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03.イン・ポスター
奇跡ってやつを!
しおりを挟む出ていけば相手の思うつぼだろうし、女装までして進入しているぼくのプライドが砕けてしまう。
「長居出来そうにないな」
「あーあ、『ご、ごしゅじんさま、だめっ……!』 とか言ってしばらく時間を稼いでよ」
「ごしゅじんさまのそういう発想に至る頭がだめだ……」
「なにさー。ちゅーしちゃうぞ」
「やめろ」
「殺しちゃうぞ」
「……帰ってからな」
「帰ってからも、どうせダメなんでしょ?」
「さあ? でも、ぼくらって、プライバシーがあるようで、無いからなぁ。下手なことすると、ばれるよ」
「上手いことしようよ。今ここにほら。ナイフがあります。……まあ、冗談はこのくらいにしようか」
「だな」
扉を見る。
ガタガタ揺らして開かないのを悟ったからか、今度は、職員室に走って鍵を入手されてしまったらしい。
カチャカチャカチャと、今度は、鍵を開ける音がする。たぶん、あと数秒で開くかもしれない。
「わお」
まつりはクスクス笑い、こいつはやばいなと言う。ぼくは全くだ、と呆れた。
二人して合図もなく同時に窓を開け、それから、下の高さを確認する。
うーん、打ち所が悪くない限りは、この高さなら死なないだろう。
幸い、1階の床がすごく分厚いとか、緩やかに坂になっているわけではないし。ぼくらは同時に外に出る。
「はぁ……なんか、逃亡者って感じ」
意味も無く呟く。あの頃も、いろいろな事があったな。
ちょっとしたアクシデントで部屋の電子機器と、人間が壊れてしまった事もあった。
まつりはいつもと変わらず微笑んでいて、それが凄く有難い。
「これで仲良くおたずね者ってわけだね!」
やれやれ、とぼくは苦笑した。
「ぼくはお前を助ける運命にあるらしいしな」
せっかくなので。
「みんな! 信じるぜ!」
ぼくが言うと、まつりも小さく笑う。
「神の奇跡ってやつを!」
──久し振りに、生きている、と、ぼくは思った。
(202012230141-0217)(202012241905、202106102303加筆
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