上 下
206 / 215
地球へ

第206話 密入国

しおりを挟む
 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 この時代に召喚されたマイのクローンであるアルファは、この時代の地球を支配していた。
 その地球を取り戻すために、マイは召喚された。
 マイのアバター体が女性型である理由を、ジョーから聞いたマイとマイン。
 全ての疑問が明らかになったので、あとは地球に行き、アルファと対峙する事になる。
 地球は、マイ達の居る宇宙ステーションから、10億光年から75億光年の距離にある。
 距離が曖昧なのは、アルファが太陽系を全宇宙から隠してしまったためである。
 そう、地球の正確な位置は今の時代、全く分からないのだ。
 そんな地球への水先案内人が、シリウスアルファースリーに乗るベータだった。
 集団無意識に潜れる彼を中心にトライフォースを組めば、アルファの戦闘機、シリウスアルファーゼロと共鳴する。
 実体の無いベータが戦闘機に乗り込むには、サポートAIのアイに憑依する必要があった。
 そしてベータの憑依に耐えるには、アイの改造が必要だった。
 さらにマイとマインの戦闘機にも、地球に向かうための追加装備が必要だった。
 その準備には最低10日はかかり、マイとマインは10日間、暇になった。


 宇宙空間に、二機の戦闘機が駆ける。
「ひっさしぶりの、宇宙だね。」
 マイは久しぶりの宇宙に、大はしゃぎ。
「ちょっと飛ばしすぎよ、マイ。」
 そんなマイを、マインがたしなめる。

 ふたりが今乗る戦闘機は、シリウスガンマツー。
 いつもの戦闘機は、改良中で、乗る事は出来なかった。
 そんな訳で、10日間のバカンスを楽しむ事になった。

「だって、久しぶりにメドーラに会えるんだよ。」
 マイとマインは、メドーラがいるはずの、グリムア共和国へと向かっている。
「だからって、飛ばしすぎは危ないって。」
 マインはマイをたしなめる。
 今のふたりは、サポートAIのサポートを受けていない。
 それは、脱出用システムが使えない事を意味している。
 そして、ちょっとした情報のダウンロードも、ちょっとした戦闘のサポートも、受けられない。
 サポートAIのアイとミサは、ベータの憑依に耐えられるように、改造をほどこされている。
 マイとマインのふたりは今、この時代に来て初めて、自分ひとりで宇宙を飛んでいる。

「でも、10日しかないんだよ。
 下手したら、メドーラに会えないかもしれないし。」
 はしゃいでいる様に見えるマイは、内心焦っている。
 メドーラが今居る正確な位置は、分からないのだ。
 メドーラのパートナーである、サポートAIのアイツウ。
 マイ達がジョーとの会食を済ませて、部屋に戻った時、マイの部屋にアイツウは居なかった。
 そして、ナコの姿もなかった。
 このふたりは、マイ達の地球行きの準備に駆り出されていたのだが、マイもマインも、その事は聞かされていなかった。

 そんな訳で、メドーラに会うためのアポは、取っていない。

「少しは落ち着いて。
 この子達が案内してくれるはずでしょ。」
 マインの戦闘機には、一匹の子猫が乗っている。
 それは、マイの戦闘機にも同様だった。

 マイ達の乗るシリウスシリーズの戦闘機は、特殊な技法でないと、整備出来なかった。
 いつもはメカニックマンのジョーが使っている、膝くらいの高さの円柱形ロボットが、整備にあたる。
 この子猫は、その円柱形ロボットが変形した物だった。
 そして同じ子猫を、メドーラも二匹連れている。
 つまり、マイ達が連れている子猫達なら、メドーラの居場所が分かるかもしれない。

 そんな子猫達は、ある惑星の側で、その惑星をしきりに気にしている。
 この惑星は、ブロントサウルス座のイプシロン星系の第二惑星。
 元は生物も住めない荒野の惑星だったが、人類が植民用に改良した惑星である。
 しかしここは、ブルレア連邦の中。
 メドーラのいるはずの、グリムア共和国ではない。

「行ってみましょう、マイ。」
 マインは、子猫ロボットの導きに従う事を提案する。
「そうね、僕もこの子の反応が気になるわ。」
 マイも、マインに同意する。
「いいの?メドーラに会えなくなるかもしれないのに。」
 マインは、あんなにメドーラに会いたがってたマイを、気にかける。
「いいのよ。メドーラには、今でなくても会えるし。」
 そう答えるマイは、どこか寂しげだった。
「それに、今行かないと、絶対後悔するでしょ。」
 マイは、メドーラに会えなくて残念に思う気持ちを、マインに感じ取られてしまったと感じ、努めて明るく振る舞う。

「そうね、だったらこっちの用事を早めに済ませれば、メドーラに会いに行ける時間くらい、稼げるはずよ。」
 マインは第二惑星へと進路を変更する。
「待ってよー、マイン。」
 マイも慌ててマインの後を追う。

 この第二惑星は、イプビーナスと呼ばれている。
 イプシロン星系のビーナス〔金星)と言う意味からだ。
 しかし、植民開拓時に使われてた名称は、BB〔ビービー)。
 多くの人は、こちらのビービーと呼んでいる。

「ところで、マイって入国手続きって、した事ある?」
 惑星ビービーへの大気圏突入間近のタイミングで、マインはマイに尋ねる。
「にゅーこく?え、なに?」
 マイには、マイン言葉の意味が分からない。
「やっぱりね。」
 とマインはつぶやく。

 普通、どこかの惑星の空港に着陸する時は、その惑星に入る為の手続きが必要になる。
 まだ宇宙へと翔びたてない文明レベルの惑星なら、その限りではないが。
 普段ならサポートAIがやってくれるのだが、今のマイ達は、サポートAIのサポートを受けていない。

「実は、私もよく分からないのよね。」
 サポートAI任せなのは、マインも同じ。
 マインにもそのやり方は、よく分からない。
「なら、聞けばいいんじゃない、この惑星の人に。」
 マイは当然の事の様に言うが、マインはそれを否定する。
「それが出来れば、苦労しないわよ。」
「と言うと?」
「ここの入国管理官はね、気に食わない入国者を、何日も監禁する事で有名なのよ。」
「はあ?何よそれ。」
 マインの発言にマイは驚く。

「そのまま、衰弱死させた事例もある。」
「ちょっと、そんな事許されるの?」
「それが、許されるんだよ、この星では。」
「な、」
 マイは、思わず絶句。
「そんな証拠は、勿論隠蔽するし、バレてもしらばっくれる。」
「何よそれ。この星の司法はどうなってるのよ。」
「怪しい入国者が悪い。これがこの星の考え方さ。」
「はあ?疑わしきは罰せずでしょ。なんで僕の時代より酷くなってるのよ。」

 マイは思わずマインにあたってしまうが、これはマインには関係ない事。
 ただ、この惑星はそう言う所だと言う事。
 ならば、マイ達の入国方法は、ひとつしかない。
 そう、密入国だ。

 これくらいの文明レベルの惑星なら、使われなくなった人工衛星は数多く存在する。
 そのひとつを地表に落とす。
 同時に、マイ達の乗る戦闘機も、自由落下。
 地面に激突寸前に、地面に向けて特殊ミサイル発射。
 戦闘機の落下の、衝撃波を偽る。
 そして地面ぎりぎりで墜落を回避。
 戦闘機は、多次元空間の格納庫に隠される。
 そしてマイ達は、お着替えステッキで、この惑星の住人になりすます。

「うまくいったみたいね。」
 マイはお着替えステッキをマジカルポシェットにしまい、とりあえず安心する。
「まだ安心は禁物よ。」
 マインは子猫ロボットをだっこする。
 子猫ロボットは、子猫のぬいぐるみのふりをする。
 マイも同様に、子猫ロボットをだっこする。
 ふたりは今、街から遠く離れた山のふもとにいる。
 この惑星では浮遊スクーターが使えるので、ふたりはマジカルポシェットから取り出し、街を目指す。

 マイ達は、子猫ロボットの導きで浮遊スクーターを走らせる。
 子猫ロボットは、大きなお屋敷にマイ達を招く。
 そこは、街外れよりも少し離れた所にあり、お屋敷も長年放置されてるらしく、だいぶ荒れていた。

 子猫ロボット達は、勝手に屋敷の中に入って行く。
 マイ達も、慌てて後を追う。

 子猫ロボット達はとある部屋の本棚を、引っ掻いていた。
「はあはあ、勝手に入ってきちゃ、ダメでしょ。」
 息をきらせて追いかけてきたマイは、子猫ロボットを注意する。
 子猫ロボット達は、本棚を引っ掻き続ける。
「この本棚に、何かあるの?」
 マインは、子猫ロボット達の行為を気にかける。
「本棚って、まさか隠し通路があったりして。」
 マイは本棚に何かあると聞いて、そう連想する。
「それよ!」
 マインも、マイの意見に同意する。

「何か仕掛けがあるはずよ、よく探して。」
 マインは、本棚のあちこちをいじくり回す。
「そんなバカな。」
 マイは自分で隠し通路と言ったが、本気で言った訳ではなかった。
 マイは本の並びで、一冊だけ背表紙の色が違うのが気になり、その本を手に取ってみる。
 しかしその本は、隣り合う本のどこかにつかえてるらしく、引き出せない。
 マイはその本を上下にぐりぐりしてみるが、やはり引き出せないので、元に戻す。
 したら、突然ガゴンと言う音がして、本棚が右にスライドする。
 本棚がどいた場所には、地下へと続く階段があった。

 子猫ロボット達は、その階段を駆け降りる。
 マイとマインは、お互い見つめ合い、うなずく。
 そしてふたりも、階段を降りる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

ドレスを着たら…

奈落
SF
TSFの短い話です

Clavis X Chronus クラヴィスアンドクロノス

黴男
SF
東京の大学に通っていた普通の学生、三星治明(みほし はるあき)はある日突然、異世界に転生してしまう。 しかし、転生先はファンタジーの溢れる世界などではなく、シークトリアという名前の銀河に跨る星間国家。 しかも、治明は人間ではなくロボットに転生していたのだった。 シークトリアを含めて全部で七つある星間国家のうちの三つが連合軍を形成してシークトリアに攻め込んできており、シークトリアはプレトニアと呼ばれる星間国家と同盟軍を結成し、これに対抗している。 そんな情勢の中開発された人型のロボット兵器、『Chronus』。 そのパイロットとして開発・製造されたロボ、『Clavis』に転生したハルアキは、Chronus…クロノスに宿る親友の魂を見つけ、前世の親友と共に戦いへと身を投じる。 更新は月、水、金の週三日になります。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

タイは若いうちに行け

フロイライン
BL
修学旅行でタイを訪れた高校生の酒井翔太は、信じられないような災難に巻き込まれ、絶望の淵に叩き落とされる…

純白のガンブレイダー 〜TSアルビノ美少女、産廃職でエンジョイプレイします〜

神無フム
SF
睦月星空は、自分が男である事に違和感を抱えていた。 先天性アルビノの真っ白、病弱で小さい少女のような身体。 だけど性別は男の子であり、けして真の意味で女の子になる事はできない。 けして消えることのない違和感を抱えながら生きる彼は、それを唯一解決してくれる世界初フルダイブ型VRMMO〈ディバイン・ワールド〉を全力で謳歌し、ベータプレイヤー達からこう呼ばれていた。 美しき最強のガンソード使い〈純白のガンブレイダー〉と。 心ゆくまでエンジョイしたベータテスト期間の終了を迎えた星空は、ゲーム内で『世界』に問われる。 【──アナタは自分を修正しますか?】 これはTS美少女がエンジョイプレイし、少女達と織り成す新たなVRMMO物語。 毎日22時定期更新 小説家になろう様、カクヨム様、ノベプラ様にも掲載中

第二艦隊転進ス       進路目標ハ未来

みにみ
歴史・時代
太平洋戦争末期 世界最大の46㎝という巨砲を 搭載する戦艦  大和を旗艦とする大日本帝国海軍第二艦隊 戦艦、榛名、伊勢、日向 空母天城、葛城、重巡利根、青葉、軽巡矢矧 駆逐艦涼月、冬月、花月、雪風、響、磯風、浜風、初霜、霞、朝霜、響は 日向灘沖を航行していた そこで米潜水艦の魚雷攻撃を受け 大和や葛城が被雷 伊藤長官はGFに無断で 作戦の中止を命令し、反転佐世保へと向かう 途中、米軍の新型兵器らしき爆弾を葛城が被弾したりなどもするが 無事に佐世保に到着 しかし、そこにあったのは……… ぜひ、伊藤長官率いる第一遊撃艦隊の進む道をご覧ください どうか感想ください…心が折れそう どんな感想でも114514!!! 批判でも結構だぜ!見られてるって確信できるだけで モチベーション上がるから!

処理中です...