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05.理事長
やわらかふりかけ
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「はて? 変なことを言うんですね。現代で逮捕されたでも無い個人にそのような行使があるのかしら」
なんだか気まずそうだ。
「ふふ、天安門事件を思い出すね」
まつりは特に表情を変えずに言った。
──天安門事件?
1989年6月4日、に中華人民共和国であった事件だ。民主化を求めて天安門広場に集まったデモ隊に軍隊が武力行使したっていう内容のはずだけど……
その話をした途端、理事長は何か動揺をみせる。
「そんな……そこまでは」
図星を突かれたかのような、やけに苦み走ったような表情。
「今はまだ……」
動揺している。
だけど確かに生徒を外に出さない為に、OG達の権限優先での武力行使なんて、さすがに冗談――――でも……無さそうだなと、まつりの横顔を見ながら思い直す。
理事長はやがておそるおそる、慎重に『別にね』と言った。
「……別にね。私自身はこの際どうだっていいのです、貴方たちがどんな手段で来ようと」
なんだか、悲しげだ。
「もう起きた事は、どうしようもないですし。それにあなたたちがなぜここにきたのか、おおよその見当はついている……けれど、私の答えはNOね。今のところはだけど」
まつりはだろうなと、小さく息を吐くと、じっと理事長を見た。
「今のところは?」
彼女は立ち上がると、手で僅かにカーテンを開ける。
「ほら、見える? 猫の集団」
彼女の背中越しに、ぼくたちも空いている隙間から覗く。
確かに校門の前に猫が複数匹並んでいた。
雑種だろうか?黒、白、茶。
居るけど……
理事長は真剣そうだ。
「私が歩きだすとこちらを見てくる。通販でうっかり大量のカキとウニを頼んだ日もそうだった」
…………。
…………。
まつりが数秒置いて「笑うところ?」と尋ねる。
理事長は真面目な、けれどやや気恥ずかしそうな顔で視線を逸らし、
「実は、最近、立て続けに不審な電話や手紙が届くの」と続けた。
……手紙?
「昔も、何度か怪文書が届いていましたが、また……それで、あらゆる窓口を封鎖したのです」
なるほど、とまつりは言う。
よく、わからない。
「一応形だけ受け取ればいいんじゃないか?」
ぼくがまつりに聞いてみると、まつりは「いや、攻撃手段だから」と淡々と答える。
「当時、武力行使以外もあったんだよ。危険物の送りつけが」
まつりはいつになく満面の笑みを浮かべた。
抗争時。学園内で済ませたい側と内外に権力を示したい、支援をさせたい側という分裂も起きた。
広報は身内にも親戚にも、全員に記事のURLを送ったりして話題に絶対乗り遅れないように、絶対理解出来るように地域中に報道したらしい。(知識の資格認定まであったとか)
「注目度も凄かったみたいだよ。通ってない学校の子にまでそのメールが来て、学歴の差とかバレて気まずくなったりで、進学隠してた子が自殺とかもあったね。結構残酷だよね」
まつりは、楽しそうに。
懐かしむように喋っている。
「才能の差なんて、絶対他人に知られたくない人も居るのにね」
皮肉を。狂気を。
「……それ、でも偶然、とか被害妄想扱いされないのか?」
「攻撃だよ」
まつりはきっぱりと告げる。
「自供によると、広報が、それとなく自殺させることでライバルを減らそうとした攻撃だったことがわかっている」
―――そんなにあげつらわなくたっていいじゃない。素晴らしいことなのだから!
――周りが悪いと思わないのがおかしい!僕は周りが悪い精神で生きたほうが絶対いいと思いますね
「近況を戦時中を理由にすることで押し通したことで、進学を隠した元同級生とかの妬みも買わせたり」
「……酷い」
―――現実なんだ。
これが。
直接の悪口でなくとも、それによって常に脅威に晒されている人が居たことをわかってて、個人情報をばらまいていた。
「ラブレター偽装もあったね。ウフフ。好きで、付き纏ってしまっただけなんだっ!」
ぼくの周りにも、受験で病んでしまう友人だって居たのに。
それを権力を誇示したい人達が寄ってたかって話題にしたというのか?
個人情報に血眼になって、嫉妬で叩いたっていうのか?
「手紙も加害者の実名ではなく、ラー油卵焼き、とかネクロマンサーとかを騙ってたなぁ。懐かしいな」
事実これが彼女たちの学園生活であり、誇張でも何でもないという事を飲み込むのはやはり覚悟が必要だった。
笑う事だけを強要され、才能を比べられない環境も許されない。
無理矢理引きずり出されたかと思えば嫉妬の対象にされ、曝されなくて良かった筈の日常が曝される。
戦争の為に武力が行使されて、絶対に注目の的になるように仕向ける事で、外にも出られなくなって……
――――そんなにあげつらわなくたっていいじゃない。素晴らしいことなのだから!
「――屋敷もあぁなったことですし。どこの勢力かわからない以上は話すのはね……
全容が明らかになれば別かもしれないわ」
2024/05/1022:00加筆
なんだか気まずそうだ。
「ふふ、天安門事件を思い出すね」
まつりは特に表情を変えずに言った。
──天安門事件?
1989年6月4日、に中華人民共和国であった事件だ。民主化を求めて天安門広場に集まったデモ隊に軍隊が武力行使したっていう内容のはずだけど……
その話をした途端、理事長は何か動揺をみせる。
「そんな……そこまでは」
図星を突かれたかのような、やけに苦み走ったような表情。
「今はまだ……」
動揺している。
だけど確かに生徒を外に出さない為に、OG達の権限優先での武力行使なんて、さすがに冗談――――でも……無さそうだなと、まつりの横顔を見ながら思い直す。
理事長はやがておそるおそる、慎重に『別にね』と言った。
「……別にね。私自身はこの際どうだっていいのです、貴方たちがどんな手段で来ようと」
なんだか、悲しげだ。
「もう起きた事は、どうしようもないですし。それにあなたたちがなぜここにきたのか、おおよその見当はついている……けれど、私の答えはNOね。今のところはだけど」
まつりはだろうなと、小さく息を吐くと、じっと理事長を見た。
「今のところは?」
彼女は立ち上がると、手で僅かにカーテンを開ける。
「ほら、見える? 猫の集団」
彼女の背中越しに、ぼくたちも空いている隙間から覗く。
確かに校門の前に猫が複数匹並んでいた。
雑種だろうか?黒、白、茶。
居るけど……
理事長は真剣そうだ。
「私が歩きだすとこちらを見てくる。通販でうっかり大量のカキとウニを頼んだ日もそうだった」
…………。
…………。
まつりが数秒置いて「笑うところ?」と尋ねる。
理事長は真面目な、けれどやや気恥ずかしそうな顔で視線を逸らし、
「実は、最近、立て続けに不審な電話や手紙が届くの」と続けた。
……手紙?
「昔も、何度か怪文書が届いていましたが、また……それで、あらゆる窓口を封鎖したのです」
なるほど、とまつりは言う。
よく、わからない。
「一応形だけ受け取ればいいんじゃないか?」
ぼくがまつりに聞いてみると、まつりは「いや、攻撃手段だから」と淡々と答える。
「当時、武力行使以外もあったんだよ。危険物の送りつけが」
まつりはいつになく満面の笑みを浮かべた。
抗争時。学園内で済ませたい側と内外に権力を示したい、支援をさせたい側という分裂も起きた。
広報は身内にも親戚にも、全員に記事のURLを送ったりして話題に絶対乗り遅れないように、絶対理解出来るように地域中に報道したらしい。(知識の資格認定まであったとか)
「注目度も凄かったみたいだよ。通ってない学校の子にまでそのメールが来て、学歴の差とかバレて気まずくなったりで、進学隠してた子が自殺とかもあったね。結構残酷だよね」
まつりは、楽しそうに。
懐かしむように喋っている。
「才能の差なんて、絶対他人に知られたくない人も居るのにね」
皮肉を。狂気を。
「……それ、でも偶然、とか被害妄想扱いされないのか?」
「攻撃だよ」
まつりはきっぱりと告げる。
「自供によると、広報が、それとなく自殺させることでライバルを減らそうとした攻撃だったことがわかっている」
―――そんなにあげつらわなくたっていいじゃない。素晴らしいことなのだから!
――周りが悪いと思わないのがおかしい!僕は周りが悪い精神で生きたほうが絶対いいと思いますね
「近況を戦時中を理由にすることで押し通したことで、進学を隠した元同級生とかの妬みも買わせたり」
「……酷い」
―――現実なんだ。
これが。
直接の悪口でなくとも、それによって常に脅威に晒されている人が居たことをわかってて、個人情報をばらまいていた。
「ラブレター偽装もあったね。ウフフ。好きで、付き纏ってしまっただけなんだっ!」
ぼくの周りにも、受験で病んでしまう友人だって居たのに。
それを権力を誇示したい人達が寄ってたかって話題にしたというのか?
個人情報に血眼になって、嫉妬で叩いたっていうのか?
「手紙も加害者の実名ではなく、ラー油卵焼き、とかネクロマンサーとかを騙ってたなぁ。懐かしいな」
事実これが彼女たちの学園生活であり、誇張でも何でもないという事を飲み込むのはやはり覚悟が必要だった。
笑う事だけを強要され、才能を比べられない環境も許されない。
無理矢理引きずり出されたかと思えば嫉妬の対象にされ、曝されなくて良かった筈の日常が曝される。
戦争の為に武力が行使されて、絶対に注目の的になるように仕向ける事で、外にも出られなくなって……
――――そんなにあげつらわなくたっていいじゃない。素晴らしいことなのだから!
「――屋敷もあぁなったことですし。どこの勢力かわからない以上は話すのはね……
全容が明らかになれば別かもしれないわ」
2024/05/1022:00加筆
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