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地球へ

第176話 面白そうなネタもボツった方がいい時もある

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 北部戦線での激戦は終わった。
 その終戦にひと役買ったマイであるが、過去の時代からの召喚者であるマイを、認めない人達もいた。
 マイの手近に居たのが、リムの教え子達であった。
 リムは北部戦線での戦いで、アバター体に異常をきたし、脱出用システム前提の戦闘が、不可能になった。
 そこで、新人パイロットの教官任務に就く事になった。
 この教え子達にマイの実力を示すべく、マイと教え子達は、戦闘機用シミュレータで対戦する事になった。
 リムはマイに対して、色々妨害し、勝負が接戦になるようにしむけた。
 しかし、そんな邪魔が入っても、マイの勝利はゆるがない。
 そして対戦後、マイは怒る。
 この機体で、教え子達を戦場に出すのかと。
 こんな機体なら、戦場に出た瞬間、死ぬ。


「ふ。」
 リムはマイの発言に対して、目をつぶり、軽く笑う。
「北部戦線で戦ったあなたなら分かるでしょ。
 あの戦場だったら、何も出来ずに死んでるわ。」
 リムの落ち着いた素振り。
 それがマイを激昂させたのだが、今は逆に、マイも激昂した感情が静まっていくのを感じる。

「いきなりそんな戦場に出すつもりはないわ。
 安心して。」
 とリムは答える。
「どう言う事?」
 マイにはリムの言葉の意味が分からなかった。
 マイは程度の差はあれ、そんな戦場にしか出ていない。
「んー、これはね。」
 言葉につまったリムは、ジョーを見る。
 この先の説明を、マイにしていいのか判断がつかなかった。

「ああ、召喚者と現代人とでは、ポテンシャルが違うんだよ。」
 と、ジョーはリムの説明を引き継ぐ。
「あらジョー、居たの。」
 ここで初めて、マイはジョーの存在に気がつく。
 ずっこけるジョー。
「おいおい、俺はマイのピンチには、いつでも駆けつける男だぜ。」
 と言って、右手をマイの左肩に置き、ニヤりとほほえみかける。
「ちょっと、やめてよ。」
 マイはジョーの手を払いのける。
「俺とおまえとの仲だろ。」
「し、知らないわよ、そんな仲。」

 マイに馴れ馴れしく接するジョーに、教え子達はショックを受ける。
「嘘、あのイケメンの人がなぜ?」
「召喚者なんて、未開の野蛮人でしょ。」
「信じられない。」

「野蛮人?」
 マイは教え子の誰かが言ったその言葉に反応する。
「誰よ、今僕の事野蛮人って言ったの!」
 マイはジョーを跳ね除け、教え子達をにらむ。
 教え子達は黙って下を向いていたが、ひとり、前に進み出る。
「私です。
 私が過去の時代から、この時代に来てまで戦争するあなたを、野蛮人って言いました。」
 進み出たのは、ゼロゴーだった。
 だけど、先程の野蛮人と言った声とは違う事に、マイは気づいていた。
 だけど今のマイには、関係なかった。
 このゼロゴーの言葉こそ、教え子達の共通認識なのだろう。

「どっちが野蛮人よ!」
 とマイも言い返す。
「過去の時代の人間を連れてきて戦争させるなんて、どっちが野蛮人よ!」
 マイの発言に、教え子達はたじろぐ。
 そんな発想は無かったからだ。
「僕はね、平和ボケな時代から召喚されたのよ。
 どっちが野蛮人よ!」
 この発言に、教え子達は今度はキョトンとする。

「説明がいるわね。」
 ここでアイが説明をかって出る。
「確かに人類の歴史は、戦争の歴史。
 有史以来、戦火の途絶えたためしはない。」
 この説明に、教え子達もうなずく。
「でもね、地域と時代のタイミングがあえば、戦争を知らないで一生を終えた人達も、大勢いたのよ。」
 この説明に、教え子達は驚く。
 実際に今現在、戦争と無縁な人間はいないからだ。
「マイは今、平和ボケと言う言葉を使った。
 つまり、マイの時代にも戦争はあったけれど、マイは戦争を知らなかったのよ。」
 この説明に、教え子達はうつむく。

 どっちが野蛮人なのだろう。
 教え子達は、分からなくなってきた。
「科学技術が発展した時代でも、まさか戦争してるなんて、思わなかった。」
 とマイはつぶやく。
「あなた達の方こそ、」
「マイ、そこまでだ!」
 マイの発言を、ジョーが制する。
「その発言は、マイ、おまえにも刺さる。やめておけ。」
「どう言う意味よ。」
 マイにはジョーの言葉の意味が分からない。

「マイ、召喚される者は、戦いたい欲求があるヤツが選ばれる。」
 と言って、ジョーは真剣な表情をマイに向ける。
「マイ、おまえに戦いたい欲求が無かったとは、言わせんぞ。」
「そんなの、ある訳…」
 反射的に反対意見を述べようとするが、マイは言葉につまる。
「…ずるいよ。」
 とマイは小声で反論。
「僕が召喚前の記憶が、曖昧なの知ってるくせに。」

「だけど、反論は出来ない。」
 とジョーはマイの感情をえぐる。
 マイはうつむいて、何も言えなくなった。
 そんなマイを、アイは優しく抱きしめる。
 マイからは、かみころした嗚咽がもれる。

 そんなふたりを見て、ジョーは話題を切りかえる。
「つまり、ここに居るのは、みーんな野蛮人って事さ。」

「ふ。」
 そんなジョーを見て、リムは目を閉じてニヤける。
 ジョー、うまくはぐらかしたな。
「はい、この話しはおしまいね。」
 リムは目を開けると、にこやかに歩み出す。
 そしてアイに抱きつくマイの横で、立ち止まる。
「マイ、あなたの戦闘データは、取らせてもらったわ。」
 マイは反射的に、リムの声に視線を向ける。
 しかしマイが見たのは、リムの右顔。
 眼帯に隠れて、その表情は、読み取る事が出来なかった。

 リムはそのまま歩き続け、教え子達と合流する。
「さあみんな、今のマイの戦闘データを仮想敵として、勝てるようになるわよ。」
「はい、リム教官!」
 そしてリムは、マイの方を振り返る。
「マイ、今日は付き合ってくれて、ありがとう。
 私達は、これで失礼するわ。
 さあ、みんな。」
 リムの言葉に、教え子達は横一列に並ぶ。
 そして一番右端の教え子がひと言。
「マイさん、今日は私達の為に御足労いただき、ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
 他の四人も復唱すると、一斉に頭を下げる。
「あ、ありがとうございました。」
 マイもつられて、頭を下げる。

「おっと、待ちな。」
 このまま解散になりそうな流れを、ジョーが断ち切る。
「今日の対戦内容の口外は、禁止な。」
 と言ってジョーは、右手の手のひらの上に、小型ドローンを取り出す。
 小型ドローンは浮かび上がると、その姿を消した。
「こいつが、君たち五人を監視している。
 口外するそぶりがあったら、こうなる。」
 ジョーの言葉に突然、ジョーの右手の手のひらから浮かんで消えたドローンから、レーザービームが放出される。
 このレーザービームは、今は修理中の、ゼロスリーが使ってた戦闘機用シミュレータを直撃。

 教え子達は、ゾッとする。
 今ジョーが見せた透明の小型ドローンが、五人に一機ずつ、憑いているのだ。
「大丈夫よ、安心して。
 私が口外させないから。」
 と、リムは答える。

 そしてリムと教え子達は、この場を後にした。
 いやひとりだけ、マイの元に駆け寄る。
 ゼロゴーだった。
「あ、あの、マイさん。」
 ゼロゴーはマイに声をかける。
「や、野蛮人なんて言って、すみませんでした!」
 ゼロゴーは、マイに対して頭を下げる。
「あ、その話しは、もういいから。」
 マイは戸惑う。
「ほ、ほら、僕達って、自分で気がついてないだけで、野蛮な事には変わりないでしょ。」
「で、ですが。」
 頭を上げたゼロゴーは、少し戸惑う。
「それよりも、リムの事だけど。」
 マイは真剣な表情で、ゼロゴーに話しかける。
「リム教官の事ですか。」
 ゼロゴーは聞き返す。

「今のリムは、信じきらない方がいい。」
「え?」
 マイの言葉に、ゼロゴーは驚く。
「僕も、リムの助言に助けられた事は、何度もある。
 だからリムの教えは、絶対正しいと、僕も思う。」
 ゼロゴーは、きょとんとしている。
 マイの発言の真意が、いまいち分からない。
「僕はここに、君たちの鼻をあかしてほしいと、リムに呼ばれた。
 でも、実際の結末は違った。」
「!」
 今度のマイの発言は、ゼロゴーも感じるものがあった。

 北部戦線を終戦させたマイ。
 しかし、過去からの召喚者に遅れを取るなと言ったのは、リム教官だ。
 そんなリム教官が、マイには教え子達の鼻をあかせと言った。
 これは、何を意味するのだろう。
 しかしゼロゴーは、考えるのをやめる。
 この疑問は、マイの域に達して、初めて感じるものだろう。
 まだまだ未熟な自分には、まだまだ関係あるとは思えない。

「マイさん、今日はありがとうございました。」
 ゼロゴーは、右手を差し出す。
 マイはその手を握る。
「マイさん、私はあなたの域に、追いついてみせます。」
「うん、僕も一緒に飛べる日を、楽しみにしているよ。」
 ふたりは、にこりとほほえみあう。

 ゼロゴーは手を離すと、マイに軽くおじぎする。
 そして踵を返すと、仲間達の元へと駆け出した。

 この場を立ち去るリム。
 リムは久しぶりに再開したはずのパートナー、ナコと言葉を交わす事はなかった。
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