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地球へ

第212話 白と黒の新コスチューム

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 この時代に召喚されたマイは、自分のクローンが実効支配しているという、この時代の地球に向かう決意をする。
 地球に向かう為には、戦闘機に追加装備が必要となる。
 そしてサポートAIの改良も必要だった。
 そのためマイとマインは、その準備の十日間、暇になった。
 その間、バカンスを楽しむ事になるのだが、ジョー達の陰謀で、惑星イプビーナスにある機体合身用スティックの回収と、戦闘機の訓練生に対する訓練をする事になった。
 当初はメドーラに会いに行くつもりだったが、予定通りにはいかなかった。


 宇宙ステーションに戻って来た、マイとマイン。
「バカンスは、楽しめたか。」
 戦闘機を降りるマイとマインに、ジョーが話しかける。
 ふたりに連れられた子猫ロボットは、ジョーに近づくと、元の円柱形ロボットに姿を変え、そのままその姿を消す。

「ええ、お陰様で。」
 マインは皮肉たっぷりに答える。
「もう、酷い目にあったよ。」
 言葉ではそう言うマイだが、その表情はまんざらでもなかった。
「で、これはなんな訳?」
 マインは惑星イプビーナスのアルファポネ男爵のお屋敷で見つけた、緑色のスティックを取り出す。
「あ、僕も気になってたんだよね。」
 マイも緑色のスティックを取り出す。

「それは、シリウス構想にある、変形合身用スティックと思うが、詳しくは解析しなくちゃ、分からないな。」
 ジョーはスティックを受け取ろうと、右手を差し出す。
 マイは素直にスティックを渡す。
 しかしマインは、スティックを渡さずに持ったままだ。
「バカンスと言いながら、私達にこれを回収させるのが、目的だったんだろ?」
 マインはジョーをにらむ。
「それは、偶然だよ。」
 とジョーは、すっとぼける。
 しばらくジョーをにらむマインだが、観念してニヤける。
「ふん、どうだか。」
 マインは緑色のスティックを放る。
 放ったスティックは、丁度ジョーの右手の手のひらに落ちる。

 そんなふたりのやりとりを見て、マイは屋敷で見つけた日記帳を渡すのをやめる。

 格納庫の傍らに、追加装備を装着したマイ達の戦闘機があった。
 追加装備は、大型ブースターだった。
 戦闘機の尾翼部分から後方に、戦闘機の半分くらいの長さがあった。
「なんか、凄い装備だね。」
 マイは大型ブースターを装着した戦闘機の不恰好さに、圧倒される。
「これだと、旋回とかは出来ないわね。」
 マインも尾翼操作が出来なくなってるのを見て、感想を述べる。
「ああ、こいつ使用中は、直進しか出来ないぞ。」
 とジョーは、マインの発言を修正する。
「え、じゃあ戦闘する時はどうするの。」
 とマイは驚きの声をあげる。
「そんなの、ふりきって逃げろ。」
 ジョーは無下もなく、そう答える。
「そんなぁ。」
 マイは実際の戦闘シーンを想像して、絶望する。
「投影した伴機で、どうにかするしかなさそうね。」
 マインはため息混じりに、そう述べる。
「こっちのブースターは、立体映像の投影では代用出来ないからな。」
 ジョーはマインの発言を、補強する。

 この時代の太陽系は、マイのクローンであるアルファによって隠されている。
 そこに向かうには、特殊な次元空間を通らなければならない。
 この大型ブースターはそのためのもので、ジョーの言う通り、具現化させた立体映像での代用は不可能だった。

「まあ、これを付けての戦闘なんて、起きないでしょ。」
 実際戦闘があるとすれば、太陽系に着いた後だろう。
 マインはそう言って、マイを安心させる。
 だけどマイは、その移動中の戦闘を、完全に否定は出来なかった。

「で、ミサ達はどうしてるのかしら。」
 とマインはジョーに尋ねる。
「さっきから呼びかけてるんだけど、応答がないわ。」
 召喚者であるマイン達は、額にまいたはちまきに仕込まれたチップにより、サポートAIとコンタクト出来る。

「ああ、ミサとアイなら、今は最終調整中だ。
 あと、半日ってとこかな。」
 ジョーは腕時計を見ながら、そう答える。
「半日。」
 マイは思わずつぶやく。
「休息でも取って、待つしかなさそうね。」
 マインは、マイを安心させる様に、そう述べる。
 マイは無言でうなずく。
 マイとマインは、その場を後にするが、ジョーが呼び止める。

「そうだおまえ達。これを装着しとけ。」
 ジョーはふたりに、腕輪を渡す。
「これがあれば、ベータと通信出来るからな。」

 マイのクローンであるベータ。
 彼は夢の中の住人であり、彼の肉体はすでに死んでいる。
 そんなベータは、自分の意識を集団無意識に潜り込ませる事で、この世に魂を保っている。
 そのためベータは、集団無意識を通じて、魂ある者に語りかける事が出来る。
 しかしそんなベータとの会話は、ベータからの一方通行だった。
 魂の波長が同じマイなら、マイからの会話も可能だが、それはふたりの波長が、一致した時限定だった。

 そんなベータの言葉を伝えるため、ベータはサポートAIのアイに憑依しようとしている。
 その憑依に耐えられるようにと、アイとミサは今、改良中である。
 ジョーからもらった腕輪は、そんなベータと会話する為のデバイスだった。
 これはベータとの直通電話みたいなもので、ベータが受話器を取らなければ、いくら呼びかけても会話は成立しない代物だった。

 マイとマインは帰り道、ベータに呼びかけてみたが、応答はなかった。
 だけどふたりは、ベータが眠りについてるのを感じた。
 ふたりは顔を見合わせて、思わずニヤけてしまう。

 そしてふたりは、マインの部屋の前にたどり着く。
 格納庫からだと、マインの部屋の方が近かった。
 思えば、マインにとっては久しぶりの自室だった。
 北部戦線で負傷したマインは、ずっとメディカルルームで液体漬けだった。
 回復後はすぐに、マイの部屋へ殴り込み。
 その後ベータの所へ行き、その後ジョーと会食。
 そしてバカンスに突入するも、バカンスの計画はマイの部屋で一緒に立てた。
 そんなもの思いにふけるマイン。
 その横に、マイが立っている。
 自室に入ろうとして、そんなマイに気づく。

「どうしたの、マイ。早く帰って休息取らないと。」
「そ、そうだね、マイン。じゃあ、おやすみ。」
「うん、おやすみ。」

 マイは、もう少しマインと一緒にいたかった。
 でもそれを言い出せず、そそくさと帰る。

 マイの自室は、少し前まで、アイツウとナコが居たが、今はいない。
 マイはそれが寂しかった。
 せめてアイと話せればと、額のチップから呼びかけるが、応答はなかった。

 マイは少し悲しい気持ちで、眠りについた。
 夢の中でベータと会った。
 マイはベータに、アルファポネの日記帳について聞いてみる。
 ベータからは、人の日記帳は読まない方がいいと言われた。
 この日記帳に綴られているのは、アルファに対するグチだと言う。
 アルファポネはアルファのクローンであったが、完全な別人格。
 ふたりの根本的な部分は同じでも、考え方には違いがあった。
 そんなふたりが喧嘩別れするのに、時間はかからなかった。
 アルファポネは、いつか召喚されるマイのために、アルファに対抗するためのスティックを遺した。
 これはシリウスアルファーシリーズの機体四機を、合身させるためのスティックだった。
 四機合身させるのに、スティックは二本しかないのは、疑問だった。
 そんな夢も、ベータがアルファの事をマイに頼んで、終わりになった。

 アイからの呼びかけで、マイは目がさめる。
 アイの最終調整が終わったのだ。
 マイは飛び起きて、そのまま調整室に急ぐ。
 マインも同じく、マイの前を走っていた。
 調整室の扉を開けると、アイとミサが待っていた。

 ふたりともいつもはグラマラスなその肉体を、簡易ドレスで包んでいた。
 その簡易ドレスが、マイ達みたいなボディスーツになっていた。
 アイは白を基調として、ミサは黒を基調としたボディスーツだった。
 そしてふたりのロングヘアは、後頭部にまとめられていた。

 これで地球行きの準備が整った。
 しかし、まだ出発出来る訳ではない。
 地球の場所の特定が、まだだった。
 地球の場所は、シリウスアルファーシリーズの機体三機でのトライフォースによって、明らかになる。
 しかし、そのトライフォースが向かう方向くらいは、限定させる必要があった。
 宇宙ステーションのマザーコンピュータが、その候補地を、10箇所ほど算出する。
 それは、全宇宙に散らばっていた。
 コンピュータルームにある天球儀に、その10箇所が投影される。
 それを基に、マイがここだと思う場所を、直感で指差す。
 そこは10箇所の候補地のうち、四番目の候補地から、5光年程離れた場所だった。
 この宇宙ステーションからは、45億6千万光年先だった。

 そして五日後、マイ達は地球に向けて出発した。
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