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05.理事長

化物

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 まつりは少し歩いて、なにやらあちこち確認すると、通路の途中に理事長室の扉の前に戻ってくる。

何か異変を感じ取ったのだろうか?
 やがて中から気配を感じてか、まつりが壁にぴたりと張り付いて固まったので、ぼくも同じようにする。
すると、ちょうど声が聞こえてきた。

「いいんですか──あんなこと」
とがめるような声。
「あんなこと?」
不思議そうな声。
「子どもにあんな危ないことに関わらせて……もしなにかあれば、責任が取れるのですか」
淡々とした声。

どうやら、理事長と、側近の女性の会話のようだ。
「大丈夫よ」
「どうして」
「あの子は、幼いけれど、でも、大人なのよ」
ウフフフ、と笑い声。
理事長のものらしい。
「それは──」
「天才なのよ、あの子は」
「ですが、子どもでは」
「不満かしら」
「……私は、世間がどう考えるかということの方が心配です」
「あなたみたいに、優秀な方ほど、危機に備えようとつい頭がたくさん働いてしまうのよね。考えうる最悪な結果を数多く思い浮かべて、不安になる──」
「それは、当たり前ですよ!」
「それらが、でも、必ずしも本当に起きるわけじゃないわ。周りはあなたが考えているよりは賢く、あなたの心配よりは馬鹿なの。あなたの想定も、全ては当たらない」

「しかし────」
「あの子は、化け物ですから」
「化け物って……!」
「感情を理解出来ない、恋や愛、人間的な感情をろくに認識出来ない代わりに、理性だけを研ぎ澄まし頭脳機械となった化け物」
「人間的感情、を、理解出来ない……」
「そう、冷たいの。あんなに人の姿をしても、あれは人間では、ないのだから」

人を好きになることもなく、人を愛する概念もなく、人をおかしくさせ、
愛されることで、愛しているフリをして偽装し、社会に紛れ込む。

「知らないのよ、化け物に恋や愛という概念はない」
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