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04.まつりとささぎ

侵入生、見つかる

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まつりは考え込む。


「でも、太陽海藻……昔うちに来た事あるかな?」
うち、というのは、まつりの家があった屋敷の事だ。
 いろんな取引先が出入りしていたようで、珍しい輸入品とか、生活用品の企業とかが出資を頼みに来たとかなんとか以前言っていた気がする。

「海苔も、太陽も、なんか聞き覚えはあるんだよなぁ。なんであるんだろう?

「聞き覚えって、ありふれた名前じゃないか。確か同じ名前の会社を設立することは違法では無かっただろ? 一時期のブームになったとかじゃないか?」
「まぁ、取引的には嫌われる場合もあるけどねー。いや、そうじゃなくって」

今そんなに重要な事だろうか?
とぼくは思ったのだが、まつりはそうではないようで、太陽……太陽か、と考え込んでしまう。
「太陽と、味付け海苔に意味があるのかなぁ。それとも、やっぱり――――」
一度こうなると長そうだ。
ぼくとしては早く話をして帰りたいのだけど……
「……あの」
 とりあえず何か、気をそらせるような何かを言おうと口を開く。
すると、まつりはやっとこちらを見て、そのままぼくの服の裾を持った。
つまりスカート。

「あ、あの?」
なんでそんなところを。狼狽えるぼくとは違って、まつりはきょとんとしたままである。
この図は、なんていうか、これはこれでまずいぞ。新入生にセクハラするささぎおねえさまにしか見えない。
まつり自身には、セクハラという概念どころか、セクシャルな概念はあまり無いらしいが。
これには理由があるが、ぼくからは言えない。
 ぼくのスカートを掴んだかと思っていたら、その下に手を入れてきた。
あれ、これ、完璧にセクハラに見えるぞ。
しかも部外者が女装で侵入してまでそういうプレイに興じてるって、さすがにぼくの頭の辺りがいかれているようにしか見えない。そう、ささぎおねえさまの汚名はどうにか消せるかもしれないが、(ささぎさん、本当にすみません)
女装させられているぼくには圧倒的に不利だ。
あ──この場合、侵入生か?
うまいこと言えた気はするが、だからって何も状況は愉快にならない。




「あ、あの……」
狼狽えるぼくとは違って、まつりはきょとんとしたままである。
この図は、なんていうか、これはこれでまずいぞ。
新入生にセクハラするささぎおねえさまにしか見えない。
更に、スカートの下に手を入れてきた。


あ、これ、完璧にセクハラに見える。
しかも部外者が女装で侵入してまでそういうプレイに興じてるって、さすがにぼくの頭の辺りがいかれているようにしか見えない。
「あ、の……」
 そのまま足のそばまで手を伸ばされ、ぞわぞわした感覚にぼくが硬直したまま、困ったなあこのまま頭を掴んでやろうかなと考えていると、やがてまつりがぼくから離れる。







「……まあ、脅迫はさ、今の立場でやると厄介なことになるから、しないけど。いつからそこにいるの?」


 まつりが上着に何かしまいながら、いきなりそんなことを言い出したので、ぼくは驚いた。
いつからも何からも、ぼくはずっと、さっきから隣に居たのに
……

「流石ですね」

────と。
 背後から声。
振り向くまでもなく《彼女》はぼくたちの前に歩いて来ると、ごきげんよう、と言った。
「ごきげんよう」
まつりは素っ気なく返して、それからにこりと笑った。
《相手》に向けて。
「気配は消しているつもりだったのに……」
彼女は少しつまらなそうだ。

まつりは最初から気付いていたらしい。
特に驚くことなく淡々と「今見ていたこと、忘れてくれる?」と言い放った。
「無理ですね」

怯むこと無く彼女は言う。
「あなたたちは、侵入者だ」
敵を排除するという確固たる意志が感じられる。

 まつりは掌で何かを回転させる。
さっきぼくのスカートの内側にあった――ナイフだ。
それからニヤリと笑った。
「理事長とお話出来れば帰るよ。学校に通話繋がらないし、アポ無しなのは悪かったけどさ、手紙もどうせ届かなさそうだし」
「ささぎお姉さまに似ているけれど、お返事に、その住所を使うわけにはいかないものね」
彼女は呆れたように言う。
「そうなんだよー!」
まつりが笑みを浮かべる。
「基本的に何処に行くにも囲い込みされてるから。まるでトクホだね」

「特定保健用食品? 食品がなんだって言うの?」
 まるで、意気投合した親友の会話みたいだが、まつりがやたらフレンドリーな受け答えをしているだけである。


――――けれど、何にしても、ぼくらは確かに怪しい不審者なのに変わりない。
この事態をどう説明すべきなのだろう。
彼女をどう説得すべきか。






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