして、ヘレナはインガが話してくれ
た事を旦那様に報告して、直ぐにでも分家の対応をする事をインガに
話すのだが、インガは良い顔はしていなかった。

「一族って言うのはね！外から入ってくる血を極端に嫌う傾向にある
さね！そして、それを無理やりすると、また反発が生まれたりするか
ら始末に終えないのさ！もしも、今回のダニエルとエーヴァの婚約が
明るみになれば、分家の者達が私やオレークの店に嫌がらせをするの
も、解りきっているさね！その為の備えは確りとしているが、それだ
けでは、万全とは行かないのさね！」

インガは、ルート様の結婚の時より、更に悪くなると言っているのが
直ぐに解ったのだ。その言葉の意味する事は、最悪はダニエルを暗殺
する事も分家の者達ならば、遣りかねないとインガは、ヘレナに言っ
ていたのだった。

魔道具専門店・魔法の杖には、何故か小型の大砲が置いてあるのは、
周知の事実なのだが、その理由がやっと解ったのだった！分家の者
の襲撃を恐れて、小型の大砲を置いていたのだ。だが、そこまでも
するのだろうかと、ヘレナは思ったのだが、インガの顔は真剣なま
まであったのを見て、ヘレナの考えも改めないと行けない事を悟ら
たのだった。

「母さん、もしやルートの結婚の時に、父さんが死んだのは.....」

「それ以上は言うんじゃないさね！それ以上言うと、侯爵家の者達
が黙ってないさね！もしも、辺境伯家と侯爵家が争えば、この町は
直ぐにでも火の海になってしまうさね！父さんは、長い旅路の心労
が祟ってしまい死んだのさね！」

ヘレナは、インガの心が痛い程に解ったのだった！ルート奥様が居る
この町を火の海にしない為に、旦那様を殺されても文句を言わずに、
沈黙を貫いているのだ。それを貫く事で、ルート奥様やエーヴァ様に
ラウラ様の身の危険を減らしていると言う事なのだ。

もしも侯爵家が真実を知れば、今回の縁談が上手く行ったとしても、
その後の事は何も進展は無いであろう！そうなれば、何の為に縁談を
進めるのか、目的を無くしてしまう事になるのだ！

ヘレナの額から、嫌な汗が流れてくるのをヘレナはハンカチで拭い
ながら思っていた。予想以上にドロドロしていた事に、驚きを隠せ
ないヘレナであった。これはヤバイ！ヤバ過ぎる！ヘレナの心の中
では、一心不乱に警戒音が鳴り響いていたのだった。

下手をすれば、辺境伯家と男爵との争いなど、小さく見える程だった
辺境伯家の分家の者達が、侯爵家の長子を暗殺していたのだ！この事
が公になれば、必ずや侯爵家が報復をするに違いなかった！

それも下手をすれば、辺境伯家の本家を巻き込んでの、分家の壮絶な
自爆を意味する！そうなってしまえば、今やろうとしてる事など意味
など無く、只の徒労に終わる事を意味する！

幸いにも、インガは旦那様の死因を長い旅路による心労が祟った為に
起こったものとしている。こうした理由には、侯爵家の者達にも原因
があったと言いたいのだろう！それで侯爵家の者達を黙らせて居るの
だろう！

そして！

この事は、インガと分家の者達しか知らずい居たのだ！そうなれば
話が早かった。何故ならば黒の団の出番だったからである！

真実を知る者には消えて貰い、真実を闇に、そして、事実も闇に消え
る事を意味するのだ。黒の団とは、そう言う組織である！

白の団は、真実が消えた後に、都合の良い真実を作り出す組織である！
その白の団の事実上のトップのヘレナが、この場に居合わせた事は今後
の展開に置いても、有利に働くであろう！

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