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「−1」の積層体
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「ケイタ!早く来いよ!」
ケイタを呼ぶ声がして、シンジと話していたケイタが廊下の方を振り返る。
椅子に座っているシンジの目の前にケイタのズボンのベルトがある。
シンジは視線のやり場に困る。
「じゃあ、放課後。よろしくな。」
と言って、ケイタは廊下の方に歩いていった。
しばらくその後ろ姿を見ていたシンジだったが、
廊下でケイタを待っていた男子生徒がシンジのことをチラチラと見ながらケイタに何か言っているのに気がつき、サッと視線を外した。
それから、バイト先でもらったパンをかじり始める。
昨日、バイト終わりに事務所で作業をしていたオーナー兼店長であるコウジさんがくれたパンだ。
コウジさんとその奥さんのケイコさんは、廃棄処分になりかけたパンやおにぎりをよくシンジに持たせてくれる。
「ちゃんと食べてるの?」
「もっと食え。」
が二人の口癖だ。
二人のおかげで、シンジは昼食代をかなり浮かせることができていた。
ケイタが一緒に昼食を取ろうと誘ってくれた。
きっといつものメンバーと一緒に食べるのだろう。
ケイタは学年の人気者で、彼の周りにはいつも数人の男子生徒がいる。
そして、それを遠目で、まどろんだような目で見つめている女子生徒も。
小さな頃から、複数人の中に入るのが苦手だった。
皆と同じ空間にいても、自分自身の異物感に耐えられなくなる。
まるで、自分の周りに透明な膜が張っていて、
周囲の世界と隔たれているような感覚。
皆に合わせなければと思って喋ってみると、
急に皆の会話が止まり、明らかにそれまでとは違った空気が流れる、恐怖感に近い違和感。
そんな小さな「-1」の感情が積み重なり、いつしか「-100」になって、
シンジは人と積極的に関わらなくなった。
本当はケイタと、できるなら二人で、お昼を食べたかった。
そんな思いを喉に詰まりそうなパンと一緒に飲み込んで、なかったことにする。
放課後、図書館に行くと、ケイタの姿はなかった。
他に用事ができたのか。
そう、例えば、友達に誘われて何処かに行ってしまったとか。
そんなことを考えながら、お決まりの席、「宇宙・生命」の棚の前の席に座る。
「宇宙」と「生命」。
なんの関連があって、同じジャンルとして棚が設けられているのか分からないが、
どちらも、その終わりが想像できないほど広い世界だから、
その2つの世界はどこかで重なり合ったり、繋がり合ったりしているのかもしれない。
なんの関連もない自分とケイタの世界は、互いのどこかで重なり、繋がることがあるのだろうか。
ノートを開いて、宿題に取り掛かる。
紙の匂いが感じられるほど、顔を近づけて、最初の一文字を書き始める。
と、その時、図書室のドアが勢いよく開いた。
ケイタだった。
大きく肩で息をしながら大股で近づいてくる。
昨日と同じく、ドアは開けっ放し。
「遅くなってごめん。うるさい奴らに絡まれちゃって。」
そう言いながら、ケイタがどかっと椅子に腰を下ろすと、
向かいに座っているシンジの前髪が風で揺れた。
「次遅れたら、お尻ペンペンしていいぞ!」
ケイタが自分の腰のあたりをペシペシと叩いている。
シンジはそれを無視しつつも、微かに口角を上げて、言った。
「いいから。今日やる教科、どれ?教科書出して。」
そして、ケイタが準備するのを待つ。
しかし、ケイタはカバンから何も取り出す様子がない。
そして真剣な眼差しで言った。
「7、笑うんだな。」
そして、急に嬉しそうな顔をして、ガサガサとカバンをあさり、
数学の教科書を机の上に放り出した。
シンジはきょとんとした顔で、ケイタのことを見つめ続けていた。
ケイタを呼ぶ声がして、シンジと話していたケイタが廊下の方を振り返る。
椅子に座っているシンジの目の前にケイタのズボンのベルトがある。
シンジは視線のやり場に困る。
「じゃあ、放課後。よろしくな。」
と言って、ケイタは廊下の方に歩いていった。
しばらくその後ろ姿を見ていたシンジだったが、
廊下でケイタを待っていた男子生徒がシンジのことをチラチラと見ながらケイタに何か言っているのに気がつき、サッと視線を外した。
それから、バイト先でもらったパンをかじり始める。
昨日、バイト終わりに事務所で作業をしていたオーナー兼店長であるコウジさんがくれたパンだ。
コウジさんとその奥さんのケイコさんは、廃棄処分になりかけたパンやおにぎりをよくシンジに持たせてくれる。
「ちゃんと食べてるの?」
「もっと食え。」
が二人の口癖だ。
二人のおかげで、シンジは昼食代をかなり浮かせることができていた。
ケイタが一緒に昼食を取ろうと誘ってくれた。
きっといつものメンバーと一緒に食べるのだろう。
ケイタは学年の人気者で、彼の周りにはいつも数人の男子生徒がいる。
そして、それを遠目で、まどろんだような目で見つめている女子生徒も。
小さな頃から、複数人の中に入るのが苦手だった。
皆と同じ空間にいても、自分自身の異物感に耐えられなくなる。
まるで、自分の周りに透明な膜が張っていて、
周囲の世界と隔たれているような感覚。
皆に合わせなければと思って喋ってみると、
急に皆の会話が止まり、明らかにそれまでとは違った空気が流れる、恐怖感に近い違和感。
そんな小さな「-1」の感情が積み重なり、いつしか「-100」になって、
シンジは人と積極的に関わらなくなった。
本当はケイタと、できるなら二人で、お昼を食べたかった。
そんな思いを喉に詰まりそうなパンと一緒に飲み込んで、なかったことにする。
放課後、図書館に行くと、ケイタの姿はなかった。
他に用事ができたのか。
そう、例えば、友達に誘われて何処かに行ってしまったとか。
そんなことを考えながら、お決まりの席、「宇宙・生命」の棚の前の席に座る。
「宇宙」と「生命」。
なんの関連があって、同じジャンルとして棚が設けられているのか分からないが、
どちらも、その終わりが想像できないほど広い世界だから、
その2つの世界はどこかで重なり合ったり、繋がり合ったりしているのかもしれない。
なんの関連もない自分とケイタの世界は、互いのどこかで重なり、繋がることがあるのだろうか。
ノートを開いて、宿題に取り掛かる。
紙の匂いが感じられるほど、顔を近づけて、最初の一文字を書き始める。
と、その時、図書室のドアが勢いよく開いた。
ケイタだった。
大きく肩で息をしながら大股で近づいてくる。
昨日と同じく、ドアは開けっ放し。
「遅くなってごめん。うるさい奴らに絡まれちゃって。」
そう言いながら、ケイタがどかっと椅子に腰を下ろすと、
向かいに座っているシンジの前髪が風で揺れた。
「次遅れたら、お尻ペンペンしていいぞ!」
ケイタが自分の腰のあたりをペシペシと叩いている。
シンジはそれを無視しつつも、微かに口角を上げて、言った。
「いいから。今日やる教科、どれ?教科書出して。」
そして、ケイタが準備するのを待つ。
しかし、ケイタはカバンから何も取り出す様子がない。
そして真剣な眼差しで言った。
「7、笑うんだな。」
そして、急に嬉しそうな顔をして、ガサガサとカバンをあさり、
数学の教科書を机の上に放り出した。
シンジはきょとんとした顔で、ケイタのことを見つめ続けていた。
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