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「2.5」ねんせい
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「なんだ!7か!」
ケイタはいつものようなデカい声でそう言いながら、扉を閉めもせずにシンジの方に近づいて行った。
シンジの目の前に辿り着くまで、何脚かの椅子がケイタの体にぶつかって耳障りな音を立てた。
新学期が始まって間もない4月の穏やかな日差しの中、綺麗に並べられていた椅子の列が無残にも乱されていく。
ケイタには、自分の大きな身体と周囲の物との距離を上手く認識する能力が欠落していた。
だから、しょっちゅう扉や机、悪い時には人にぶつかってしまう。
もちろん、本人に一切の悪気はないのだけれど。
ケイタはシンジが座っている席の向かい側の椅子を勢いよく引き、
どかっと音を立てて座った。
「先生って7のことかよ!」
訳も分からず、目を見開いて固まったままでいるシンジには構うことなく、ケイタは語り出した。
話の順番も脈略も滅茶苦茶な彼の話を要約すると、次のようなことだった。
昼休みに野球部の監督、島崎に呼び出されて職員室に行った。
そこで、ケイタにとって衝撃的な通告が言い渡される。
「お前は今日から3週間、部活に出るな。」
雷に打たれたように固まってしまったケイタにその理由が淡々と説明された。
2年生3学期の期末テストの結果、ケイタの成績は進級に足るレベルに達していなかった。
通常なら即座に留年となるところだったが、島崎が各科目の教師たちに頭を下げ、
「スポーツ推薦でこの高校に入学した生徒への特別措置」、いわゆる「奥の手」が発動された。
それは進級後、1ヶ月のうちに再度期末テストを受験すること。
それで進級に足る点数を取ることができれば、晴れて正式に3年生となることができる。
そこで落第すれば、2年生のやり直し、というものだった。
島崎曰く、「2.5年生扱い」。
自分はスポーツ推薦でこの高校に入ったし、大学へも同じ様に進むのだ。
だから学業成績など気にすることはない。
そう高を括っていたケイタに天罰が下ったのだった。
本当は抗議の声を上げたかったケイタであったが、
いつも恐れをなしている島崎からの厳命とあっては、ぐうの音も出ない。
また、恐れと同時に尊敬の対象でもあった島崎に頭を下げさせたという事実がケイタの心をどんよりと曇らせていた。
ぐったりとうな垂れるケイタに島崎は告げた。
「放課後、図書室に行け。お前専属の先生がいるから。みっちり教えてもらえ。」
あまりの衝撃で、その「先生」が誰なのかを聞くこともできず、
ケイタはそのまま午後の授業を終えた。
そして、いつもなら部室に走って行くところを今日は図書室にやってきたのだった。
他の野球部員たちに「2.5ねんせ~い」と笑われながら。
「な?ひどいだろ?」
まだ一言も言葉を発することなく、呆気にとられているシンジに向かって、ケイタは話し続けるのだった。
ケイタはいつものようなデカい声でそう言いながら、扉を閉めもせずにシンジの方に近づいて行った。
シンジの目の前に辿り着くまで、何脚かの椅子がケイタの体にぶつかって耳障りな音を立てた。
新学期が始まって間もない4月の穏やかな日差しの中、綺麗に並べられていた椅子の列が無残にも乱されていく。
ケイタには、自分の大きな身体と周囲の物との距離を上手く認識する能力が欠落していた。
だから、しょっちゅう扉や机、悪い時には人にぶつかってしまう。
もちろん、本人に一切の悪気はないのだけれど。
ケイタはシンジが座っている席の向かい側の椅子を勢いよく引き、
どかっと音を立てて座った。
「先生って7のことかよ!」
訳も分からず、目を見開いて固まったままでいるシンジには構うことなく、ケイタは語り出した。
話の順番も脈略も滅茶苦茶な彼の話を要約すると、次のようなことだった。
昼休みに野球部の監督、島崎に呼び出されて職員室に行った。
そこで、ケイタにとって衝撃的な通告が言い渡される。
「お前は今日から3週間、部活に出るな。」
雷に打たれたように固まってしまったケイタにその理由が淡々と説明された。
2年生3学期の期末テストの結果、ケイタの成績は進級に足るレベルに達していなかった。
通常なら即座に留年となるところだったが、島崎が各科目の教師たちに頭を下げ、
「スポーツ推薦でこの高校に入学した生徒への特別措置」、いわゆる「奥の手」が発動された。
それは進級後、1ヶ月のうちに再度期末テストを受験すること。
それで進級に足る点数を取ることができれば、晴れて正式に3年生となることができる。
そこで落第すれば、2年生のやり直し、というものだった。
島崎曰く、「2.5年生扱い」。
自分はスポーツ推薦でこの高校に入ったし、大学へも同じ様に進むのだ。
だから学業成績など気にすることはない。
そう高を括っていたケイタに天罰が下ったのだった。
本当は抗議の声を上げたかったケイタであったが、
いつも恐れをなしている島崎からの厳命とあっては、ぐうの音も出ない。
また、恐れと同時に尊敬の対象でもあった島崎に頭を下げさせたという事実がケイタの心をどんよりと曇らせていた。
ぐったりとうな垂れるケイタに島崎は告げた。
「放課後、図書室に行け。お前専属の先生がいるから。みっちり教えてもらえ。」
あまりの衝撃で、その「先生」が誰なのかを聞くこともできず、
ケイタはそのまま午後の授業を終えた。
そして、いつもなら部室に走って行くところを今日は図書室にやってきたのだった。
他の野球部員たちに「2.5ねんせ~い」と笑われながら。
「な?ひどいだろ?」
まだ一言も言葉を発することなく、呆気にとられているシンジに向かって、ケイタは話し続けるのだった。
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