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第208話 白銀の大天使

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 この時代に召喚されたマイは、自分のクローンが実効支配している地球に向かう覚悟を決める。
 地球に向かう為には準備が必要となり、マイとマインには10日間のバカンスが与えられる。
 そのバカンス中、ふたりは子猫ロボットの導きで、ある惑星のあるお屋敷の、ある隠し部屋にたどり着く。
 そこでふたりは、自分達の戦闘機を変形合身させる為のスティックを見つける。
 だけどこのお屋敷自体が、この惑星の重要文化財であり、マイ達は不法侵入者であった。
 さらにマイ達は、この惑星への密入国者でもあった。
 普通にこの惑星の司法で裁かれる立場にある。
 それに伴う拘束期間は、バカンスの10日間を、はるかに超える。


 マイとマインは、お屋敷の玄関から堂々と外に出る。
 ふたりとも左手に、ぬいぐるみのふりをした子猫ロボットをだき、右手にソウルブレイドのクダを持つ。
 堂々と出てきたふたりを見て、屋敷を取り囲む人たちは、ざわつく。
 侵入者が、真正面から堂々と出てくるとは、思ってなかったからだ。

 この屋敷の周囲には特殊な結界、もとい、セキュリティシステムが施されていた。
 それを突破出来るのは、召喚者だけだった。
 マイ達ふたりが堂々と出てきたのは、その絶対防衛ラインがあるからだけではない。
 この周囲を取り囲む人たちを、全員返り討ちにする自信があるからだ。
 ふたりとも、それだけの実戦経験は積んでいる。

「あー、このまま投降すれば、君たちの罪は、軽くなる。
 こちらの言う事に、おとなしく従いなさい。」
 取り囲む人たちのリーダーとおぼしき人が、拡声器を使って呼びかける。
 10メートルも離れてなく、普通に話しても聞こえる距離にもかかわらず。

「ですって。どうする、マイ。」
「そんなもん、決まってるじゃん。」
「そうよね、マイ。聞いた私がバカだった。」
 マイとマインのふたりは、気持ち分腰を落とし、ソウルブレイドのクダを握る右手に力をこめる。

「あれ、白銀の魔女(しろがねのまじょ〕じゃないか?」
 そんなマインを見て、取り囲むひとりが口にする。
「む。」
 それを聞いて、マインは攻撃体勢を解く。
 マイもそんなマインを見て、同じく攻撃体勢を解く。

「し、白銀の魔女って、あの白銀の魔女か?」
「え、誰それ。」
「なんでこんな所に。」
「俺たちのかなう相手じゃねーぞ。」
「どうするんだよ、この状況!」
「そうだ、イツナを連れて来い。休暇中でこの星に戻ってるはずだ!」

 マインを見て、周囲はざわめく。
「はは、有名人なんだね、マインって。」
 マイは乾いた笑いを、するしかなかった。
「ほんと、心外だわ。なんで私が魔女なのよ。」
 マインはふくれる。

「だけど、どうしよっか。」
 さすがのマイにも、今の状況に気づく。
「まずったわね。」
 素性の割れたマインも、当然気づく。
 この場を切り抜けても、マインの素性は割れている。
 この惑星での犯罪行為は、今後もマインにつきまとう。
 ミサかジョーならば、マインの犯罪行為をもみ消す事は出来る。
 しかしミサ達は、10日間は何も出来ない。
 それでは、手遅れであった。

「おい、あれ、あれなんだっけ。」
 取り巻くひとりが、マイを指差す。
 白銀の魔女の噂がたった所で、屋敷の周囲を取り囲む人たちは、正面玄関前に集まっていた。
 その数は、20名を越える。
「あ、確か星間レースに出てたよな。」
「そうそう、グリムアの生ける伝説、ダントッパといい勝負してたよな。
 名前忘れたけど。」
「えと、真紅の衝撃はユアちゃんだし、」
「蒼い稲妻、じゃなかったか?」
「いや、あれ黒髪だから違うだろ。青くないし。」
「確か、こん、こん、金色の麗鳥(こんじきのれいちょう〕?」
「馬鹿やろう!それはリムちゃんだろ!」

「なんで、僕の名前だけ出てこないのかな。」
 聞いてて、マイは少しいらだつ。
「あら、あなたも有名人なのね。」
 魔女と呼ばれて悪い気しかしないマインは、その返しもどこか冷たい。
「でも、マインほどじゃないもん。」
 マイはふくれる。
 そんなマイは、気づいていない。
 マインが魔女と呼ばれるのを嫌っている事を。

「お、あったあった、期待の超新星マイだって。」
 誰かがタブレット端末で、調べてくれた。
 やっと自分の名前がでて、表情が明るくなるマイ。
「単純。」
 横でマインがつぶやくが、マイの耳には入らない。
「ああ、確かそんな名前だった。」
「そうそう、ユアのエキシビジョンライブにも出てたよな。」
「あのライブも、しびれたよなー。ユアを結構追い詰めててさ。
 俺もファンになっちゃたよ。」
「なんでそれで、名前が出てこないんだよ。」
「ほ、本人を目の前にして、緊張しちゃったんだよ。」
「それ、ほんとかよ。」
「あはは。」

「あら、あなたのファンがいるみたいよ。
 手でも振ってあげたら。」
 周囲のヤツらの反応を見て、マインは冷めた声で言ってみる。
 マイは満面の笑顔で手を振っていた。
「ほんとに振ってるし。」
 マインは小声でつぶやく。

「こうやって見ると、結構かわいいよな。」
「馬鹿やろう!リムちゃんの方がかわいいだろ!」
「マイちゃんだって、かわいいだろ。」
「それを言ったら、白銀の魔女だって、普通に美人だろ。」
「え?」
「おまえ、それ本気?」
「し、白銀の魔女が美人なのは、ほんとの事だろ。」
「た、確かに顔だけ見れば、美人だよな。」
「性格面に目をつぶれば、リムちゃんの次くらいに、美人かも。」
「ああ、うっとりするくらいには、美人だ。」

「ね、ね、僕の事かわいいだって。
 それにマインの事も、美人って言ってるよ。」
 かわいいと言われて、嬉しい気しかしないマイは、マインも美人と言われて、さらに嬉しい。
 しかしマインは、素直に喜べない。
「だったらなんで、私は魔女なのよ。」
「そうよね、マインはどちらかと言ったら、大天使じゃん。」
「え?私が大天使?」
 天使と呼ばれて、悪い気がしないマイン。

 敵対する者は、絶対許さない。
 自らの正義の鉄槌を下すそのイメージは、マイにとっては魔女と言うより大天使だった。

「みんなー、これからはマインの事、白銀の大天使って呼んであげてー。」
 マイはギャラリーどもに呼びかける。
「ちょ、ちょっとマイ、やめてよ。恥ずかしいじゃない。」
 と言いつつ、マインもまんざらでもない。

「大天使?」
「白銀の魔女が?」

 みんなすぐには、受け入れがたかった。
 しかし、元は美人であるマイン。
 マインに大天使のイメージは、すぐに重なった。
「おおー!」
 ギャラリーどもは、そのイメージに歓喜する。
「大天使だ!」
「白銀の大天使だ!」
「大天使!大天使!」
「大天使!大天使!」

 なぜか巻き起こる大天使コール。
「ちょ、ちょっと、やめてよ。」
「おお、大天使様がデレたぞ。」
「なんて神々しい。」
「くう、俺はリムちゃん一筋だけど、大天使様も捨てがたい。」

「おいこら、何の騒ぎだ!」
 ギャラリーどもは、この鶴の一声で静かになる。
 元は周囲を包囲してた20名くらいだったが、騒ぎを聞きつけ、いつの間にか百名を越えていた。
 イツナとやらを呼びに行って、戻ってきたリーダーは、ギャラリーどもをかき分け、正面玄関前に辿り着く。

「あなた達ですか、休暇中の私を呼び出したのは!」
 リーダーに連れられて来た、イツナと言う少女。
「いえ、呼んでません。」
 マイも大天使コールで盛り上がってたけど、それを潰されて、気持ちが冷めてしまっている。

「あれ、あなたは、マイさん?」
 イツナと呼ばれた少女は、マイに見覚えがあった。
 マイも、イツナに見覚えがある。
「あなた、確かゼロゴーよね?」
 それは、リムの教え子のひとり、ゼロゴー。
 訓練用のボディスーツのイメージと、私服でのイメージはかなり違った。
 と言ってもそれは、お着替えステッキを使ったマイ達も同じである。
「何やってるんですか、マイさん。こんな所でえ!」ごつん!
 マイに歩み寄ろうとしたイツナは、屋敷を取り巻くセキュリティシステムに拒まれる。
 不意に現れた見えない障壁に、身体を思いっきり打ちつけたイツナは、反動で尻もちをつく。
「ああ、ここって、関係者以外立ち入り禁止の結界が張られてるんだっけ。」
 マインは冷めた口調で言い放つ。

 マイとマインの腕から、二匹の子猫ロボットが飛び出す。
 二匹の子猫ロボットは、尻もちをついたままのイツナの両手に、それぞれかみつく。
 そしてそのまま、イツナを引っ張る。
「え、なに?」
 イツナは膝立ちのまま、子猫ロボットに引っ張られる。
 そして、セキュリティシステムの境界線を越える。
 それを見て、マインはつぶやく。
「関係者以外立ち入り禁止。
 彼女も、関係者になったって事か。」

 そしてマインは悟る。
 この子猫ロボットを持たせたのは、ジョーである。
 バカンスを楽しめとか言ってたジョーは、子猫ロボットを使って、この屋敷に自分達を誘導したのだろう。
 この屋敷にある、あのスティックを取ってこさせる為に。
 ならば、この騒ぎも予見してたのだろうか。
 何らかの対策は、取ってるのかもしれない。

「マイさん、この騒ぎはなんですか?」
 立ち上がったイツナは、マイに尋ねる。
 イツナはここに連れて来られた当初よりも、少しは落ち着いてた。
「それより、イツナって?」
 マイは、イツナの名前が気になってた。
 確か、リムの教え子のゼロゴーだったはず。
「ああ、ゼロゴーってのは、訓練中のコードネームですよ。
 私の本名が、イツナです。」
「へー、そうなんだ。改めてよろしくね、イツナ。」
 マイはイツナの両手を握る。
「ええ、よろしく、マイさん。」
 イツナもマイの手を握り返して、にっこりほほえむ。

「で、この騒ぎはなんなんですか。」
 イツナは声をひそめて、改めて尋ねる。
「実は、かくかくしかじか…。」
 マイは事の顛末を説明する。
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