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第209話 入国管理局脱出

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 この時代に召喚されたマイとマインは、バカンス中に立ち寄ったある惑星で、トラブルに巻き込まれる。
 マイ達はある古びたお屋敷で、自分達の戦闘機の変形合身用のスティックを見つける。
 しかしこの屋敷への不法侵入で、屋敷ごと取り込まれる。
 囲みを強行突破しようとするも、ふたりは意外と有名人で、ここを切り抜けても無駄だと悟る。
 そんなふたりの前に現れたのは、リムの教え子のゼロゴーことイツナだった。
 イツナは、事の顛末をマイから聞かされる。
 なんとマイとマインは、この惑星に密入国していた。
 それも、入国手続きのやり方が分からないと言う理由で。
 そんなの入国管理局で聞けばいいと思うが、この惑星の入国管理局に不当に拘束され、数多くの死者を出してるのも、また事実。
 とりあえずマイとマインの身柄は、イツナが預かる事にした。
 連邦警備隊候補生であるイツナの発言は、この惑星の大統領の発言より重かった。
 そしてマイとマインは、連邦警備隊のエースパイロット。
 そんなふたりを、この惑星で罰するには、全てを闇に葬る覚悟が必要だった。
 つまり、ふたりの逮捕が正当であれ、不当であれ、誤認であったとしても、拘束されたこのふたりは、この惑星の司法においては、抹殺するしかなかった。


「はい、これで入国手続きはおしまいです。」
 イツナに連れられて、入国管理局に来たマイとマインは、入国手続きを済ます。
「以外とあっけなかったね。」
 とマイは感想述べる。
「いや、それはイツナが一緒だったからだろう。
 私達だけだったら、と思うとぞっとする。」
「それを否定出来ないのが、悲しいわ。」
 イツナは、マインの感想に同調する。

 気に入らない入国者には、難くせつけて、拘束する。
 ミサのサポート無しで、マインひとりだったら、普通に拘束されてただろう。
 これを良しとするこの惑星の司法は、どこかおかしい。
 連邦警備隊の候補生にすぎないイツナが一緒にいるだけで、その司法も覆る。
 やはりこの惑星の司法はおかしいと、言わざるをえない。

「では、あの屋敷での事は、口外しないで下さい。」
 イツナは、マイとマインに注意する。
 マイ達が手帳とスティックを持ち出してる事。
 あの屋敷への不法侵入は見逃しても、この窃盗行為は、見逃せなかった。
 サポートAIが最初からついてれば、なんとかなったけれど、事が明るみになった今、全てが手遅れだった。

「わ、分かったよ。」
 マイはしょんぼりとうなずく。
 イツナは、返事のないマインに視線を向ける。
「それは、ジョーに言ってほしいわね。」
「ええ、これは連邦警備隊に戻ったら、リム教官を通して報告を挙げます。」
 アウェーの土地でも物怖じしないマインに、イツナも正論で返す。
「ぜひ、そうしてもらいたいわ。
 私達は、ジョーにはめられたみたいなもんだから。」
 マインはイツナの意見に同意する。

「そうですね、私も休暇を潰されて、内心イラッとしています。」
 と、イツナも胸の内を明かす。
「ですが、おふたりの様なお方のお人柄に触れられて、ちょっと嬉しいです。」
 と続けて、イツナはほくそ笑む。
「あー、それって、僕達の事、バカにしてない?」
 マイはイツナの態度にムッとする。
「いえ、してませんから。」
 と言うイツナは、笑いをなんとかぎりぎり、堪えきれない。

「そうよね、入国手続きも出来ない私たちを、バカになんかしてないわよね。」
 そんなイツナを見て、マインも冷たく言い放つ。
「いえ、それは、」
 イツナは、返事に困る。
「サポートAIがいなければ、何も出来ない、所詮は過去の未開人だなんて、バカになんかしてないわよね。」
 マインは、さらにたたみかける。
「な、何言ってるんですか。
 あなた達召喚者は、可能性の塊。
 現代の人が見習うべき人達です!」
 と、イツナは真面目な顔で答える。
 実際サポートAIは、そんな過去からの召喚者達に、現代の常識的な生活を送れるよう、サポートするのがその役目である。

「そんな、僕が見習う対象だなんて、照れるよ。」
 マイはイツナの言葉に、少し照れる。
「ほら、あなたは現代人のお手本なんだから、もっとしっかりなさい。」
 マインはマイの背中をポンと叩く。
 そんなマインを見て、イツナは思う。

 この人、笑いの対象にされてたのを、尊敬の対象に変えやがった。
 なんて人なの。

 そうこうするうちに、三人は入国管理局の出口に着く。
「お、出てきたぞ。」
 入国管理局の玄関の外には、人だかりが出来ていた。
「あれが、白銀の大天使、マイン様か。」
 その言葉に、マインは背筋がゾッとする。
「期待の超新星、マイさんもいるぞ。」
 マイは、そんなに悪い気はしない。
「そして我らが期待の星、イツナも一緒だぜ。」
「あ、イツナはいいや。」

「ちょっと!このふたりの事は、私に任せてって伝えたでしょ!」
 イツナは野次馬どもにキレる。
「こんなビッグスター揃い踏みを、見逃せるかって!」
「そうだそうだー。」
「写真ぐらい撮らせろー!」
 パシャパシャパシャ。
 誰かの写真と言う言葉をきっかけに、一斉にフラッシュがたかれる。
 マイもマインも、あまりの出来事に、戸惑う事しか出来ない。

「マイン様、こっち向いて下さい。」
「マイさーん、マイさーん!」
「やば、マイン様と目があっちまったぜ。」
 玄関前は、少しパニック状態になる。

「ああもう!」
 イツナはマイとマインの手をとって、入国管理局の中に逃げ込む。
「逃げたぞー、裏口を抑えろー!」
 野次馬どもは、一斉に裏口に回り、正面玄関は手薄になる。

「すみません、こんな事になって。」
 イツナは、ふたりに謝る。
「そんな、イツナのせいじゃないし。」
 マイは、そんなイツナを庇う。
「何言ってるのよ、私達の身柄は、あなたが責任持って預かるんじゃないの?」
 マインはイツナを責める。
「でもこれって、イツナのせいじゃないでしょ。」
 マイはあくまで、イツナを庇う。
「いえ、これは私の責任です。」
 イツナは、自分の非を認める。
「なら、何とかしてほしいわね。」
 と、マインはニヤける。
 マインは、口ではこう言っても、イツナの取るであろう行動が、読めていた。

「ここは、強行突破しかありません。」
 と、イツナは提案する。
「それしかなさそうだけど、どうやって?」
 マインも同意見だが、一応やり方を聞いてみる。
「あなた方の戦闘機は、他次元空間の格納庫にありますよね。
 それで逃げましょう。」

 他次元空間にある戦闘機は、手持ちのリモコンを使って呼び出す事が出来る。
 しかしそれには広い場所が必要で、こんな室内では無理だった。
 少なくとも正面玄関先の、ロータリースペースを無人にする必要はあった。
 しかしそれは、戦闘機一機分の場合。
 マイとマインの戦闘機二機分となると、その先の大通りのスペースも必要になる。

「それは、私が何とかします。」
 イツナは、上記の解決策を持っているらしい。
「分かったわ、あなたに任せる。」
 マインは、イツナを信じる。
 そんなシリアスなふたりに、マイは置いてきぼりだ。

「それでは、私の合図で戦闘機を呼んで下さい!」
 イツナは正面玄関から駆け出る。
「出てきたぞー、やっぱり裏口は罠だったんだー!」
 正面玄関前に残っていた野次馬が叫ぶ。
 裏口に回った野次馬達も駆けつける。

 ピッツオーン!

 イツナはソウルブレイドを光線銃に展開して、上空目がけて撃つ。
 その瞬間、野次馬どもの動きが止まる。
 そして正面玄関前のロータリースペースに、イツナの戦闘機がホバリングして現れる。
 イツナは戦闘機に乗り込むと、外部スピーカーから野次馬どもに呼びかける。
「ここから退避なさい!」
 イツナは正面玄関横に、ミサイルを撃ち込む。
 瓦礫と化す正面玄関横。
「ひー!」
 野次馬どもは、一斉に逃げ出す。

 このミサイルは、フォログラフだった。
 命中した後の瓦礫も、フォログラフである。

 その光景を見ても立ち尽くす野次馬に対して、機銃掃射。
 これもフォログラフなのだが、残った野次馬どもには効果的面。
 野次馬どもは、我れ先にと逃げまどう。
「危ない!」
 腰が抜けて動けなくなった野次馬を、マインが助ける。
 フォログラフの機銃掃射から。
「さ、早く逃げて!」
「は、はい、ありがとうございます、マイン様!」

 こうして、正面玄関前から、野次馬どもは消え去った。
「さあ、今のうちです。ばれる前に、早く!」
 イツナが戦闘機のハッチを開けて叫ぶ。
「ええ、分かってる!」
 マインは叫び返す。
「さ、マイも私に続いて!」
 事の成り行きを、呆然と見てるだけのマイに、マインは話しかける。
 マイも、我にかえる。
 それを見てマインは戦闘機を呼び、飛び去る。
 マイもマインの後に続く。

 惑星イプビーナスの大気圏外へと飛び去る三機の戦闘機。
「どうやら、うまくいきましたね。」
「ええ、あなたのおかげよ。なかなかやるじゃない。」
 イツナの呼びかけに、マインは上機嫌に答える。
 しかし、マイの表情はさえない。
「ねえ、あんな事して大丈夫なの。」
 マイは心配になる。
 入国管理局の前で、派手に暴れてしまったのだ。
 自分達が帰った後で、イツナは罪に問われるのではないか、と。

「えと、何がですか?」
 イツナには、マイの言葉の意味が分からなかった。
「ああ、あれフォログラフだから、なんの問題もないわ。」
 マインには分かってた。
 マイが気がついていない事に。
「ふぉ、ふぉろ、ぐらふ?」
 と言われても、マイにはピンとこない。
「そ、フォログラフで威嚇しただけだから、なんの罪にも問われないわ。」
「そ、そうなの?良かったあ。」
 マイはここに来て、やっと安心する。

「ほんと、イツナには助けられたわ。何かお礼しなくちゃね。」
 とマインは上機嫌。
 魔女呼ばわりされてたのが、大天使様と呼ばれるようになって、機嫌が良いのだろう。
「でしたら、マイさんにお願いがあるのですが。」
「え、僕?」
 イツナは、マイを指名する。
「はい、もう一度、私と勝負して下さい!」

「うーん、それは却下かな。」
 答えに迷うマイに代わり、マインが答える。
「私達、脱出用システムが使えないのよね、今。
 それは、あなたも、同じじゃない?」
 マインは、勝負出来ない理由を述べる。

「それは、大丈夫です。
 イプビーナスの衛星、フォルボスの訓練施設にある、シミュレータを使います。」
「フォルボス?ああ、あれね。」
 イツナの言うシミュレータに、マインは心当たりがあった。

 対戦する戦闘機ごとシミュレータにセットする事で、実機の操作感覚で操縦出来る。
 このシミュレータで飛ばすのは、フォログラフの機体で、操縦者も、実際そのフォログラフの機体に乗ってる感覚になる。
 そんな操縦者は、シミュレータにセットした戦闘機の操縦席に居る。

「面白そうじゃない、行きましょう。」
 マイの代わりに、マインが承諾する。
 三人は、フォルボスへ向かう。
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