上 下
124 / 136
10.前夜祭

モルモット君

しおりを挟む

向こうも同じくため息を吐いて、呪詛のように言葉を履いていた。
「はぁあ、本当、振り回されてめちゃくちゃだ……なんだったんだこの人生、今までのこと全部に意味がなかったしなんだったんだまじのこの人生……早く死ねば良かった。こっちはオマエのせいでどんなに思い詰められたと思」

「だからさ、君最初から嫌われてるんだって。ポジティブシンキングもいいけど、それだけ辛い目にあってる自体、おかしいでしょ?」
まつりが呆れている。彼は話を聞く気は無さそうだった。

「さっきから、何おかしいこと言ってるんだ!! なぜ俺を捕まえる! なぜ、好きなはずだろう! だから! そうじゃなきゃ、得などないはずだ」



「あなた、気付かない? 自分が、何に利用されて居るかってこ・と」
ささぎさんは、その場にしゃがみこみ、憐れなゴミを見るような目で、『それ』を見つめた。

「なんの……ことだ」
「本当に好かれていると思ってるの? それにしては、酷い事ばかりあったとは、思わない?」


「…………そんなこと、そんなことはなかった! 嘘を、つくなー!! 好きなはずだ、あの人が」



 何故かやたらと熱に浮かされている彼は、そういう洗脳教育でも受けていたのかもしれない。
「つまらなくなった、って言われることが増えたでしょう? 前よりも、ありきたりになった、他の人の方がマシって、言われるでしょう?」
「な、何────を」


「フフフフ、誰のせいで、あなたが誰の目にも明らかに、つまらなくなったか、まだわからない? 貴方が私に近づこうとするほどあなたの存在価値も無くなっているのに」
  
ささぎさんは、一体此処で、あるいはどこかでこれまで、何をしていたのだろう?

「本当にそれが好かれていると思うの?」
優しい目で、隣に立たされた被検体を見つめて笑う。
彼は内的に生じる恐怖と苛立ちのままに「黙れ!」と叫んだ。

「黙れ、黙れ!! 言っとくけどなぁ! 
お前だって、お前が大事にしてる履歴なんか役に立たねぇんだよ!
どんなにログがあろうと、履歴が詳細にあるから盗まれても平気って思ってんなら、履歴なんかいくらだって操作出来るんだからな!!
それを、俺はお前より上に立って証明して――――お前から奪ってでも証明して――――」



「ふうん。そう。私、『悪意の無い好き』って、この世で一番嫌いな言葉なの。
さよなら、従順なモルモット君」

ささぎさんは目を細めて、最後にそれだけ言う。
もはや彼に何の興味も無い、と語るように。






「もう、いいよ」
界瀬さんが冷たく言い放ったとき、同時に、ドガッ、と、鈍い音。
蹴りを入れたのは、まつりだった。
そのまま気を失う彼を、ただ無表情のまま、見下ろしている。
「……何度聞いたって、そればっかりだね」
その目。
何の躊躇いもない蹴りに、









 あぁ、なんだか懐かしいな、なんて、場違いにも、そんなことを思った。


(2022年7月27日6時27分更新)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

十条先輩は、 ~クールな後輩女子にだけ振り向かれたい~

神原オホカミ【書籍発売中】
青春
学校で一番モテる男、十条月日。彼には人に言えない秘密がある。 学校一モテる青年、十条月日。 どれくらいモテるかというと、朝昼放課後の告白イベントがほぼ毎日発生するレベル。 そんな彼には、誰にも言えない秘密があった。 ――それは、「超乙女な性格と可愛いものが好き」という本性。 家族と幼馴染以外、ずっと秘密にしてきたのに ひょんなことから後輩にそれを知られてしまった。 口止めをしようとする月日だったが クールな後輩はそんな彼に興味を一切示すことがなく――。 秘密を持った完璧王子×鉄壁クール後輩の 恋心をめぐるボーイミーツガールな学園ラブコメ。 ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。 ◆大変申し訳ありませんが不定期更新です。また、予告なく非公開にすることがあります。 ◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。 ◆アルファポリスさん/エブリスタさん/カクヨムさん/なろうさんで掲載してます。 〇構想:2021年、投稿:2023年

コロッケスマイル

さぶれ@5作コミカライズ配信・原作家
恋愛
 櫻井 王雅(さくらいおうが)二十三歳。  今まで金で買えなかったものなんかない。  櫻井グループの御曹司。  成績優秀。  容姿端麗。  性格王様。  女はすぐポイ捨て。  そんな男が初めて欲しいと思ったものは・・・・  ――コロッケ三個百円の特売セールに微笑みを零す女  名を、真崎 美羽(まさき みう)。  なあ、美羽。  お前の心は、一体幾らで買い占められる?  一億? 二億?  欲しけりゃ俺が持ってる金、幾らでも払ってやるよ。  総資産、何兆円もある。  全部使ってもいい。  今まで、金で買えないものなんて無かった。  だから  お前のコロッケ笑顔を手に入れる方法が解らなくて  こんなにも――・・・・苦しい。  ◆表紙・挿絵イラスト◆  紗蔵蒼様  俺様大魔神・王雅×強烈最強貧乏娘・美羽の  さぶれが描く、ひどくありきたりな少女漫画風ラブコメディー!  あくまでもあきりたりだけど、味付けはさぶれ風。  飽きさせないスパイスがふんだんに詰まったこの物語!  どうぞ楽しんで下さい。  気に入ったら、応援下さると励みになります。  よろしくお願いします。

私のことを愛している?その言葉、この嘘発見魔道具の前でもう一度お願いします。何で慌ててるんですか?

京月
恋愛
レオニート公爵令嬢ミルバは婚約者であるゴロル侯爵令息ギオンが働く領地へと馬車を走らせていた。 半年以上会えていない婚約者へのサプライズ。 喜んでくれると思っていたミルバ。 しかし、ギオンは連れ込み宿で別の女性と不貞を働いていた。 「私のこと愛しているって言いましたよね?その言葉をこの嘘発見魔道具の前でもう一度お願いします。何で慌ててるんですか?」

異世界に転生した邪神がチートを手に入れて冒険者人生を楽に過ごすのは駄目ですか?

ほとんど初心者
ファンタジー
良くないものがこの世界に入り込んでいる‥管理者の一人が呟いた。発端は些細なこと【見た事のない転生者】がいる。この事に疑問を持った管理者は、すぐに緊急事態だと気付き仲間を集める。仲間達と議論していると、応答しなかった仲間から 【邪神がこの異世界に侵入している】と聞き事態は思っている以上に深刻だと管理者達は焦るのだった

振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話

雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。  諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。  実は翔には諒平に隠している事実があり——。 諒平(20)攻め。大学生。 翔(20) 受け。大学生。 慶介(21)翔と同じサークルの友人。

“用済み”捨てられ子持ち令嬢は、隣国でオルゴールカフェを始めました

古森きり
恋愛
産後の肥立が悪いのに、ワンオペ育児で過労死したら異世界に転生していた! トイニェスティン侯爵令嬢として生まれたアンジェリカは、十五歳で『神の子』と呼ばれる『天性スキル』を持つ特別な赤子を処女受胎する。 しかし、召喚されてきた勇者や聖女に息子の『天性スキル』を略奪され、「用済み」として国外追放されてしまう。 行き倒れも覚悟した時、アンジェリカを救ったのは母国と敵対関係の魔人族オーガの夫婦。 彼らの薦めでオルゴール職人で人間族のルイと仮初の夫婦として一緒に暮らすことになる。 不安なことがいっぱいあるけど、母として必ず我が子を、今度こそ立派に育てて見せます! ノベルアップ+とアルファポリス、小説家になろう、カクヨムに掲載しています。

背番号0(ゼロ)

yuka(優しい花やで)
青春
これは運だけではずっと勝つ事は出来無いと知る物語。 かつて、バレーボール界で”運“だけで点をもぎとってきたと言われたプレイヤーがいた。群山中学の背番号10…「天を背負った豪運者」とも言われたそのプレイヤーは、中学3年最後の大会であっさり折れた。その瞬間が、まさしく“運が尽きた”とでも言うように……。 それから1年後、一時期の伝説として幕を閉じた。でも…、もしそのプレイヤーが弱小とも強豪とも言えない高校のバレー部に入部している。というのが私の幻覚だったのなら、私はここまでバレーボールを好きになれなかったかもしれない。 ド素人ですが、楽しんでいただけたら幸いです。誤字等があれば教えていただきたいです。プリ小説の方でも連載しています。投稿頻度は低いです。

処理中です...