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03.イン・ポスター

太田氏の乱用

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ポツン、と残されるぼくとまつり。
そういえば、足元の15本の鉛筆について聞きそびれたけど、また後で聞けばいいか……
 とりあえず今は気を取り直して理事長室に――――と、思いきや、まつりもガラガラ……と目の前の図書館ドアを開けて今は誰も居ない受付に向かっていった。
「えぇ……」
まぁ、唐突にルートが追加されるのはいつもの事だから、既に慣れっこなんだけどね。と心の中で肩を竦め、後に続く。






 図書館は真新しそうな広々としている部屋だった。
本棚と、ところどころに休憩用の木でできたベンチがあり、明るすぎない照明や、周りの本、木で出来た年季の入った調度品と相まって、なんだかノスタルジックな空間だ。
  視聴覚室や学習スペースも兼ねてあり、両脇に机がたくさんあって、そこにも古い本から新しい本まで、棚に入って両脇のあちこちに置かれている。


 そしてまつりが向かって言った中央の受付――――本貸し出し用のコンピューターが置いてある。
「……けど、たぶん起動しそうにないな」
まつりはなにやら確認しながら、つまらなそうにしていた。


「こんなとこで何してるんだ?」
「確認」
まつりはぼくが近付いて来たのを察しつつも、独り言のようにそう呟いた。
「話によると、太田氏がこの内容にアクセスできるみたいなんだけどね――でも、動かないや」
そして何か確認し終えたのかそこから離れる。
 まぁ鍵が開いてたならせっかくだからというところだろう。
とぼくもその場から動こうとして――ん?と思った。

待てよ、都合が良すぎないか。
図書館に寄ろうと思っていて、このために生徒会に入り浸って小室さんを待ってたとかだったりしないか。
生徒会が終わる時間を知ることは出来る筈だし、出し物のことだって何か理由を付ければ……


じっ、とまつりを見上げると、まつりはきょとんとぼくを見返した。
「なぁに?」
まっすぐにぼくを見つめる、曇りなき目。
ぼくはなんとなく焦りながら「いや……太田氏って誰?」と聞き返す。

「かつての暴動で数々の迷言を残した一人で、井伊先生とも親交があった一人。『個人情報を閲覧できる権限』を何故か持って居たらしいね」

まつりはちょっと不思議そうに数秒ぼくを見つめた後、事も無げに答えてくれた。


『今日子の事件』のときに図書館のデータが抜かれていた疑惑があったらしい。本来、本の履歴とかは重要な個人情報として、生徒でさえ閲覧権限のロックを外せないはずだけど、それを外部に提供出来ていたそうだ。

「それが何か問題なのか?」
「問題だよ。例えば作家だって、ミステリーやファンタジーの調べもので、処刑方法とか、当時の拷問器具とか調べるでしょ? それが外部に漏れるって事は結構センシティブな問題なんだよ」
うーん、そう言われてもなんだかピンとこない。
「『ナナト君の秘蔵画像集を借りたお客様ー!』って外で言われたらどうよ」
「あー。そいつをぶちのめしたくはなるな」

 確かにセンシティブな情報を使ってあらゆる先回りが可能になる可能性もあるって思うと『頭痛が痛い』話だ。投票でも不正をする連中がそういった手段を心得て居ないとも考えにくい。

「ってことで……ちょっと現地確認ですね」
と、まつりは上着から何やら小さなノートを取り出す。
『今日子の事件』のときの備忘録らしい。そういえばまだ終わっていないと、言っていた気もする。何か新たに確かめたい事があったという事なのか。

――まつりの方をみていると「夏々都も覚える?」とそれを見せてくれた。




・レポートは備考にある「出典、資料、引用」の欄まで、毎回自分と同じ本のタイトルを書かれるが、借りた本の話を共有したことは無い。
・明らかな引用であっても、彼女側は出典を書くことが無い。
・ささぎもそれに気づいていた。
その時に借りていた本は、曰く
『専門用語の単語帳』『いきもの解体図鑑』……
櫻子さんも知っている。

・全校集会で井伊先生が、その時期急に今日子の話題を出して講演を行った。
「僕もよく図書館で勉強していましたが図書館の本のデータは誰にも見せたくないですよね」
「これは司書でさえ共有が許されないような物凄く重要なデータなんです。僕らも観れないですよ」
井伊先生は太田氏を庇うような内容にいつも今日子の事件を利用している。
――事前に矛先を逸らしているのでは? 裏で繋がっている。



「……」
 なんだかすごい情報漏洩を堂々とやらかしてる人が居るみたいだ。
文字通り読むなら三日月さんの論文に濡れ衣を着せるという話の裏側で、参考文献等もパクったり閲覧していた上に、出典に記録していないという事になる。
「わぁ。ほぼパクリって凄いな……」

ゴーストライター用のスターターセットかな。
 中身はことごとく『優越的地位の濫用』あるいは『職権乱用』と言った内容で、独占禁止法があまりのツッコミどころに裸足で逃げ出しそうな状況だ。
これを行っていた人が実在するというのが驚きを通り越して呆れてしまう。

「裁判で直接『見ました!』とは本人は言ってなかったんだけど、図書館のカードの履歴と日付、発行年とかを照らし合わせるとずーっと同じで、ストーカーが極まってる案件でしたね」

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