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06.能力者
藍鶴色
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「はいはい」
まつりはどうでも良さそうに彼に手を振った。うーん、包丁を投げたのは彼じゃないのだろうか。
しかし、まつりに警戒するような素振りはないし。
「あ、そうだ、お前らのこと、見てあげよっか?」
すたっ、と屋根から降ってきた身軽な彼が、ぼくらに近づいてくる。
「へっ……?」
ぼくが固まっていると、彼は、ぼくのそばに来て言う。
「おー。こいつは……うわ、よく、生きて来られたな」
「あ、あ、あの……」
「……っ」
途中から、彼の表情が歪む。
「お前――」
お前?
初対面で、お前呼ばわりとは。ぼくが、微妙な気分になっていると、後ろに引っ張られる。
「……はいはい、早く行きなよ?」
まつりは彼に、笑顔で改めて言う。笑っているのに、目は笑っていない。
「あぁ……今のは、忘れる」
彼はなぜか青ざめていた。
「あの」
ぼくも同時に、ふと、ある考えが頭に浮かんだ。
「あの、もしかして、前に──」
彼は何も言わず、少しぼくを見た。心が、ざわざわする。
「ぼくのこと……」
首を横に振る。
「いや……なんでも、ないんです」
「ねぇ」
やがて走り出した彼を見送っていたが、少しして、まつりは彼に呼び掛けた。
「待って」
「はい?」
彼は不思議そうに、まつりを見る。
「藍鶴くん、電算室には居ないよ。あと、事務室がすごいことんなってるから、見てみて」
にや、と彼は笑った。20代後半だと思うのだが、彼はやけに子供っぽく見える。
「そいつはどうも。じゃ、俺からも。『二つの鍵が、二つとは限らない』これは、藍鶴の言葉だ」
「ふふ……ありがと」
まつりも妖しく笑う。それを聞き届けると、改めて彼は去って行った。
ぼくらも改めて、場所を移動することにした。
さっきのが誰でどういう知り合いか気になったけど……恋人でもなんでもないのだから、もう女々しい醜態をさらしたくない。ぼくがそう思って黙っていることを知ってか知らずか、まつりは中庭から廊下に戻ろうと動きながら言う。
「彼らは、表と裏の中間にいる人たちだよ。特殊すぎて、表では生きられないけど、裏にも居場所がないんだ」
「どういう、こと?」
「超感覚的知覚──超能力を用いて捜査をするんだ。ちょっとまつりたちと似てるね」
「ふーん、そんなのがあるんだ」
ちょっと興味深い。
さっきの見てあげよっか、はサイコメトリーを用いてぼくの現在の心象を軽く見て、自身の紹介をしようという彼なりの挨拶?だったのかもしれない。
「──能力や才能は疑われやすいからね」
はったりを言ってると思われたら話にならない。だからといって、能力を怖がられても話にならない。うーん、確かに似てるかも。
────だけど、だとしたらぼくは見なくて良いものを見せてしまったな。
あんなものを見て笑っていられるのは、
頭がどうかしたやつか、
自我がぶっ壊れたやつくらいなのに。
黙って考えているうちに、まつりはさらに続けた。
「でも、表では使っちゃいけない。だから、独自のネットワークを築いて、裏から事件の手助けとかしてその報酬で生きている。情報関連に強いね」
「お前、知り合い居すぎ……」
思わず唇を尖らせると、まつりは不思議そうな顔をする。
「立証されないだけあって科学者とは仲が悪くてね……お屋敷に住まわせていた学者とよく口論してたのを見た。まつりもよくは知らないな。さっきの彼は、触れたものの感情的なイメージと風景を知覚できるサイコメトラーだ。
それと、千里眼も持っていて、頭の中で離れた遠くの物を見渡せるんだ。でも、見えるときと見えないときがあって――特に彼が《好きなものか関心があること》は、見やすいらしい」
「サイコメトリーの方は?」
「さぁね」
「あいづくん、とかは……」
思わず、話題に乗ってしまう。うん……不自然では、ない、はずだ。
まつりが誰かの話をするのは、少し不安だったけど、同時に気にならないこともない話題っていうか。
「彼は予知能力者。
条件があるかは知らなーい。
他にも出来ることがあるみたいだけど……なんか隠されてるっぽい。知らない方が良いのかも。探偵も顔とか素性とか知られない方がやりやすいっていうし」
そこまで言って、まつりは一旦言葉を切った。
「二つとは限らない、か」
そして改めて呟くまつりに後ろから付いていく。なんだか機嫌が良さそうだ。
「あぁ、言い忘れてた。彼らは、警察が諦めかけてる未解決事件専門組織なんだって。超能力でもないと見つからないようなね。通常の隠蔽工作は効かないから便利っちゃ便利」
……まぁ、隠蔽と圧力にまみれた世知辛い世の中じゃ、ぼくやまつりみたいな人か、超能力者でも無いと生き残れないかもしれない。
一番良いのは事件に巻き込まれないことだけど。
「それで──藍鶴くんは、昔、事件でバッティングしたんだ」
まつりは、厄介払いで未解決事件の捜査に投げ出されたことがある。
どうせできないと、そう高をくくっての命令だったらしい。
天才児として屋敷内で名を馳せたそいつが、お屋敷のいくらかの大人に疎まれていたのはぼくも知っている。
「失敗したら、なんだったかな、ペナルティだったんだけど、間違える予定がなかったから、聞いてなかったや!」
あははは、とまつりは笑う。
「なんで放置されてたかわかんないくらい、ちょっとした事件だったよ。とにかくその現場で鉢合わせ。んで、まあ、話し合いの末に協力関係ができて、それでみんなで解決ですよ」
「お前が――集団行動とは、珍しいな」
まつりはどうでも良さそうに彼に手を振った。うーん、包丁を投げたのは彼じゃないのだろうか。
しかし、まつりに警戒するような素振りはないし。
「あ、そうだ、お前らのこと、見てあげよっか?」
すたっ、と屋根から降ってきた身軽な彼が、ぼくらに近づいてくる。
「へっ……?」
ぼくが固まっていると、彼は、ぼくのそばに来て言う。
「おー。こいつは……うわ、よく、生きて来られたな」
「あ、あ、あの……」
「……っ」
途中から、彼の表情が歪む。
「お前――」
お前?
初対面で、お前呼ばわりとは。ぼくが、微妙な気分になっていると、後ろに引っ張られる。
「……はいはい、早く行きなよ?」
まつりは彼に、笑顔で改めて言う。笑っているのに、目は笑っていない。
「あぁ……今のは、忘れる」
彼はなぜか青ざめていた。
「あの」
ぼくも同時に、ふと、ある考えが頭に浮かんだ。
「あの、もしかして、前に──」
彼は何も言わず、少しぼくを見た。心が、ざわざわする。
「ぼくのこと……」
首を横に振る。
「いや……なんでも、ないんです」
「ねぇ」
やがて走り出した彼を見送っていたが、少しして、まつりは彼に呼び掛けた。
「待って」
「はい?」
彼は不思議そうに、まつりを見る。
「藍鶴くん、電算室には居ないよ。あと、事務室がすごいことんなってるから、見てみて」
にや、と彼は笑った。20代後半だと思うのだが、彼はやけに子供っぽく見える。
「そいつはどうも。じゃ、俺からも。『二つの鍵が、二つとは限らない』これは、藍鶴の言葉だ」
「ふふ……ありがと」
まつりも妖しく笑う。それを聞き届けると、改めて彼は去って行った。
ぼくらも改めて、場所を移動することにした。
さっきのが誰でどういう知り合いか気になったけど……恋人でもなんでもないのだから、もう女々しい醜態をさらしたくない。ぼくがそう思って黙っていることを知ってか知らずか、まつりは中庭から廊下に戻ろうと動きながら言う。
「彼らは、表と裏の中間にいる人たちだよ。特殊すぎて、表では生きられないけど、裏にも居場所がないんだ」
「どういう、こと?」
「超感覚的知覚──超能力を用いて捜査をするんだ。ちょっとまつりたちと似てるね」
「ふーん、そんなのがあるんだ」
ちょっと興味深い。
さっきの見てあげよっか、はサイコメトリーを用いてぼくの現在の心象を軽く見て、自身の紹介をしようという彼なりの挨拶?だったのかもしれない。
「──能力や才能は疑われやすいからね」
はったりを言ってると思われたら話にならない。だからといって、能力を怖がられても話にならない。うーん、確かに似てるかも。
────だけど、だとしたらぼくは見なくて良いものを見せてしまったな。
あんなものを見て笑っていられるのは、
頭がどうかしたやつか、
自我がぶっ壊れたやつくらいなのに。
黙って考えているうちに、まつりはさらに続けた。
「でも、表では使っちゃいけない。だから、独自のネットワークを築いて、裏から事件の手助けとかしてその報酬で生きている。情報関連に強いね」
「お前、知り合い居すぎ……」
思わず唇を尖らせると、まつりは不思議そうな顔をする。
「立証されないだけあって科学者とは仲が悪くてね……お屋敷に住まわせていた学者とよく口論してたのを見た。まつりもよくは知らないな。さっきの彼は、触れたものの感情的なイメージと風景を知覚できるサイコメトラーだ。
それと、千里眼も持っていて、頭の中で離れた遠くの物を見渡せるんだ。でも、見えるときと見えないときがあって――特に彼が《好きなものか関心があること》は、見やすいらしい」
「サイコメトリーの方は?」
「さぁね」
「あいづくん、とかは……」
思わず、話題に乗ってしまう。うん……不自然では、ない、はずだ。
まつりが誰かの話をするのは、少し不安だったけど、同時に気にならないこともない話題っていうか。
「彼は予知能力者。
条件があるかは知らなーい。
他にも出来ることがあるみたいだけど……なんか隠されてるっぽい。知らない方が良いのかも。探偵も顔とか素性とか知られない方がやりやすいっていうし」
そこまで言って、まつりは一旦言葉を切った。
「二つとは限らない、か」
そして改めて呟くまつりに後ろから付いていく。なんだか機嫌が良さそうだ。
「あぁ、言い忘れてた。彼らは、警察が諦めかけてる未解決事件専門組織なんだって。超能力でもないと見つからないようなね。通常の隠蔽工作は効かないから便利っちゃ便利」
……まぁ、隠蔽と圧力にまみれた世知辛い世の中じゃ、ぼくやまつりみたいな人か、超能力者でも無いと生き残れないかもしれない。
一番良いのは事件に巻き込まれないことだけど。
「それで──藍鶴くんは、昔、事件でバッティングしたんだ」
まつりは、厄介払いで未解決事件の捜査に投げ出されたことがある。
どうせできないと、そう高をくくっての命令だったらしい。
天才児として屋敷内で名を馳せたそいつが、お屋敷のいくらかの大人に疎まれていたのはぼくも知っている。
「失敗したら、なんだったかな、ペナルティだったんだけど、間違える予定がなかったから、聞いてなかったや!」
あははは、とまつりは笑う。
「なんで放置されてたかわかんないくらい、ちょっとした事件だったよ。とにかくその現場で鉢合わせ。んで、まあ、話し合いの末に協力関係ができて、それでみんなで解決ですよ」
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