95 / 138
07.レタスと1月11日
小室2
しおりを挟むしばらく廊下を走って、向かい側の中庭に出てくると、そこには先客が居た。前髪をピンでとめていて、そばかすのあるショートヘアの子だ。
図書館で会っている。
彼女の方もぼくたちに気が付いたようだったが、それよりも、目の前の『それ』の方が気になるようで、少し悲し気にどこかを指さして言った。
「彼女、ふらふらと屋根の上にやってきたと思ってたら、いきなり、落ちてきたのよ」
彼女が指さすのは、ちょうど庭の中心――――
視線を追って行くと、草の上に女子生徒が、頭から血を流して倒れている。
目は白目を剥き、口から泡を吹いて居た。
「全身を強く打っているね」
まつりが、小さく呟く。
「小室さん……」
彼女、が呟く。
小室さんの身体は、恐怖と苦痛に歪んだような顔をしていた。悔しそうに噛み締めるような口。
飛び降りるときに、逆さになった状態で血が上っていたのだろう――――その頭部の色味を思わせる紫がかった頭。充血した眼球。
それに手足があらぬ方向に曲がっていて、周りは、粘性のある黒い汁で溢れている。
人の原型を全く留めない程では無かったが、ほぼ助からないであろうと素人目にもわかる程、充分に重症だった。
「……酷い」
飛び降りるだなんて、自殺を試みたんだろうか。
逆さになると、頭に血が上るというのは知識では知っていたけれど、
こうやって他の骨折などと合わせて見るとかなり悲惨でグロテスクに思う。
だけど、この場にくまさんは見当たらない。
フィアンセだと言っていた、あんなに愛おしそうにしていたくまさんを置いて、飛び降りたのだろうか。
死んだあと、彼女以外の人間と普通は意思表示の出来ないくまさんが他の誰かに触られるかもしれない、危害を加えられるかもしれない、通常ならそう思ってしまう筈だ。
「確かに、死体とか無機物を愛する人は、心中する事もよくあるからね。彼女はそれはしなかった……か」
まつりが、淡々と呟く。
少女も、酷く冷静に発した。
「馬鹿ね。執着なんか、持たない方が良いのに」
一応上も見ておきましょうかと少女に指を指され、壁際の梯に上る。
ぼくが先頭になって屋根に到達し、まつりも、続けて登ってきた。
中庭の屋上……屋根の上。
打ち所が悪ければ死ぬかもしれないが、丈夫な体を持って居れば骨折程度で済むかもしれない、そんな曖昧な高さの場所だった。給水タンクとかソーラーパネルとかプールとかは無く、ただの見晴らしの良い通路というか、それだけだ。
そこに、揃えた靴なども無くて……
――――ん?
よく見ると、ぼくたちの目の前の側に鉛筆がざっと見て15本落ちている。
飛び降りる前に投げ出されたのか。
どの鉛筆もところどころ傷だらけになっていた。よく見ると奥の草むらには筆箱が転がっているような。今時鉛筆を15本持ち歩くなんて、美術の授業をとっているんだろうか。
それに。
「紙だ……」
紙。
ノートをちぎったような紙で、鉛筆の下敷きになっている。
何やら歌詞が書いてあるようだった。
ハンカチでそっと包んで開いてみる。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【本編完結】長し夜に、ひらく窓<天神一の日常推理 呪われた女>
ユト
ミステリー
【それは呪いか? 願いか? 風変わりな大学生と平凡理系大学生は、女子大生の呪いを解くために推理する】
長雨の十月、告解室と呼ばれる喫茶店<レトロ・アヴェ>。
『普通』をこよなく愛す風変わりな大学生の天神一と平凡な理系大学生の早川翔太の前に、一人の女子大生が現れる。
彼女の名は、藤枝穂乃果。
眉目秀麗、真面目を体現しているような彼女は、天気雨の日に『狐の窓』をしてから、いつでもどこにいても雨が見えるようになったと言う。
しかし、雨を止ませることが依頼かと天神が聞けば、彼女は首を横に振った。
「私に掛けられた呪いを教えてください」
それがたった一つの藤枝の依頼だった。
彼女を呪っているのは誰か。
なぜ、彼女は呪われたのか。
彼女に掛けられた呪いとは何か。
天神に舞い込む日常の謎を解きながら、彼女の深層に潜り込む。
謎と苦悩の平凡日常ミステリー。
----------------------
プロローグ
第一章 はじまりは雨と共に(〜8話)
第二章 空と鳥と新しき怪異(〜20話)
第三章 君想う、心は開かずの箱の中(〜32話)
第四章 長し夜に、ひらく窓(〜42話)
エピローグ
------------------------
1月中におまけSSを投稿予定。
投稿後も頻繁に推敲しますこと、ご容赦ください。
カクヨムにも投稿中。
天神と早川との出会いはこちら↓
【草つ月、灼くる日】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/340268778/875697704
インビジブル(超・本格推理小説)
冨井春義
ミステリー
新本格推理はもう古い!あなたの脳みそをスクランブルする超・本格推理小説のシリーズ第二弾。
今回は、謎解き要素多目です。連続殺人の犯人と、動機と、犯行方法を推理してください。
サトリ少女におとずれた目に見えない少年との初恋。それから10年後に起きた見えない殺人者による恐怖の連続殺人事件の真相とは?
高精度なレンズを制作する小さな会社で、カリスマ社長・花城が自社ビル屋上から転落死するという事件が発生する。警察の検証により一度は事故として処理されるが、続けて二人目の転落死が起きると、なぜか警察上層部からの強い要請があり、県警刑事部捜査一係の山科警部と超科学捜査研究所(S.S.R.I)の宮下真奈美が殺人事件として捜査に乗り込むことになった。しかしその捜査を嘲笑うかのように新たな殺人が発生する。花城社長は着用すれば目に見えなくなる光学迷彩服、インビジブルスーツを研究開発していたというのだが、果たして犯人はこのスーツを着用し、人目に触れることなく犯行に及んでいるのか?他人の心が読めるサトリ捜査官・宮下真奈美、21世紀の金田一耕助の異名を持つ本格派名探偵・金田耕一郎、そして稀代のサイキック探偵・御影純一による三つ巴の推理バトルの行方は?いくつもの謎を散りばめた、おもちゃ箱のような超感覚ミステリイをお楽しみください。
世界は妖しく嗤う【リメイク前】
明智風龍
ミステリー
その日の午後8時32分にそれは起きた。
父親の逮捕──により少年らは一転して加害者家族に。
唐突に突きつけられたその現実に翻弄されながら、「父親は無実である」というような名を名乗る謎の支援者に励まされ、
──少年は決意する。
「父さんは無実だ」
その言葉を信じ、少年は現実に活路を見いだし、立ち上がる。
15歳という少年の身でありながら、父親を無事救い出せるのか?
事件の核心に迫る!!
◆見所◆
ギャグ回あり。
おもらしにかける熱い思いをミニストーリーとして、2章学校編7~9に収録。
◆皆さん。謎解きの時間です。
主人公の少年、五明悠基(ごみょうゆうき)君が、とある先生が打鍵している様子と、打鍵したキーのメモを挿し絵に用意してます。
是非解いてみてください。
挿し絵の謎が全て解けたなら、物語の核心がわかるかもしれません!
◆章設定について。
おおよそ区別してます。
◆報告
しばらく学校編続きます!
R18からR15にタグ変更しました。
◆表紙ははちのす様に描いていただきましたので表紙を更新させていただきます!
秋月真夜は泣くことにしたー東の京のエグレゴア
鹿村杞憂
ミステリー
カメラマン志望の大学生・百鳥圭介は、ある日、不気味な影をまとった写真を撮影する。その影について謎めいた霊媒師・秋月真夜から「エグレゴア」と呼ばれる集合的な感情や欲望の具現化だと聞かされる。圭介は真夜の助手としてエグレゴアの討伐を手伝うことになり、人々、そして社会の深淵を覗き込む「人の心」を巡る物語に巻き込まれていくことになる。
THIEF -シーフ-
SIVA
ミステリー
天才窃盗団「KNOCK(ノック)」のリーダー、ライト、通称『ルパン』は、いつものように華麗に盗みを働いていた。
ある日、とある屋敷に忍び込んだルパンは偶然にも、殺人現場に遭遇。
不運にも彼はそこで犯罪現場に足を踏み入れ疑いをかけられてしまう。
一方「KNOCK」を消滅させようと、警察も特別チームを用意する。
私立探偵をしているレニーは、突然警察から呼び出され特別チームのリーダになる。
二人の戦いがここで始まる!
雪に閉ざされた山荘での犯人捜し
原口源太郎
ミステリー
世界的名探偵、保成(ポナロ)氏の名推理第二弾!
前回の『雪に閉ざされた山荘での密室殺人』と同じ設定、同じ登場人物による、その場にいないはずの殺人犯人の謎に保成氏が挑む。(このお話はあくまでもパロディ物ですので、そのつもりで読んでください。二度目も登場早々に殺されてしまった野上盆太氏には申し訳なく思います。しかし二度あることは三度あります。次回もよろしくお願いします)
アンドロイドは恋に落ちるか
マスカレード
ミステリー
表紙絵_まかろんkさんのフリーアイコンを使用しています。
天才少女、羽柴莉緒は兄の仕事のパートナーである新見研二に憧れていた。
兄たちはお見合い代行のアンドロイドを作っていたのだが、その実験を莉緒が行うことに‥‥‥
ところが、二体のうちの一体が不具合になり、研二の弟の奏太を巻き込んで大変なことが起きてしまう。
実験の中断を恐れた研二と奏太の結託で、とんでもない出来事を隠そうとするのだが、
果たして、莉緒を騙すことができるのだろうか。
笑いあり、ドキドキありのミステリーをお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる