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05.理事長
post hoc ergo propter hoc
しおりを挟む廊下を歩く。
まだ、水の中を顔だけ出して漂うみたいで、ふわふわ、覚束ないけど。
此処に居たところで何も進展しないのだから何にしろ出ていく他になかった。
「……現物が無いから写真って、変なことするんだな」
なぜ、写真なのだろう。コピー用紙ではなくて。
あの様子だと『送り主』を知っているように思うのだけれど、理事長は何一つ、そこについての言葉での情報は与えてくれなかった。
指紋をとって貰ってるくらいなら、自分たちで動けそうに見えるけど。
どうにかする、というのもなんだか曖昧に思える。
まつりは、そうは思わないのだろうか。
そういえば、事件が終わってなかったとか言って居なかったか。事件って、此処でかつでも何か起きて――
「確かに、写真、殺人現場とかだと場面的に華やかだけど、手紙と生徒の傷跡と、ウサギの首ってのは、状況証拠的にも曖昧だしね」
事件について口を開こうとしたのと同時にまつりがぽつりと零す。華やかとか言うな。
「post hoc ergo propter hoc、かぁ」
前後即因果の誤謬 。
確かに傷跡と、爆発と、今回の問題に因果関係があるのか、これではわからない。
もう少し聞いた方がいいのだろう。
「写真は、恐らくデジタルカメラから引っ張ったものだろうけど、何処で撮られたんだろ」
古い人形が落ちていましたという情報はある程度までの人形の年代を推測出来るけれど、持ち主に至ってはその後の時代の人も手にすることが出来る為、それだけでは持ち主の情報としては因果関係が曖昧である。
――いや、それもそう、なんだけど、
それよりも。
「なに」
ぼくは、まつりをじとっと睨んだ。こいつ、何か隠してないか。
まるで『これだけ』で通じてしまう前提があるようなスムーズさだったようだが。
あのときはあまり聞いてなかったけれど、寮や図書館でささぎさんと何やら会話していたような気がするし……
まつりは、やや困ったようにはにかんだ。
「そんなに見つめられると照れちゃうな」
「……」
「冗談だよ。そうだなぁ……どう言えば良いんだろう」
「どう、とは」
「うーん、戦争なんだよ」
「?」
どういえばいいか、本当に迷っているようだった。
首を傾げながら、とりあえず言語化だけ、試みている。
「だから。えっと。戦争でね。一日中寝ないで、ほとんど縛り付けて、疲労や幻覚にも耐えてやっと終わらせたのに西尾さんが評論を始めて、『こんなの完成していない』『俺は完結とは認めないと何度も言うぞ!』って言って、皆の前で晒し上げたあと、自分でそれと同じものを何枚も作って、何枚もみんなに、配って歩いたんだって、それで、火花がね、」
(2022年10月5日1時13分
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