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「12」時のチャイム

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「腹減ったー!飯、飯!」
12時のチャイムが鳴ると同時に、
ケイタはそう言いながら、勢いよく席を立った。
その拍子にケイタの椅子が大きく動き、後ろの女子の席に激突する。

待ちに待った昼休み。
椅子をぶつけられた女子の怪訝そうな顔に気が付く様子もなく、
ケイタは廊下に向かって歩き始める。

そのまま食堂に一直線、と思いきや、
ふと立ち止まり、回れ右をして引き返し始めた。
自分の席を通り過ぎて、教室の窓際、一番後ろの席まで歩み寄る。

「飯、行こうぜ。」

自分のカバンをゴソゴソといじっていたシンジが驚いて顔を上げる。
初対面の人に突然話しかけられたような驚いた目をしている。

その目は、昨日のそれと同じように見えて、でも少し違っていた。
昨日よりは揺れが少なく、ケイタの目をじっと直視している。

「飯。一緒に食堂で食おうぜ。」
今日から放課後に勉強を教えてくれるシンジをいつもの仲間に混ぜて、
一緒に昼食を取りたかった。
何故そうしたいと思うのかは、ケイタ本人にも分からないのだけれど。

しかし、シンジは首を振って、小さな声で言った。
「これ、あるから。」

そう言って、シンジがカバンから取り出したのは、コンビニのビニール袋。
その中にコンビニでよく見かけるパンが二つ入っている。

「飯、それだけ?」
いつも食堂で山盛りの白飯と揚げ物の定食を食べるケイタには信じがたいほどの少量だ。

シンジは、うん、と頷く。

「それ、バイト先の?」

シンジは同じように、うん、と頷く。

「ケイタ!早く来いよ!」
廊下の方から呼ばれてケイタが顔を向けると、
いつも一緒に昼食を食べている仲間の一人、今田ヨシオが呼んでいた。
普段、誰とも会話をしないシンジにケイタが話しかけていることに気づき、
ひどく驚いた顔をしている。

「おぅ!今行く!」
ケイタはヨシオにそう言うと、シンジの方に向き直り、
「じゃあ、放課後。よろしくな。」
と言って、廊下の方に歩いていった。

その後ろ姿をシンジが無表情なままで見つめている。

セブンと何話してたんだ?」
ヨシオが興味津々な眼差しでケイタに聞いてくる。

「うるせー!あー、腹減った。」
ケイタはヨシオの質問を無視して、食堂へと歩いて行く。

それから数歩進んだところでケイタが歩きながら振り返って見てみると、
シンジは顔を伏せて、モソモソとパンをかじっていた。

「なぁなぁ、何話してたんだよ!」
しつこく聞いてくるヨシオを肘で払いのけながら、
その姿が見えなくなるまで、ケイタはシンジの様子を振り返って見続けていた。
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