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出会いと雪解け
ancient earl・1
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ナギサは心底嫌そうな表情を浮かべると、冥殿へと足を踏み入れた。
先日訪れたこの場所で、ナギサは心の底から憎んでいる魔王と遭遇したからだ。
ナギサにとってそれは忌むべきことであり、二度と関わりたくないのだから。
思わず、大きな溜め息を零す。
あの時、冥王・リキが言っていた「今日は挨拶だけだから」の言葉が蘇る。それはつまり、今度も会うことを示しているし、こんなに早く呼び出しが来るとは思ってもみなかったからだ。
「い、いや。気持ちで負けてはダメね。そうよ。ナギが連絡をしていた件かもしれないじゃない」
ナギサはぶんぶんと首を横に振ると、自分を鼓舞するようにぐっと拳を握った。
ナギサを案内するために、冥殿の執事長がナギサと共に歩いており、その様子をもちろん見ているが何も言わない辺りは、さすがと言うべきだろう。
彼の案内の下、執務室へと通されたナギサが入ると、リキは大量の書類に埋もれていた。
「え?え!?ちょっと!大丈夫!?」
思わず駆け寄ったナギサだが、「平気平気」と返事をするリキと共に、カイが「いつものことですので、お気になさらず」と笑顔で言い放つ。何とかもぞもぞと出てきたリキが「お待たせ!」と言ってきたのを確認して、ナギサは咳払いをするとゆっくりと頭を垂れた。
「月王家第一王女、ナギサ=ルシード。参じました」
ナギサのその姿を見て、今度はリキがぎょっとした。
「え!?そんな畏まらなくっていいって!カイ、今すぐお茶用意して!」
リキはそう指示を出しながらも、ナギサをソファへと座らせた。
「そういう訳にもいかないでしょう?私は一国の王女でしかないのだし。あなたの方が身分は上だわ」
「そうかもしれないけど……」
そう口籠るリキだったが、ナギサは再びすっと背筋を伸ばす。
「では、先日仰っていたことを説明していただけるのかしら?」
そうすまして言い放つナギサに、リキは思わず頭を抱える。
「う、うん。話すから、その畏まった態度やめて?調子が狂うわ。ね?俺とナギサ、一つしか歳変わらないんだし、もっとフレンドリーに行こうぜ!」
そう笑顔で言うリキだったが、ナギサが冷たい視線を向けたままで、早くも心が折れた。
「カイー!俺、もう泣きそう!」
「はいはい。そんな戯言を言っているからでしょう?さっさと本題を話せば、ナギサ様だってそんなに冷えた目で見ないですよ」
カイにもバッサリ切り捨てられ、めそめそとするリキだが、ここに味方はいないようでしょぼんとする。
カイは、そんなリキの扱いに慣れているようで、ナギサに用意したお茶と同時に、リキの前にも彼が好きな菓子と一緒に置くと、リキはしょぼしょぼしながらも菓子を口に含み、やっと話す気になったようだった。
「たぶん、大神は何も話してないと思うんだけど……三大王の後継者の役割って聞いたか?」
リキの言葉に、ナギサは「役割?」ときょとんとする。
その様子で、大神が何も言ってないことを理解すると、リキは頭を抱えた。
「うーん、やっぱりな。じゃあ、三大王の後継者の別名称は知ってるか?」
その問いにもナギサは首を横に振るが、見越していたリキはすぐに答えを出した。
「“代理人”。三大王の代理人」
それにはナギサは予想外だったようで、眉を寄せる。
「代理人?何を代理するの?跡取りは、いずれ王になるために勉強するっていうのは聞いたけど」
「まあ、確かに。ある意味、勉強でもあるんだが」
リキはそう言うと、すっと指を前に出し、空中に円を描いた。
瞬間、ゆらりと幻影が現れる。
「この世界は、聖界、魔界、冥界、総じて三大界で成り立っている。それぞれを大神、魔王、冥王が治めている。それぐらいはわかっているな?」
「もちろん。その三人をまとめて三大王と呼ぶこともね」
ナギサの言葉にリキは頷くと、再び手で空中を撫でる。今まで映っていた幻影は揺らぎ、たくさんの星が映し出された。
「これが、三大界と別次元にある混界だ。この全ての星一つ一つに生物が生存し、また星同士の干渉がないように、次元を弄ってある。ナギサが記憶を失くしている間、過ごしていたのも、この混界の中の一つ、ってことだな。三大王の仕事の一つとして、混界のバランスを保つことも含まれる」
「三大王が?でも、別の世界なのよね?」
「ああ。ただ、混界には“神”が存在しないし、精霊の干渉もほとんどない。さっき言ったように、特例でこちらから混界へ行くことはあるが、ほとんどない」
リキの言葉に、ナギサは向こうで過ごした日々を思い出した。確かに、魔法なんてなかったし、そういうのはおとぎ話の中だけだった。
「導く存在がいないからこそ、三大王が導かなければならないってこと?」
「導くって言うと大袈裟だけど、滅ばないように多少の修正だけしてる、ってイメージだな」
リキの言葉に、ナギサは考え込むように腕を組んだ。その様子を見て、リキは話を続けた。
「ただ、三大王自身も一つの世界を担う王。自分の世界に重きを置くのは当たり前だし、仕方ない」
「混界の方が疎かになってしまうということね。時間だってないでしょうし、自分の世界が優先されるのは仕方がないわね」
「そこで出てくるのが、三大王の後継者だ。“代理人”として混界の仕事を任している」
その言葉に、ナギサはじっとリキを見つめた。
その訝しげな表情に、リキは苦笑いを浮かべるしかない。
「さっき、ナギサだって言っただろ?“王になるための勉強”だって。いずれ、同じ仕事をするのだから、半分持ってね、ってことなんだろ」
「確かに言ったけど……何でそうなるのよ」
ナギサは思わずため息を吐くが、リキの苦笑いは止まらないようだ。
「代理人は、混界でトラブルが起きた際に直々に向かい、調査及び解決をしてもらう。同時に、混界にいる間は三大王と同等の許可が下りる」
「同等の許可?」
ナギサは益々眉間に皺を寄せていくが、リキは開き直ったように話し続ける。
「ああ。さっき、精霊の干渉があまりないとは言ったが、存在しない訳じゃない。三大王として精霊に干渉が可能だし、一定以上の理由がある場合のみにはなるが、戦闘も可能。その際の死傷に関しても、許可が下りている」
あまりよろしくない言葉に、ナギサは頭を抱えるが、リキは「まあ、そんな大事な事件滅多にないけどな」とフォローは入れている。
しかし、ナギサはそこではたと気付いたように目を開いた。
「そう言えば、冥王代理人っているの?」
「ああ、いるよ。大神や魔王と違って、冥王は世襲制じゃないから、冥王以外で“封印の神”と契約している奴が、“代理人”として立っている状態なんだ」
リキの言葉に、ナギサも納得したのか、テーブル上のお菓子に手を伸ばした。
「それで?わざわざ今日呼ばれたのは、その仕事をこれからしてくれってことなのかしら?」
「うーん?それもあるけど、そのために紹介しなきゃいけない奴いるな、って思って。もうすぐ来るからちょっと待っててよ」
リキの言葉に、ナギサは一瞬面倒そうな表情を浮かべるが、そのままお菓子と紅茶を堪能し始めた。
リキも、お菓子を摘まみながら呼んだ相手が来るのを待った。
先日訪れたこの場所で、ナギサは心の底から憎んでいる魔王と遭遇したからだ。
ナギサにとってそれは忌むべきことであり、二度と関わりたくないのだから。
思わず、大きな溜め息を零す。
あの時、冥王・リキが言っていた「今日は挨拶だけだから」の言葉が蘇る。それはつまり、今度も会うことを示しているし、こんなに早く呼び出しが来るとは思ってもみなかったからだ。
「い、いや。気持ちで負けてはダメね。そうよ。ナギが連絡をしていた件かもしれないじゃない」
ナギサはぶんぶんと首を横に振ると、自分を鼓舞するようにぐっと拳を握った。
ナギサを案内するために、冥殿の執事長がナギサと共に歩いており、その様子をもちろん見ているが何も言わない辺りは、さすがと言うべきだろう。
彼の案内の下、執務室へと通されたナギサが入ると、リキは大量の書類に埋もれていた。
「え?え!?ちょっと!大丈夫!?」
思わず駆け寄ったナギサだが、「平気平気」と返事をするリキと共に、カイが「いつものことですので、お気になさらず」と笑顔で言い放つ。何とかもぞもぞと出てきたリキが「お待たせ!」と言ってきたのを確認して、ナギサは咳払いをするとゆっくりと頭を垂れた。
「月王家第一王女、ナギサ=ルシード。参じました」
ナギサのその姿を見て、今度はリキがぎょっとした。
「え!?そんな畏まらなくっていいって!カイ、今すぐお茶用意して!」
リキはそう指示を出しながらも、ナギサをソファへと座らせた。
「そういう訳にもいかないでしょう?私は一国の王女でしかないのだし。あなたの方が身分は上だわ」
「そうかもしれないけど……」
そう口籠るリキだったが、ナギサは再びすっと背筋を伸ばす。
「では、先日仰っていたことを説明していただけるのかしら?」
そうすまして言い放つナギサに、リキは思わず頭を抱える。
「う、うん。話すから、その畏まった態度やめて?調子が狂うわ。ね?俺とナギサ、一つしか歳変わらないんだし、もっとフレンドリーに行こうぜ!」
そう笑顔で言うリキだったが、ナギサが冷たい視線を向けたままで、早くも心が折れた。
「カイー!俺、もう泣きそう!」
「はいはい。そんな戯言を言っているからでしょう?さっさと本題を話せば、ナギサ様だってそんなに冷えた目で見ないですよ」
カイにもバッサリ切り捨てられ、めそめそとするリキだが、ここに味方はいないようでしょぼんとする。
カイは、そんなリキの扱いに慣れているようで、ナギサに用意したお茶と同時に、リキの前にも彼が好きな菓子と一緒に置くと、リキはしょぼしょぼしながらも菓子を口に含み、やっと話す気になったようだった。
「たぶん、大神は何も話してないと思うんだけど……三大王の後継者の役割って聞いたか?」
リキの言葉に、ナギサは「役割?」ときょとんとする。
その様子で、大神が何も言ってないことを理解すると、リキは頭を抱えた。
「うーん、やっぱりな。じゃあ、三大王の後継者の別名称は知ってるか?」
その問いにもナギサは首を横に振るが、見越していたリキはすぐに答えを出した。
「“代理人”。三大王の代理人」
それにはナギサは予想外だったようで、眉を寄せる。
「代理人?何を代理するの?跡取りは、いずれ王になるために勉強するっていうのは聞いたけど」
「まあ、確かに。ある意味、勉強でもあるんだが」
リキはそう言うと、すっと指を前に出し、空中に円を描いた。
瞬間、ゆらりと幻影が現れる。
「この世界は、聖界、魔界、冥界、総じて三大界で成り立っている。それぞれを大神、魔王、冥王が治めている。それぐらいはわかっているな?」
「もちろん。その三人をまとめて三大王と呼ぶこともね」
ナギサの言葉にリキは頷くと、再び手で空中を撫でる。今まで映っていた幻影は揺らぎ、たくさんの星が映し出された。
「これが、三大界と別次元にある混界だ。この全ての星一つ一つに生物が生存し、また星同士の干渉がないように、次元を弄ってある。ナギサが記憶を失くしている間、過ごしていたのも、この混界の中の一つ、ってことだな。三大王の仕事の一つとして、混界のバランスを保つことも含まれる」
「三大王が?でも、別の世界なのよね?」
「ああ。ただ、混界には“神”が存在しないし、精霊の干渉もほとんどない。さっき言ったように、特例でこちらから混界へ行くことはあるが、ほとんどない」
リキの言葉に、ナギサは向こうで過ごした日々を思い出した。確かに、魔法なんてなかったし、そういうのはおとぎ話の中だけだった。
「導く存在がいないからこそ、三大王が導かなければならないってこと?」
「導くって言うと大袈裟だけど、滅ばないように多少の修正だけしてる、ってイメージだな」
リキの言葉に、ナギサは考え込むように腕を組んだ。その様子を見て、リキは話を続けた。
「ただ、三大王自身も一つの世界を担う王。自分の世界に重きを置くのは当たり前だし、仕方ない」
「混界の方が疎かになってしまうということね。時間だってないでしょうし、自分の世界が優先されるのは仕方がないわね」
「そこで出てくるのが、三大王の後継者だ。“代理人”として混界の仕事を任している」
その言葉に、ナギサはじっとリキを見つめた。
その訝しげな表情に、リキは苦笑いを浮かべるしかない。
「さっき、ナギサだって言っただろ?“王になるための勉強”だって。いずれ、同じ仕事をするのだから、半分持ってね、ってことなんだろ」
「確かに言ったけど……何でそうなるのよ」
ナギサは思わずため息を吐くが、リキの苦笑いは止まらないようだ。
「代理人は、混界でトラブルが起きた際に直々に向かい、調査及び解決をしてもらう。同時に、混界にいる間は三大王と同等の許可が下りる」
「同等の許可?」
ナギサは益々眉間に皺を寄せていくが、リキは開き直ったように話し続ける。
「ああ。さっき、精霊の干渉があまりないとは言ったが、存在しない訳じゃない。三大王として精霊に干渉が可能だし、一定以上の理由がある場合のみにはなるが、戦闘も可能。その際の死傷に関しても、許可が下りている」
あまりよろしくない言葉に、ナギサは頭を抱えるが、リキは「まあ、そんな大事な事件滅多にないけどな」とフォローは入れている。
しかし、ナギサはそこではたと気付いたように目を開いた。
「そう言えば、冥王代理人っているの?」
「ああ、いるよ。大神や魔王と違って、冥王は世襲制じゃないから、冥王以外で“封印の神”と契約している奴が、“代理人”として立っている状態なんだ」
リキの言葉に、ナギサも納得したのか、テーブル上のお菓子に手を伸ばした。
「それで?わざわざ今日呼ばれたのは、その仕事をこれからしてくれってことなのかしら?」
「うーん?それもあるけど、そのために紹介しなきゃいけない奴いるな、って思って。もうすぐ来るからちょっと待っててよ」
リキの言葉に、ナギサは一瞬面倒そうな表情を浮かべるが、そのままお菓子と紅茶を堪能し始めた。
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