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地球へ

第180話 裁判ってひょっとして裁判官の思惑次第?

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 リムの教え子達との合同訓練を終え、転移装置で帰って来たマイとアイとナコの三人。
 マイの居る区画と、リムの居た区画は、同じ宇宙ステーションの中だった。
 この宇宙ステーションは地球の月程の大きさがあるため、遠い区画同士の移動には、転移装置を用いている。
 この転移装置の他、マッハ5で移動するシャトルバス、マッハ2まで出せる超高速道路がある。
 しかし近場でも瞬時に行ける転移装置が重宝され、物好き以外は、近場でも転移装置を使った。
 つか、そんな移動手段を使う人間は、限られている。
 ほとんどの召喚者は、自分の区画から外に出る事はない。
 つまり物資移動用にしか、転移装置以外の移動手段は、ほぼ使われていない。
 そんな転移装置からアイが戻って来た時、ミサから連絡が入る。
 マインが目覚めた事。アイとだけ会いたい事。
 マインがアイとだけ会いたい理由に、アイは心当たりがあった。


 アイはメディカルルームの扉を開け、中に入る。
 マインが液体漬けにされていた装置に、目を向ける。
 しかしそこに、その装置はなかった。
 アイが辺りを見渡すと、ミサの姿が目に入る。
 ミサの目の前には、カプセル型ベッドがあった。
 恐らくそこに、マインが眠っているのだろう。

 アイに気がついたミサは、軽く右手を上げる。
 アイも右手を上げて、ミサに応える。
 アイはそのままミサに近づくと、カプセル型ベッドで眠るマインを見る。
「まだ寝ているようね。」
 穏やかなマインの寝顔を見て、アイは小声で声をかける。
「ああ。だが、直ぐに目が覚めるぞ。」
 とミサは答える。

 以前マインが液体漬けになってた装置は、召喚者の魂を固定させるための物。
 そして今マインが眠る装置は、アバター体の急速修復装置。
 急速睡眠も取れるこの装置なら、アバター体の全快とともに、マインの目が覚める。

「どうやらそのようね。」
 アイもマインの現状を理解する。
「さて、マインがマイを怖がる理由だが、あれしかないよな。」
 とミサは早速本題に入る。
「あれ、ですよね。」
 とアイが相槌をうつ。
「でも、あり得るのか、そんな事。」
「待って。」
 アイとミサとの会話を、マインが邪魔をした。

「マイン、目が覚めたのね。」
 マインの覚醒に喜ぶアイ。
 対してミサは、黙ったままだ。
 カプセル状のふたが足下まで下がると、マインは上体を起き上がらせる。
「大丈夫なの、もう動いて。」
「ええ、この通り私は元気よ。」
 心配するアイに対して、マインはソウルブレイドのクダを右手に持つ。
 そしてそのまま、ソウルブレイドのクダを右手の周りを、器用に回らせる。
「見事なモノね。」
 マインの達人芸をほめるアイ。
 マインがクダをパシっと掴むと、ソウルブレイドは鞭に展開する。
 マインが手首を軽くひねると、鞭はアイの身体に巻き付く!
「こ、これは。」
「ジャッジメントウイップ。」
 驚くアイに、マインはそう答える。

「ジャッジメントウイップ?」
「あなたを裁く、司法の鞭よ。
 あなたが有罪と判決された時、あなたを引き裂くわ。」
 と言ってマインは、鞭を握る手に少し力を込める。
「ぐっ。」
 アイに巻き付く鞭が、少ししまる。

 ソウルブレイドから展開された武器は、ただの武器ではない。
 文字通り精神力を込めた武器であり、この鞭には、確かにアイの身体を引き裂く威力がありそうだ。

「これ、あなたの思い通りに答えないと、私は死ぬって事?」
 鞭に締め付けられる中、アイは質問する。
「ジャッジメントウイップよ。
 真実を語るなら、あなたは許されるわ。」
 とマインは答える。
「な、なら、その名を変えた方がいいわね。」
「訳分からない事を言うな!」
「ぐっ、はぁ。」
 マインは更に力を込める。

 ジャッジメント。
 それは判決を下す者の意思で、どうにでもなる。
 アイはそれを言いたかったのだが、マインには伝わらなかった。
 マインは、真実を捻じ曲げた者が裁かれると、思っていた。
「よせ、マイン。
 真実を聞き出す前に、アイを殺す気か。」
 慌ててミサが止めに入る。
「そうね、くだらない挑発に乗りすぎたわ。」
「くはぁ。」
 ミサの言葉に、マインは鞭をゆるめる。

 どこが挑発なのよとアイは思ったが、言わなかった。

 アイの呼吸が整った頃を見計らって、マインは本題に入る。
「アイ、正直に答えなさい。
 マイって、本当は男なの?」
「分からないわ。」
「分からない?」
「ぐっ。」
 アイの答えに、マインは鞭を握る手に力を込める。

「よせマイン。」
 堪らずミサが止めに入る。
「アバター体はその魂が、23歳当時の姿で造られる!」
「なら、そう答えればいいでしょ!」
 ミサのフォローも、今のマインには届かない。
「マイのアバター体は、ジョーが作った。
 だから、分からない。」
 責められるミサをフォローするように、アイは言う。

「何?」
 これにはミサも驚いた。
「普通は、召喚される魂を基準に、フルオートで造られるはずだぜ。
 なんで、あいつが造ってんだよ。」
「そう。ならばなぜ、ジョーはマイをあの姿で造ったのかしら。
 知ってるんでしょ、答えなさい!」
 マインは鞭を緩めない。

「それは、マイの性格がそうだったから。」
「性格?」
 アイはマイのアバター体が造られた経緯を説明する。
「マイの性格は、女の腐った様な性格。そして女々しい!」
「はあ?」
「ぐはっ。」
 アイの答えに、思わずマインは鞭の力を込める。
「やめろ、マイン!」
 止めに入るミサは、マインが鞭を握る手を逆にひねり、アイの鞭の締め付けを、緩めにかかる。
「止めないでよ、ミサ。こいつは嘘をついたのよ!」
 マインは引き下がらない。
「こいつは、マイが男だって知ってた!
 許さない、有罪よ、有罪!」
「ぐっ。」
 アイの身体を締め付ける鞭は、さらにアイの身体に食い込んでいく。

 そろそろアイの限界は近かった。
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